返済の折には
今日も昨日と同じくシーツを引っペがされる朝であった。
華麗にベッドメイクを施されて二度寝も許さない綺麗な形だ。
やる事をやったリュリーティアさんはさっさと降りていってしまったので俺も着替えて後に続いていった。
朝食はリュリーティアさんのリクエストで皮がサクッと心地よいクロワッサンと紅茶だ、クロワッサンに使われているバターの香りが食欲を刺激する。
紅茶はクロワッサンに合うサシャさん特製ブレンドティーときたもんだ、多才な人だなぁ。
とても優雅な朝食となりました。
さてと今日はかの悪党ドランの元にフラウさんの借金を返済しに行くわけだが。
何しろ部下があんな奴らなので、確実に何か起こるだろうと踏んでいる。
教会の件も少し問いたださないとならない。
その為に軽い作戦会議をしておこう。
「何かいい案はありますかー?」
「はい!」
「はいシャルルくんいい返事だね、どうぞ」
「えっとねー、何か起こったらトージが頑張ればなんとかなるよ!」
「うーん無責任、行き当たりばったりってことねー」
「ハイですわ」
「よしリュリーティアさん、どうぞ」
「ぶっ飛ばせば解決ですわ」
「アナタこの町の騎士ですよね!?」
「人には戦わねばならない時があるものなのですわ……」
「きっとそれは今じゃないと思うなぁ!」
「でしたら闘司さんは何か良い案でもありますの?」
ふむ……ならば答えてみせよう。パーフェクトな作戦ってやつをよぉ!
「……各員、戦闘を前提として油断なく全力で事に当たるように」
今日も今日とて薄暗い路地にひっそりと構える肉屋ギガントミートにやってきた。
二人の店員さんの挨拶が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ皆さん」「いらっしゃいませ!」
「こんにちはフラウさん、リズちゃん。約束通り来ましたよ」
「ええ今日は申し訳ないけどお願いするわね……」
「本当に申し訳ないなんて思わなくて大丈夫ですから! 俺が勝手にやってるだけなんですよ。それで、ドランがいる場所は何処なんですか?」
「ありがとう闘司くん……。えっとね、ドランさんは東門の近くの建物に住んでいるの、そこに行けば会えるはずよ」
東門というと俺達が町に入ってきた時の門のことか、その近くにドランが待っていると。
「早速で悪いんですけどそこまで案内をお願いします」
「分かったわ、リズ、お母さんドランさんの所に行ってくるからそれまでこの店でお留守番しておいて。誰か来てもお母さん達以外だったら出ないようにね?」
「うん! 闘司お兄ちゃん、シャルルお兄ちゃん、リュリーティアお姉ちゃん、お母さんをよろしくおねがいします!」
「もちろん。何かあってもお母さんは絶対に俺達が守るから安心してリズちゃん」
リズちゃんの頭を撫でて安心させてあげると、ニッコリと笑顔を浮かべてくれた。
この子の笑顔を歪ませないようにしっかりと問題を解決してくるとしよう。
「それじゃあ行ってきます」
「お母さんいってらっしゃい!」
戸締りをしっかりとして外に出る。
路地を抜け噴水広場へと出てきた。
そのまま東門の方へと歩き出し、なんとはなしに聞いてみる。
「前もお一人でドランのところに来たことあるんですか?」
「いえ、前は旦那が伺っていましたの……でも病気で亡くなってしまって……。それから代わりに私が借金の返済をするために伺った事が何度かあるのよ。結局返せなくてこうして闘司くんに頼ることになっちゃったけど」
おぉう……聞いてはいけないことを聞いてしまった。
バカか俺は、フラウさんが無理して笑顔を浮かべているのが余計に心に刺さる。
「ご、ごめんなさい辛いこと思い出させてしまって……」
「いいのよもう大丈夫だから、ね?」
俺が今何を言ってもフラウさんを傷つけてしまいそうなのでこれ以上言葉が出なかった。
少し暗い空気になってしまった、するといきなりシャルルがフラウさんの手を握った。
「フラウ、もう大丈夫だよ!」
「シャルルくん……ありがとう」
どんな意味の大丈夫かは分からないが、シャルルに声をかけられたフラウさんは、無理した笑顔ではなく自然とした微笑みへと変わっていった。
シャルル、すごいな。
そのまま親子のように仲良く手を繋いで歩いていくシャルルとフラウさん、そして1つの建物の前で立ち止まった。
「ここが、そうよ」
目の前にあるのは周りと何ら変わらない一軒家だった。
本当にここなのかと疑ってよーく家を観察してみると。
[ドラン宅]
表札のようなものにデカデカと名前が書いてあった。
周りは金色に作られ装飾品が施されている。
一瞬こいつは馬鹿なんじゃないかと思いそうになったが、そんな筈は無いだろうと、この考えを頭の片隅に封印しておく。
そうだ、悪いことをしているからこそ外観は普通を装って目を欺いているんだな、きっとそうだ。
この表札は……そう、あれだ、荷物とか受け取るのに……必要、じゃん?
「闘司さん何をそんな面白い顔をしているんですの? 突っ立ってないで中にお邪魔しますわよ」
俺以外は普通にしているから俺の感性がおかしいのかと思ってしまう。
ノックをして中に入ると、中も外観同様特に普通で強いていえば家具は少ないくらいである。
誰もいない部屋に向かってフラウさんが訪ねた旨を伝えると、二階に上がる階段から声が聞こえてくる。
「客人よ、すまないが二回の部屋まで来てくれないか! そこで話をしよう」
低音で響く声がドランという男の容姿の想像を膨らませていく。
少なくとも優しそうなイメージはできない。
フラウさんを先頭に次いで俺、シャルル、リュリーティアさんと並んで二階の部屋に向かう。
階段を上がると扉は一つしかなくそこが目的地だと分かる。
覚悟を決めてドアノブを回し部屋に入る。
するとそこには異様な光景が広がっていた。
「は……? ピンク……?」
ここだけ異空間なのではないかと思うくらいピンクの部屋だった、天井はピンク、壁もピンク、床だけ普通なのが一層ピンクを引き立たせている。
さらに極めつけは至る所にぬいぐるみが飾られていた。
羊のようなモノとか、鳥のようなモノなど数えるのも面倒なくらいの数が飾られている。
「来てもらってすまない、生憎出迎えられる人手がいなくてな……。立ち話もなんだ、そこのソファにすわって……く……れ?」
この異空間の主のドランは、強面のいわゆるカタギじゃない人のようで、背も座っているけど高いであろう事がひと目でわかる程だ。
そのドランは俺達にソファに座るよう促したが途中でシャルルを見て固まってしまった。
一体どうしたというのだ?
「か……」
「か?」
「可愛いぃいいいいい! なぁにこの子とっても可愛いわ! ウソ! なんでこんな可愛い子がいるの!? アナタこの町の子じゃないわよね!? そうよそのはずだわ、この町の可愛い子はアタシ全部チェックしているもの間違いないわ! ね、ねぇちょっとアナタもう少し近くで眺めてもいい?」
「やめろこの変態野郎ぉ!!」
「べぶしぇっ!!」
はっ!? ドランがシャルルに恐ろしい視線を向けていくので咄嗟に殴ってしまった。
シャルルの危険により人生で恐らく一番の腰の入ったパンチを叩き込んでしまったからかドランは起き上がらない。
俺達全員この状況についていけず立ちつくしている、がいち早くフラウさんが動いた。
「と、とりあえずドランさんを起こしましょう。闘司くんソファに運ぶの手伝ってくれる?」
「は、はい!」
ドランをソファに寝かせて様子を見る。
家に入る前の封印した考えが今引っ張り出されてきた。
不安しかない話し合いが始まる予感がする。
「ん……んぅ……。イタタタ」
「あっ起きましたかドランさん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫よ……いや大丈夫だ。すまない、ちょっと取り乱したようだな」
アレがちょっと取り乱したというのか?
ドランは頭を振って気持ちを切り替えたのか、最初のような威厳ある感じを出している。
「それで、今日は何の用だ?」
だけどチラチラとシャルルを見ているのがバレバレなので威厳もクソもない。
当のシャルルは別段気にした様子もなく普通にしている。
「それが……今日は借金を返済しに来たのです。」
「ん? 借金? あぁ……ああそうか、すまないな。別に急がなくても良かったんだぞ?」
「へ? い、いやでも期日がありましたし早めに返した方がいいかと……」
「期日……? まぁ返してくれるなら断りはしないが、で、いくら返済するんだ」
「あ、あの全額、ですけど」
「全額!? そ、そうか店の経営もあるだろうに……で、確か残りは銀貨五十枚だったか?」
「「へっ?」」
はい? 銀貨五十枚? 金貨百枚じゃないのか?
フラウさんを見ると、フラウさんは首をプルプルと振っている。
これはもしや何か勘違いが起こっているのでは?
ドランが俺達の様子がおかしいのに気づいたようでソファから立ち上がり机の引き出しから書類を取り出してくる。
「む、やはり銀貨五十枚で合っているよな。ほら、この書類にもちゃんと記されているぞ」
「本当だわ……旦那の名前も……いやでも、この書類には金貨百枚って書いてありますわ!」
「金貨百枚!? 誰がそんなバカげた大金持っているっていうんだ! ちょっとその書類を見せてくれ……フラウさん、この書類は偽物だ。判も押されてはいるがコレは俺の字ではない。一体誰がこんな書類を?」
「え、えっと……」
「クズトリオですわ」
リュリーティアさんが会話に混じってきた、サラリと上司の目の前で部下をクズトリオ呼びとは……。
「クズトリオ……? もしかして、ラット、リット、ロットの事か? 嘘だろ……あの馬鹿ども……。どっか行って帰ってこないと思ったら……」
「あのクズトリオたちがフラウさんの店に来てやんちゃしたので私が捕まえておきましたの。危ないところでございましたのよ?」
「いや本当に、本当に申し訳ない。こんなバカげた書類だけじゃなく乱暴までするとは、なんとお詫びすればいいのか……」
ドランは申し訳なさそうな表情でフラウさんに頭を下げている。
俺の中のドランというイメージとかけ離れた姿に驚いている。
「い、いえそんな、あの、ドランさんはこの事を全く知らなかったのですか?」
「ああ……借金自体はもちろん把握していた、フラウさんの旦那とは何度か会って話しもしていたしな。でも病気で亡くなったって知らされてな……。妻と子供もいるし店もあるってのに先立っちまって、返済なんか大変だろうと思い催促なんかしなかった。もちろん期日も無かった、だがあの馬鹿どもが勝手にそんな事をしていたのは知らなかった。申し訳ない」
そうか、事実はそういう事だったんだな……。
「お詫びと言ってはなんだが、借金は無かったことにしてもらって構わない。それぐらいの事を俺の部下がしてしまったんだ。もしもの事がなくて本当によかった……」
「え!? そ、それは悪いですよ!」
「そうですわ、危うくそこのシャルルさんも危なかったんですわよ」
「ほう……? そうかそうか、あの馬鹿ども……こんな可愛い子をなぁ……ほぉ……。殺すか」
「いいですわね」
待って! 二人して意気投合しないで!!
二人の目がマジだったので流石に止めなければならない気がした。
殺気を放つ二人を宥めて落ち着いてもらう。
「そういえば気になっていたんだが、お前達は誰なんだ?」
「ああそうだった、俺は八代闘司、フラウさんの知り合いで借金の肩代わりをしに付いてきたんだよ」
「お前が金貨百枚代わりに払いに来たってのか、お前貴族か何かなのか? とてもそうは見えないが」
「まぁちょっとコネがあってお金があったんだ。んで、こちらがこの町の騎士のリュリーティア・アルチュセールさん」
「どうもですわ、クズトリオはクズトリオでしたがアナタは良識ある方のようで安心しましたわ」
「これはこれは、この町の騎士様だったか。今回の件は助かった、礼を言おう」
最後はシャルルの紹介なのだが、ドランは凄いワクワクしたように待っている。
紹介しない訳にはいかないよなぁ……。
「んで……こっちの男の子が、シャルル。お、れ、の! 旅仲間だ」
「はーいシャルルだよ! トージの旅仲間だよー!」
「う、む……宜しくな、シャルル、くん。ダメだわ、可愛いすぎる……。ちょっと眺めていい?」
「埋めるぞ」
「えー、ボクは別にいいよー?」
「なっ?! いいのか!? 危なそうだぞ!?」
「だってなんかトージに似てるから大丈夫だよ!」
ぐはぁっ!! 嘘だっ!! こんな、こんな感じなの、俺ってこんな感じなのか!!?
なぁリュリーティアさん!? うんうんと頷かないで!
なぁフラウさん!? 困った顔で微笑まないで!
いやー……嘘だろー……俺こんな気持ち悪い感じだったのかー……ショックだ……。
眺めて満足したのかドランさんは俺と目が合う。
その同士を見るような目をやめろぉ!




