プロローグ
俺は本が好きだった。
嘘か真か判らない本もあった。
それもまた楽しかった。
子供の時から友達と遊びに行かずずっと家で本を読んでいたと親から聞いたことがある。
本は裏切らない。
作者がいて読者がいてそしてストーリーがある。
訴えるべき目的がある。
説かなければならない原理がある。
分野は何でもよかった。
ただ俺には本がすべてなのだ。
自分の死を看取ってくれるものも自分がこよなく愛した書斎でいいとさえ思った。
何千何万冊と蒐集した本は俺の人生ともいえる。
色んな本に感化された結果自分でも書くようになった。
本も何冊か世に出した。
小説から雑誌、写真集、図鑑、取扱説明書なんかまで。
書斎にはありとあらゆる種類の本が揃った。
俺はふと考えた。
日本語訳の本は本場ではどう表現されるのだろうか、と。
それからというもの世界中の言語を読み漁って習って学修して。
母国語と外国語の差が明瞭になるのが楽しかった。
俺は人との交流を断ち本に全てを掛けたが後悔はなかった。
いい人生だったとそう胸張って言えることだろう。
言う相手が存在するとは思えないがな。