表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第5章 まだどこにも行けなかった冬

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/141

第8話 戻れない温度

戻れないものは、失われたものとは違う。



---


そこに確かに存在していたのに、


もう同じ形では再現できないもの。



---


あすかは最近、それをはっきり感じていた。



---


二月中旬。



---


冬の冷たさの中に、わずかな緩みが混じり始めていた。



---


日が伸びるのも少しだけ早くなっている。



---


それでも夜はまだ長い。



---


「人生の交差点」



---


夜。



---


あすかはいつもの席に座っていた。



---


カラン。



---


扉が開く。



---


マスターは軽くうなずく。



---


「今日は少し疲れてる?」



---


あすかは少しだけ間を置く。



---


「そう見えますか」



---


「見えるね」



---


短く、それだけ。



---


グラスが置かれる。



---


今日はいつもより少しだけ深い味だった。



---


静かな重さのある味。



---


悠真はまだ来ていない。



---


遅れる連絡はあった。



---


そのこと自体はもう揺れない。



---


でも、心のどこかで小さな違和感がある。



---


“当たり前”になりすぎていること。



---


扉が開く。



---


カラン。



---


悠真だった。



---


「遅れた」



---


「大丈夫です」



---


座る。



---


沈黙。



---


でも今日は少し違う。



---


その沈黙に、わずかな距離がある。



---


悠真が言う。



---


「最近さ」



---


あすかは顔を上げる。



---


「前より、ちゃんと分かってるはずなのに、遠く感じる時ある」



---


その言葉に、あすかは息を止める。



---


否定できない。



---


むしろ、自分も同じだった。



---


近いのに遠い。



---


以前とは逆の感覚。



---


あすかは静かに言う。



---


「たぶん、分かろうとしすぎなくなったからかもしれないです」



---


悠真は少しだけ笑う。



---


「それ、どうなんだろうな」



---


その笑いには答えがなかった。



---


マスターは何も言わない。



---


ただ静かにグラスを拭く。



---


帰り道。



---


冬の夜は乾いている。



---


二人は並んで歩く。



---


距離は変わらない。



---


でも、その距離の意味が変わっていた。



---


悠真が言う。



---


「最初の頃ってさ」



---


あすかは横を見る。



---


「もっと、全部が強かったよな」



---


あすかは少しだけうなずく。



---


「強かったですね」



---


感情も、


言葉も、


不安も。



---


今はそれが弱くなっている。



---


そのことが少し怖い。



---


駅が見える。



---


別れ際。



---


以前より短い沈黙。



---


でも、そこに確かに何かがある。



---


悠真が言う。



---


「これでいいのか、分からなくなるな」



---


あすかはすぐに答えない。



---


少し考えてから言う。



---


「戻れないんだと思います」



---


少し間。



---


「でも、悪いこととも限らないです」



---


悠真は小さくうなずく。



---


「そうかもな」



---


改札を抜ける背中。



---


その背中はもう迷っていない。



---


でも、温度も以前とは違う。



---


あすかは思う。



---


戻れないということは、


終わったということではない。



---


ただ、別の場所に来ただけだ。



---


冬の夜は静かに続く。



---


そして二人の関係は、


形を変えながら進んでいた。



---


第5章 第9話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ