表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第6章 寂しさを思い出す春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/141

第9話 沈黙の習慣化

沈黙は、特別なものではなくなる。



---


繰り返されることで、それは習慣に変わっていく。



---


あすかはそれを、静かに受け入れ始めていた。



---


六月のはじまり。



---


春は完全に終わりかけている。



---


空気の中には、もう夏の匂いが混ざっていた。



---


それでも心だけは、まだ春の途中にいるようだった。



---


「人生の交差点」



---


夜。



---


扉を開ける。



---


カラン。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「最近、少し間が空くね」



---


あすかは少しだけ考える。



---


「そうですね」



---


それだけ。



---


説明はもう必要ない気がしていた。



---


席に座る。



---


グラスが置かれる。



---


今日は薄い味だった。



---


薄さは軽さではなく、


“感情が入っていない状態”に近い。



---


悠真は来ない。



---


連絡もない。



---


それが当たり前になっている。



---


当たり前になってしまったことが、


一番の変化だった。



---


マスターは何も言わない。



---


ただグラスを拭いている。



---


その音が一定のリズムを刻む。



---


あすかは視線を落とす。



---


沈黙の習慣化。



---


それは慣れではない。



---


諦めでもない。



---


ただ、選択肢が減った結果だった。



---


期待することもなく、


失望することもなく、


ただそこにいる。



---


その状態が続いている。



---


グラスを飲む。



---


味はもうほとんど感じない。



---


それでも飲むという行為だけが残っている。



---


やがて店を出る時間になる。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「静かになったね」



---


あすかは少しだけ笑う。



---


「静かになりすぎたかもしれません」



---


マスターは何も言わない。



---


ただその言葉を受け止めるだけだった。



---


外に出る。



---


夜はもう春ではない。



---


空気は湿り気を帯びている。



---


駅までの道を歩く。



---


人は多い。



---


世界は変わらない。



---


ただ、自分の中だけが少しずつ違う方向へ進んでいる。



---


スマートフォンは鳴らない。



---


それでも不安はない。



---


それが一番静かな異常だった。



---


電車が来る。



---


あすかは乗る。



---


扉が閉まる。



---


その瞬間、はっきりと分かる。



---


これは喪失ではない。



---


しかし、維持でもない。



---


その中間が、長く続いているだけだ。



---


窓の外に夜が流れる。



---


あすかは思う。



---


沈黙は終わらない。



---


ただ、形を変えて続いていく。



---


そしてその中で、


何かが少しずつ薄れていく。



---


(第6章 第10話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ