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2 動物たちの乗船

 飛空艇は翌日、二国の国境へずしんと舞い降りた。周囲一帯に起伏のない荒野で、まれに新緑の葉を茂らせた細身の木が生えているだけ。空気は砂っぽく乾燥して、黄土の大地にぽつりぽつりと野生動物たちの姿が見える。


 三人は甲板に出て上陸の準備が整うのを待つ。ウィーンは船の左舷で、アーサーとエドは船の右舷で荒野を眺めた。それぞれの見つめる先には一塊の大きな国がある。


「あっ」


 ウィーンは思わず声をあげて目を疑った。不思議なことに着陸したガリバルダ号の周りに自然と動物たちが集まり始めたのだ。

 図鑑で見た有名な動物もいれば初めて目にする名の知れぬ動物もいる。不思議とライオンのような大型の肉食獣やうさぎのような小型の草食獣が、誰も彼もがケンカせずにつがいで大人しく船を見あげていた。


「どうなっているの」


 わらわらと動物の集団は時間を追うごとに膨れあがっていく。しまいにずらりとガルバリダ号の周りを囲まれた。


「動物は素直さ、従うべき物を理解している」


 着陸操作を終えてノアが船内から出てきた。悠々とそう語るのでウィーンは疑問に思い、問うた。


「ノアに従うの?」

「この船にだよ」


 動物は天威を理解しているのかと不思議な気持ちになる。理解していないのは抗う人間だけなのだろうか。

 ノアが架橋を下ろすというのでそれを三人で手伝った。


「どうして幻獣に手伝わせないんだ」


 アーサーは引っ張った紐を少しずつ緩める力仕事をこなしながら問いかけた。たしかに力持ちのグリフォンなど手伝えばこんな苦労はしなくて済むのだ。


「幻獣は。船を。降りられないんだよ」


 途切れ途切れにいうノアをアーサーは怪訝そうな顔で見ていた。


 四人で協力してようやく橋をおろし終え、ノアは居住まいを整えると先ほどまでの苦労を忘れ、まるで紳士のように燕尾服を揺らしながら優雅に架橋を降りた。三人もそれに続く。

 彼はセシルブリュネで初めて会ったときと変わらない態度で、凛と声を張り動物たちに頭をさげる。


「皆さん、集まってくれてありがとう。これから順に契約を交わします、自分の番が来るまでお待ちください」


 動物たちはノアの言葉を理解したのかしないのか、全く動じるそぶりはない。


「ねえ、契約って?」


 問いかけにノアはにやにやと笑った。


「シェイクハンドさ。全てのあいさつはこれから始まるっていうだろう」


 冗談かと思ったが、言葉通りノアは動物たちと順に握手を交わしていく。大きな手を握り、小さな手を握り。するとどうだろう、あいさつを済ませた動物たちが魔法のように橋を渡り順に船へとあがっていくではないか。これこそまるで魔法だ。あっけにとられて三人とも言葉を失っていたが、ノアが案内をというので兄弟で手分けして動物たちを船室へと導いた。


 二時間ほどして全ての動物と紳士的に乗船契約を済ませ、全部で五十種はいたかと思う。ノアによると船室は大きな部屋小さな部屋を含めて実は全部で八百八十八室もあるそうで、まだまだ十分な余裕がある。


「すこしでも多くの生物を救わなければならないからね」


 最後のねずみの夫妻と優雅にあいさつを交わすと「さてと」と立ちあがった。


「決めごと通り、ボクとウィーンはワイズポーシャ、アーサーとエドはレッドエデンへと向かう。質問があるなら今だけだよ」

「金がねえんだけど」

「おお、お金」


 失念していたかのようにノアは天を仰ぐ。そして大袈裟に嘆いたあと、懐から小袋を取りだした。


「安心してキミたちの分も用意している」

「聞かなきゃ渡さなかったのかよ」


 エドがぼそりと呟く。アーサーが憮然とした様子で受け取った。


「くれぐれも忘れないで、大事なのは嘘とハッタリ。ボクのように振る舞えばいいんだ」

「できねえよ」とエドが呆れた。それはそうだなとウィーンも思う。

「交渉は今日中に済ませて、明日船へと戻ってくる。時間は適当でいいよ」


 いつもの調子でそういうとウィーンの肩を抱いて「さあ、いこうかウィーン」と上機嫌にいった。

 ガリバルダ号を境に真っ直ぐ東がワイズポーシャ、西がレッドエデン。二組に分かれて徒歩でそれぞれの目的地を目指した。


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