14 --終わっていない
◇
ボロボロの騎士たちが牛のような足取りで村からでていく。
それを見届けた後、僕は斬られた子供のもとに急いだ。
着けばアリアが子供を治療している。必死で子供を、癒している。
「……子供は?」
結果を聞くのが、怖い。
子供が斬られたのは僕が迷ったからで、止められたかもしれないことだったのだ。
もしも――もしも――。
「大丈夫だよ」
アリアが、目に涙を浮かべながらそう言った。
悲しみではない、助かってよかったという、安堵の涙。
ほっ、と胸を撫でおろす。
本当によかったと、そう思った。
「ありがとうございます。ありがうございます」
子供の母親が感謝の涙を流す。
すっかり傷が元通りになり、顔色もよくなった自分の子供を抱きしめる。もう、離さないとでもいうように。
周りの村民も安心している。よかったよかった、そんなムードが漂い、そして――。
「なあ、エト」
最初に口を開いたのは、おかしのおじさんだった。
彼は最初の一言を切り出したはいいが、ためらうようにまた口を閉じる。
彼の言いたいことはわかる。そして、覚悟もしていた。
結果として、誰も死なずに済んだ。しかし、確かに子供は死にかけたのだ。
たぶん、治すのがアリアではない、普通の治癒術師なら死んでいた。アリアがいたから、たまたま助かったのだ。それに比べて、騎士たちは代償を払っていない。
少量の武具を破壊したことや気絶させたこと?
……所詮その程度、大したことではない。傷つけたという事実を持つ側が、なにも報いを受けていない。
それはずるいのだ。
だから、許せなくなる。強い立場にいるからといって弱者を虐げようとしたやつら。安全な位置から一方的に殺そうとした、そういう奴ら。
正義感があるひとは、特に許せないのだ。こういった人種を。
だから、騎士たちは僕によって制裁をくらうべきだったと思ってしまう。
『彼』が言っていたこと。結束力が強いからこそ、仲間を強く思いすぎる。殺さないという選択をした僕は、村民に恨まれてもおかしくない。
「おーい! 待ってくれー!」
大声が聞こえる。ここからではなく、遠くの方から。
全力で走ってくる存在がある。遠目に見える赤茶色の少年。勇者。
「ふ……はあ、はあ……」
よほど急いできたようで、彼の衣類には葉っぱやらなにやらが引っ付いている。今も森へと変異の調査に行っていたのだろう。
勇者がこちらを見る。全部わかっている、とそんなまなざしが伝わってくる。勇者の能力で、遠くから出来事が見れたのだろうか?
「あ、あー皆さん」
勇者が喋り始める。
「えー、一応、遠くからなにが起こったかは見てました。とれあえず、俺が王様に直訴して神聖国ユクシッドには警告状を出してもらいます。たぶん、これでもやつらは来なくなるでょう。おまけに、エトさんが力を見せつけたから、少人数でまたやってくることもないはずです。あんなに人数がいたのに、たったひとりにやられちゃあ、ねえ?」
勇者は、最後にわざと相手を皮肉った。
それで、不思議と張っていた。緊張感がほぐれる。
彼がしてくれたこと。
それは、村の安全を確保してくれたことと……僕を立てて、僕のおかげでこれは解決したのだと、強調してくれたこと。
そして相手が弱すぎると皮肉ることによって多少なりともこちらに優越感を与える。こうなってくると、もう僕が非難されることはない。
感謝を込めて勇者を見る。
それを受けて、彼は軽く笑った。わかっていますよ、とばかりに。
「あーそのだな、エト」
また、おかしのおじさんが切り出す。
いくらかほっとしたような、肩の荷が下りたかように。
「――ありがとな。おまえのおかげで、俺たち全員助かった」
悪意のない、そういう笑顔を、おかしのおじさんはした。
きっと、僕に切り出そうとしたとき、僕の非を切り出そうとしたとき、おじさんだって苦しかったのだ。行き場の失った怒りを、誰かにぶつけるような行為。でも、それをする必要はなくなった。
それで、おじさんはほっとしたのだ。
「いえ、僕なんかが役に立ててよかったです」
僕は無難な返しをする。
誰もが、力の抜けたため息を吐いていた。
そんなところで、
「おい! 野郎ども!」とおかしのおじさんが叫ぶ。
「せっかくだ! みんな無事だった祝いに、また明日に祭りをやらないか? エトはあしたは品物ぜーんぶ、タダでいいっていう条件で!」
周りが賑わう。賛成の声が次々とあがり、思わず僕は苦笑した。
なんというか、こうやってみんなに感謝されるのはむずかゆい。
でも、みんなまた明るくなった。暗い雰囲気は消えた。
それは、きっと村民のみんなの協力あってのことだ。
こういう団結を、なんだか嬉しく思う。
「ねえ、エト」とアリアが言う。
「よかったね」
彼女は、柔らかく微笑んでいた。なにもかも、僕の気持ちを見通してるみたいで、辛い想像をして、そうはならなかったのを、わかってるみたいに。
どんちゃん騒ぎが始まる。
もうそろそろ暗くなるかもしれないのに、気を利かせた何人かが灯を持ってきた。どうやら、まだ祭りは終わらないようだ。
僕、アリア、勇者は、ひっそりとその集団を抜ける。
「勇者」
「どうしました?」
「ありがとう。ほんとに、助かった」
「いえいえ、俺にはこんなことぐらいしかできませんしね! 俺に感謝してくれるなら師弟契約を五年ぐらい結んでほしいところですね! 俺が弟子で!」
「いいよ、お安い御用だ」
「やったぜ!」
そんなやりとりを、楽しげにアリアが見つめている。
なんだか、すべてが円満に終わって、夢みたいな気分だ。
――とは、ならない。




