30話 大和、悩む の巻
―――タッタッタッタッ―――
朝の日課であるランニングをしながら大和は悩んでいた。
入学してはや2ヶ月が経とうしている高校生活は当初の不安をよそに思いのほか順調であった。
頼りになる担任に、はじめこそ奇異の目を向けていたが今では受け入れてくれているクラスメイト(まぁそれも担任の貝原先生のおかげだが)、同じ高校に通っている優しい従姉たち、個性的な友人たちに振り回されることも多いがそれはそれで楽しいものである。
しかしそろそろ中間テストの時期である。
座学は恐らく問題ない、体術もトップクラスであるという自負もある。だがやはり魔術に関して自分は遅れをとっているのは事実である。
いや、高校に入学してからようやく自分の魔力を明確に意識できた自分が、周りと比べること自体がおこがましいことではある。……が自分はやはり“負けず嫌い”なのであろう。魔術が中々上達しない現状にいら立ちを感じていた。
「くっそー、俺はやっぱり魔術を扱うセンスがねーなー
せっかく魔力を理解できだしたのに、肝心の魔術への還元ができてねぇ…」
ランニングも目的の広場までつき、そこで息を整えつつストレッチを行う。
その後富士山流の基本の動きを反復しながら自分の体のキレを確認していった。
これが出雲に来てからも続けている大和の日課のトレーニングであった。
体術の確認が終わった後は、いよいよ魔術の自主トレーニングであるが、これが一向に成果が見えないところに大和は苦悩しているのである。
「おはよう、そこで陸にあげられた魚のような動きをしているのは宍道だな。
朝から一体何をしているんだ?」
ビクッ!
突然声をかけられた大和は恐る恐るその声のした方へと振り向く。
そこにいたのは我がクラスの担任であり、大和に魔力を目覚めさせてくれた貝原聡里であった。
「せ、先生……
いやーちょっと恥ずかしいところを見られちゃいましたね……
ここにいるのは毎日の日課なんですが、これは魔術の練習をしていたのをちょっとミスりまして……」
そう答える大和の格好は背中を強く打ち付けたのか、その痛みに悶絶し、体を右往左往させていてかなり間抜けなものであった。
「ほう、早朝から自主トレーニングとは結構なことだな。
…それで、一体何を悩んでいるんだ」
ッ!?
聡里に悩んでいることを悟られ、慌てるが魔力のことについて最初に相談したのも彼女である。
聡里にたいして自分の苦悩は駄々洩れである方がむしろ納得である。
「先生に隠し事はできませんね……
もうすぐ中間テストでしょ。僕は魔術関連の成績が良くないのが悔しくて。
だから少しでも力をつけようとこうして練習しているのですが、中々上達する兆しが見えてこないので焦っていたんですよ」
「ふーむ、おまえは確かに魔術関連の成績は良くないが、座学や体術に関してはクラスのみならず、学年で見てもトップクラスだぞ。
それに魔力を明確に知覚できるようになったのも最近だ。魔術に関して劣るのも致し方あるまい。
なにもそんなに焦ることもないだろう」
確かにはたから見たらそうなのかもしれない。
ただ大和はだからそれでいいと自分を納得させることなどできなかった。
なぜなら大和の隣には常に圧倒的な才能をもった妹がいた。彼女に追いつくためには普通で満足していては到底及ばないだろう。富士山家を追い出されたのは事実だが、だからといって自分が高みを目指すのをあきらめるつもりなど毛頭ない。
その強い意志をもった視線は聡里を射抜きながら、その熱い想いを吐き出す。
「……先生、俺はどうしても追いつきたい奴がいるんです。そいつははっきり言って普通じゃない。
失礼ですがもしかしたら先生より強いかもしれない。
そんなやつを目標にしている以上、この普通の状況で足踏みしているようじゃ到底追いつけません。
だから僕はまずこの学校で1番強くなることを目指しています!」
ほう、若く青い…だが熱い…な
聡里は目の前で大言を吹く自分の生徒をじっと見つめる。
自分にはもはや枯れてしまっている情熱や向上心が目の前の男の子の目には宿っていた。
「ふん、この学校でいる一番…ということは私よりも強く、ということか」
聡里の鋭い眼光に一瞬怯みかける大和であったが、すぐにそれを正面から見返し聡里へと宣言する。
「もちろんッ!僕は誰よりも強くなりますよ!!」
その返答に聡里は満足げにうなずくのであった。
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