夜に
上手く書ききれたか自信がありませんが、新話投稿致します。良かったら見てくださいませ。
七尾城ーーこの城は1429年に室町幕府の初代能登守護代畠山満慶により築かれた山城である。
築かれた当初は砦や曲輪が少しあるだけで城の役割は果たしてなかった。その後、室町幕府の動乱期、足利義詮、義政の時に全国を巻き込んだ戦乱に巻き込まれ、何度も改修が成された。改修を繰り返して行く内に規模は徐々に拡大していき、1549年ごろには「天空の城」と呼ばれても遜色ないまでの堅城と化した。
長きに渡る戦で鍛えられた無骨な大曲輪や堀は侵入者を拒絶するかのように悠々と山高く聳え立つ。
城主は未だ子供特有の幼さが抜け来れてないが、目は大人のそれをしている畠山春王丸と言う少年武将である。
春王丸は能登より追放された父の家臣達に祭り上げられ、城主になった所謂傀儡大名でもある。しかし、春王丸は若年ながらも自分の置かれた状況を理解した上で七尾城に迫る危機を回避せんとしていた。
七尾城は山城なので、山の上にあるのだが、麓を見ると優に二万は超える大軍勢が「毘」と昇り竜の旗を掲げながら山周辺を囲んでいた。
毘の旗を掲げた軍は上杉不識庵率いる越後の兵である。畠山勢を此処で滅さんと気勢を天高くあげている。
まだ上杉が七尾城を包囲してから2〜3日しか経ってないが城兵方の士気は下がっている。兵らが上杉勢の強さに及び腰になっているからだ。
上杉不識庵は七尾城を包囲する前に、能登の諸城を櫛を削ぎ落とすが如くの早さで攻め落とした。僅か十日の間に五を超える城が落城したので越後勢の精強さを畠山方は思いしらされた。
頼みの織田は越前の柴田修理らと合流し、後十日間で七尾に着くと使いが来た。その数四万、七尾城に篭るのは二千余、充分勝機はある。問題は遊佐継光ら降伏派である。今は対立する長連龍が抑えているが、一つ間違ったら七尾は落ちる。
そういう危うさを抱えながら七尾城は攻城戦に臨む。
「これが七尾城…流石は北陸一の城と称えられるだけはある。」
感嘆の言葉を吐いたのは上杉不識庵謙信その人であった。
謙信は七尾に着陣するや、自ら馬を引き、七尾城の眼前まで一騎駆けした。
勿論、謙信のこの行動は今に始まった事ではないので、謙信の後ろには上杉景勝、上杉景虎、小島貞興、河田長親、中条景泰、直江景綱らが馬を揃えて並び立っている。
「景綱、この城は固いな。」
「全くです、この城相手では頼みの越後兵も活躍の場を奪われるかもしれませんな。」
掠れた声ながらも力強い声で景綱は応える。
「うむ。さて、皆の者、如何に攻める?」
謙信の問いかけに応えたのは上杉三郎景虎だ。
「義父上、この城などうち捨てて我等は迫り来る織田に対抗すべきでしょう」
「三郎は織田に対するか、他には?」
「軍をわざと七尾城より引かせ、敵が出て来たら此れを攻め、一気に城を落とすべきです」
「長親か、主の意見も尤もよ、他にはおらぬか?」
謙信は諸将を一瞥するが、他には意見が出ないのを見てとった。
「三郎と長親の意見、誠に理に叶う。だが、相手は魔王織田信長、聞く所によると信長は後十日くらいで此処に着く。よって、八日間で七尾城を攻め落とす。良いな。」
『ははっ』
諸将が頷いたのを見て、その日の評定は終わった。
夜の帳が落ち、辺り一面が暗く成り、松明を付けないと周りが見えなくなる夜。
誰も居ない草原に上杉喜平次景勝は一人でただすんでいた。
星空を見つめる景勝の目には涙がほのかに流れていた。
景勝は絞り出すような声を出した。
「信綱殿……」
景勝の師でもあり、新陰流の開祖でもある上泉信綱は越後が雪に覆われる頃、1577年2月に大往生した。信綱は死の一年ぐらい前から少しずつ体調を崩していた。
転生者である景勝は信綱の寿命の事も知っていたので無理をしないようにと信綱に言ったが、信綱は頑として聞き入れなかった。
信綱は自分の余命が幾ばくも無い事を既に悟って居たので命を燃やし尽くし、景勝に新陰流の深い所まで教えた。
信綱は死の直前に、「我が新陰流に連なる人物で重要な人が居ります。景勝様が上杉の当主と成られた折には常陸の佐竹義重殿にお会いなされる事をお勤め致します。義重殿は我が師、愛洲久忠殿が仕え、技を伝授した武人。私も各地を放浪した折に試合をしましたが、その技量足るや、天下に有数の業を持っています。また、義に篤き人であり、信用に足る人でございます。」
と、佐竹義重について詳しく語ってくれた。佐竹義重、戦国で関東地方と東北地方を語るならば必ず出て来る武将だな。
義重は初陣の時に敵兵五人を一刀の元に斬り捨てたと言う逸話を持つ人だから、その戦闘力は凄まじいものがあると僕は見ている。
義重が居る佐竹は必ず味方にしなければな、そうしないと僕は生き残れないな。
「景勝様……お願いが御座ります。」
苦しそうに咳をしながら信綱が僕を見た。
「生きて下さりませ、この先どんなに苦しい事、辛い事、悲しみがあろうと、泥に塗れ、人に頭を下げる事があろうとも、生きて、生きて、生き抜いて下さい。それが信綱最期の願いで御座います。」
「信綱殿、何故私に生きて居て欲しいのか?この戦乱の世だ、私も戦で落命する事もある。其れでも尚、私に生きろと。」
『天下一統』
「天下……一統…」
「天下を一つに纏める意味ですが、この戦乱に塗れた世界が一統されたならば、どんな世界に成るのか、それを見届けて欲しいのです。戦なき世、其れを見る事は私には出来ませぬ、景勝様にはそれを代わりに見届けて欲しいのです。」
信綱殿も戦なき世を望んだ平和を求める人の一人だったのか……
「信綱殿、喜平次景勝の名に誓い、必ず天下一統の世を見届けよう。安心成されませ。」
「おお……ありがとうござります。少し疲れました……」
「今日はゆっくりと休みなされませ。」
僕は部屋をゆっくりと出た。
天下一統、天下を一つに纏めるか、それまで必ず生き残り、泰平の世で僕は隠遁生活を送るんだ!
信綱が死ぬのは受け入れがたいが、延命処置で薬草とか医者を呼んで治療に当たらせたが、やはり無理だったか。
必死に説得した人で修行を付けてもらった身としてはとても悲しいし心が張り裂けそうだ。しかし…此れからは信綱無しで新陰流の名を背負わないといけない。茨の道だが進むしか道は無い。
そうして二月に信綱は死去した。
最期の際に「業正様…業盛様…拙者も直ぐにそばに行きます。」
と、言い残して泰綱、宗章、僕が見守る中、目を閉じて安らかな表情で逝った。
と、思い出したら無性に涙が出て来た。手で拭ったが、止まらなかった。
何処かで覚悟はしてたけど、悲しくてしょうがない。祖父みたいな人だったからな。厳しさの中にも優しさがある人だった。
「喜平次、泣いているのか?」
後ろから掛けられた声に反応すると、上杉謙信が伴を二人連れて立っていた。
「はっ、お目汚しをして申し訳ありませぬ」
謙信は片頬を上げて笑うと手を上げて伴を下がらせた。
謙信は僕の隣に立ち、盃を差し出した。
「どうじゃ、一献」
「ありがたく頂きます」
二人は黙々と酒を飲んだ。
「喜平次よ、信綱の事は残念であった。」
「ははっ…」
「喜平次、知ってるか、この世は儚き物だと。」
「儚き物?」
「ああ、この世に生を受けてもうすぐ五十に届くが、その間に数々の人々に出会った。大樹様(足利義輝)、三好長慶、兄上、武田信玄、北条氏康、此れらの人は信念を強く持っていた。」
「しかし、永きに渡る戦乱で皆志半ばで倒れていった。大樹様は幕府を再興して天下を再び足利家で主導する事を夢見て、奔走なされたが、闇討ちで死んだ。長慶殿は京を支配して天下第一の勢力を誇ったが、弟達の突然の病死により、失意の内に死去した。兄上…長尾春景は優しすぎる人であった。その優しさ故に利用され、最後には苦しみながら死んでいった。来世があれば平和な世に生まれて欲しいものだ。我が宿敵信玄、氏康は生きるために、周りを攻め取る事を選んだ。それで私と信玄、氏康は敵対する事には成ったが、彼奴らの力は認めていた。」
「しかし、そんな氏康も病で倒れ、それに続くように信玄も戦で病没した。」
謙信は今はもう亡き人達に語りかけるように星を見ながら話した。
「夢や大きな目標を持った英傑達でも虚しく死んで行く、それが戦乱の世だ。」
「喜平次、私は幾多もの散って逝った英傑達の為、民の為に天下を目指す。此度の戦もそれが目的で起こした。」
夜空に輝く星々の煌めきが一層強くなり、次の瞬間には流星が光を放ちながら空を飛翔した。光を受ける謙信は全身がキラキラと光り輝き、神々しかった。
謙信は振り向くと、
「喜平次!私は天下を取るぞ!」
そういい、本当に楽しそうに笑った。




