露店と隣国の王子。
収穫祭のメイン会場に繋がっている大通りに出て辺りを見渡すと、沢山の露天が立ち並んでいて色々な物が所狭しと並べられていた。
露天を覗く人に、お喋りしながら歩く人、色々な人たちが大勢でメイン会場に向かって歩いていた。
「すごい、人が沢山いる……」
「お祭りだもの。国中の人たち、みんな着てるんじゃない?」
「そうなんだけど、いつも特別区域にしか行ったことなかったから……」
収穫祭は毎年開かれているんだけど、今までずっと家族としか来たことがなかったし、それが普通だった。
そもそも会場まで歩くなんてしなかったし、馬車で行って物珍しい出し物を見て楽しむ。
そんな風に楽しむのが収穫祭で、こんな賑やかな光景は見たことがない。
「特別区域?ああ、奥にある警備がすごい場所のこと?」
「警備がすごい?言われてみたら……たしかにすごかったかも」
そういえば仕切りがあって警備の人が沢山並んでいたっけ。
もしかして、あの仕切りの向こうにも警備の人がいたのかもしれない。
「あの仕切りの向こうって、どうなってるの?」
「あれね、見世物小屋に物珍しい出し物が置いてあるくらいよ。たとえばね、暗闇の中で青白く光る花とか踊る花とか……」
私の話にすごく興味が引かれたらしく、ミレは顔を輝かしていた。
「え、なにそれ!すごい!」
「……青白く光る花は、水竜の巣に咲くと言われている花ですね。踊る花……南の方にある、クグレンツという小さな島に咲く花ですよ」
特徴だけで生息地が解るなんて、思わず感心するように師匠を見た。
「すごい……さすが師匠」
「薬草などの知識も、必要なことですから」
そういえば師匠は神官長補佐で、次期神官長だったっけ。
私も午前中から午後にかけて家庭教師がついて色々と教育されているけど、師匠も師匠で神官長補佐として大変なんだと思った。
「師匠も、大変ですね」
「え、ええ。それなりには、大変ですが……」
「それなら今日は、収穫祭を楽しみましょう!」
師匠の服の袖を握り、ミレの手を握ると露天が立ち並んでいる方向へと早足に向かった。
「ルミナっ、どこに行くの?」
「時間もないから、近くの露天から回っていくのよ!」
お金はないけど、見ているだけでも十分に楽しそうな露天がたくさん並んでいる。
一番近くの露天から順番に見て回っていった。
なんの肉かよくわからないけど、とても美味しそうな串焼きやカラフルな飲み物。
縁起物のアクセサリー類も売っていたけど、家の家具に目が肥えたせいか玩具みたいに見えた。
射的みたいなものや輪投げみたいな遊びもあったけど、そこで見たこともない遊びがあった。
棚に景品が並んでいて、紐みたいなものを手の平に浮かせて景品に投げつけている。
「師匠、あれは?」
「紐封じですよ」
「ひもふうじ?」
「これは紐を使ってする遊びですね。あの紐は特殊な鉱石が練りこんでいて、少しの魔力に反応して浮くんですよ」
輪投げが紐になった感じの遊びだけど、輪投げと違って紐というのは難しそうに見える。
でも手の平に浮かして投げ飛ばすなんて、面白そうに見える。
「へぇ……なんだか楽しそう」
「それを操作して、景品を捕獲するともらえます」
「捕獲……?」
景品って捕獲するものだったっけ……それだとまるで生き物みたいに聞こえるんだけど。
もう一度景品を見ると、棚の上にぬいぐるみやお菓子や雑貨が並んでいるだけで、生き物はいない。
「してみますか?」
「え、でもお金ないし……」
家を出る時に、神殿に行くから言っているからお金は持ってきてない。
何か持ち物を売れば、お金を稼げるかもしれないけど……さすがに祭りの最中に買い取り専門のお店を探すのは難しい気がする。
「それくらいなら出しますよ」
「ルミナ、せっかくだしやってみたら?」
私が悩んでいる間に、師匠は先にお金を払ってしまった。
なぜかこういう時だけ行動が早いと感心してしまう。
「はいよ、お譲ちゃん。これ、簡単そうに見えて難しいからね!がんばって!」
「あ、ありがとうございます」
「そうそう、持つ時はここの金具部分を持つんだよ。ここだと、反応しないからね!」
鉱石でできた紐を20本ほど露天のおじさんに渡されて、金具部分を握った。
渡された鉱石紐を左手に持ち、右手で一本だけ持つ。
「それね、手の平の上に置くと浮くの」
「手の平?」
右手の平の上に一本だけ置くと、まるで磁石で浮かせたように、ふわりと紐が浮き上がった。
「本当に浮いたんだけど!」
「それを欲しい景品に向かって投げてみて。上手く中心に当たると、鉱石紐が景品に巻きついて捕獲できるの」
浮いているんだけど、揺れていて安定しない。
試しに投げても、ちゃんと目標の場所に当たるかどうか難しいところだった。
試しに近くにあった景品に向かってフリスビーのように投げてみたら、狙っていた景品が少し動いた。
「……動いたんだけど」
「その景品ね、中心にちゃんと当てないと逃げるの」
「だから捕獲なのね」
何回か投げてみて、感覚みたいなのが掴めてきた。
手の平に浮かばせて傾けると、大きく揺れたり小さく揺れたりするから、その揺れ方で投げたときのブレ幅が解る。
紐の持つ長さを調整して少し傾けると、一番手前の景品のお菓子に向かって投げた。
景品の中心に紐の先が当たり、紐が景品に巻きつくと景品は何度か飛び跳ねて、そのまま倒れた。
「あっ、できたわ!」
「すごい上手……数回で捕獲できちゃうなんて」
「……才能ですね」
「お嬢ちゃん、上手だねぇ」
景品のお菓子をおじちゃんが回収するのを見て、次の景品を狙った。
紐によって揺れ方に差があるから、なかなか難しい。
なるべく揺れ方の小さいのを使うと、結構上手く当たる。
的中率は7割って感じで、自分でもなかなか上手だと思う。
調子に乗って近い景品を次々に捕獲していくと、次は大物を狙いたくなる。
景品台の一番上の真ん中に飾られている、可愛いヌイグルミが目に入った。
長いウサ耳で真っ白のモフモフのヌイグルミは、抱き心地もよさそうに見える。
ミレにあげたら、喜んでくれるかもしれない。
残りの紐は、あと5本。たぶん、大丈夫だと思う。
「次はあれを狙うわね!」
「あれってヌイグルミ?可愛くて、すごく抱き心地が良さそう……」
ミレの反応を見て、きっと気に入ると確信するとヌイグルミに狙いを定めた。
しっかりと狙いを定めて投げたけど、距離があるせいで難しい。
さすがに1回では無理だった。
次に投げようとした時、誰かが同じようにヌイグルミを狙って紐を投げた。
紐はヌイグルミの手に当たって外れたけど、なかなか上手な投げ方でライバル心が芽生えた。
互いに交互に投げ合って、私の紐が最後の1本になった時、奇跡的に命中した。
「やったぁ!当たったわ!」
「ま、負けた……」
上機嫌でおじちゃんからヌイグルミを受け取りに行こうと横を振り向くと、色素の薄い茶色の髪の、品の良さそうな青年がいた。
どこかの貴族かと思ったけど、服が農民が来ている麻布の服だから違うと思う。
でも、どこかで見覚えがある。
「君、強いね」
「貴方こそ、上手なのね」
薄茶色の髪と、淡い青灰色の瞳は幻想的な雰囲気だった。
きちんとした服を着ていれば、貴族や王族と言われても納得できるくらいの容貌。
どこかで見覚えがある……どこだっけと記憶を必死に辿る。
「僕の名前は、ミル。君の名前は?」
「……ミル?」
ミル、ミル……あ、ゲーム中にいた。
愛称がミルで、名前はミルフィオール・ルイス・アンデルセ!隣国の王子!
お忍びで良く遊びに来ていたとかいう設定だったけど、まさか遭遇するなんて!
「わ、私は……」
彼は隣国の王子だから、私が公爵家の人間だって知らないはず。
それに将来、必ず学園で出会うことになる。
そう考えると、今のうちに仲良くなっておくべきだとは思う。
でも彼はゲーム中の攻略キャラで、ルミナエリスが捕らえられた時に貢献したキャラの1人だし、ゲームヒロインとはとても仲が良かったはず。
下手に仲良くして、どこで首切エンドに繋がるか解ったものじゃない。
ふいに背後からミレに声をかけられた。
「ルミナ、どうしたの?次に行かないの?」
「ミレ……。ごめんさない、友達が呼んでいるから、行くわね」
名前を教えると後が色々と大変なことになりそうな気がして、何も告げずに去ることにした。
これで通りすがりの通行人と同じように、記憶の中から消して欲しい。
急いで露天のおじちゃんからヌイグルミと捕獲したお菓子の入った袋を受け取る。
ミレと師匠の元へ戻ると、ミレにヌイグルミを差し出した。
「ミレ!これあげるわ!」
「え、いいの?」
本当はミレが喜ぶと思って狙ったんだけど、さすがに素直に言えなかった。
「うん、私が持って帰っても怪しまれるだけだし……だからね?」
「ルミナ、ありがとう」
ミレは手触りの良い白いヌイグルミを受け取ると、嬉しそうに微笑んだ。
嬉しそうなミレを見ていると、がんばったかいがあったと満足できた。
「師匠、師匠もはい!お菓子!」
「それは、ルミナが食べればいいのでは……」
「いえいえ、元は師匠のお金ですし……どうぞ!」
師匠の手に、お菓子の入った袋をしっかりと持たせる。
次の露天を目指そうとしたけど、近くに隣国の王子がいたから先を急ぐことにした。
目的地はメイン会場の広場!人の流れもメイン会場へと流れているから、このまま進めばきっと着くはず。
「ねえ、君ルミナって名前なの?」
「……すみません、先を急いでいますので」
どうも隣国の王子もメイン会場に向かっているらしく、同じ方向に向かって歩いている。
最悪なことに、隣国の王子は師匠とミレと私の会話で名前を知ったらしい。
しかもなぜか私の隣に並ぼうとするから、左右に師匠とミレを並べて歩いているのに今度は背後から着いてくるし。
相手にしていたら絶対覚えられしまうから、声をかけられてもなるべく素っ気無く返事を返して進んだ。




