一冊目
それは一通の手紙から始まった。
差出人は全くの不明。
現代には程遠い蝋で封をされた手紙だった。
俺はもう80歳を越え、足腰が立たなくなっていた。
車椅子で生活する日々。
一人称が『俺』なのは『ワシ』というにつれて老けた感じがするからだ。
自覚したくなかった。
いつもの書斎で本を読むために鍵を開ける。
アンティークショップで見つけた古く重々しい鍵だ。
先ずは雰囲気から入るのが俺流だった。
書斎も頑張って若い頃に作った。
お陰で家は洋風の城のような豪邸のようだった。
家には書斎だけでなくお馴染みのアンティークショップで揃わせた家具や小物がある。
壊れたら修復できるような作業場も古ぼけた感じで仕上げた。
地下もある。
地下は何のために集めたかは分からないが父親と母親の蒐集物で溢れかえっている。
父親は海外に飛び呪いの品や曰く付きの物、お呪いのある物、いつ使うか分からない武器や防具など。
集める者は集めきったというようなもので収まっている。
母親は所謂厨二病だったのだろう。
妄想癖があった。
本好きの俺を見て世界各国から蒐集した魔導書を与えてくれた。
英語、仏語、独語など言語を覚えた俺にとってはただのプレゼントだと思っていたものだ。
母親は画家も嗜んでいた。
描くのはいつも想像上の生物。
描いた後に実物を作ったりもしていた。
粘土で造形し魔方陣の上においてなにやらブツブツ唱えていたこともあった。
怪しげな液体を作っては錬金術と称し、ガラスケースに日付を貼り付け観察していることもしばしば。
今にして思えば意味のある行動だったのだろうか。
以上で俺の家族は蒐集一家だったと言えることだろう。
さて、話を戻すに差出人不明の手紙が密室であったはずの書斎に置いてあった。
父親か母親の蒐集物の所為かとも思ったが、封を開け中を見るに違うらしい。
中に入っていたのは四環の指輪と手紙。
手紙は一枚が三つ折りになって仕舞われている。
誰からかは分からないが読んでみないことには変わらない。
◇◆◇
世界では本という価値が下がっています。
大切に本を保管、保護してくれる方を探しています。
本に対する熱意と愛情があるあなたにこれを送らせていただきます。
◇◆◇
なんだこれ?
神秘的な者からの贈り物であることは間違いないのだが。
どうせなら指輪ではなく本が良かったものだ。
◇◆◇
指輪は全部で四環。
知恵の指輪、運命の指輪、理外の指輪、審判の指輪。
あなたの役割を失った時、そして世界の役割を得た時に必ず持っていてください。
◇◆◇
役割とは?
俺の今の役割とは。
……考えても分からないことだらけだな。
まあ右手の人差し指に知恵、中指に運命、薬指に理外、小指に審判をはめる。
全て俺の指に合った大きさだった。
まるで測ったかのようにぴたりと収まった。
これだけを見ると気味が悪いがな。
害のありそうなものではない。
それで本の価値が下がっている、だったか?
保護、か。
そんなことでよければ俺がやりたいぐらいだ。
近くの本屋で処分する本は俺の家に運び込まれている。
図書館の館長になったこともある。
経験が足りないということもないだろう。
是非受けたいと思うが、どこに応募したらいいんだ?
さっきの六行以外は何も書いていない。
よく分からん。
俺は本さえ読めたらそれでいいのだ。
そこに無粋な者は要らない。




