表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第3章 何より暑い夏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/141

第8話 幸せが怖くなる日

幸せは、時々怖い。



---


手に入らない時は、


ただ欲しいと思うだけだった。



---


でも少しずつ手の届く場所に来ると、


今度は失うことが怖くなる。



---


それが恋なのかもしれない。



---


花火大会から数日後。



---


あすかは仕事をしながら、


何度もあの夜を思い出していた。



---


夜空に咲く花火。



---


人混みの中。



---


一瞬だけ繋がった手。



---


そして。



---


「俺も」



---


悠真の言葉。



---


たった三文字。



---


それなのに何度も思い出してしまう。



---


嬉しかった。



---


本当に。



---


だからこそ怖かった。



---


もし今の関係が終わったら。



---


もし距離ができたら。



---


もし会えなくなったら。



---


そう考えるだけで胸が苦しくなる。



---


以前の自分なら、


こんな悩みはなかった。



---


誰かを失う怖さもなかった。



---


最初から近づかなければいいと思っていたから。



---


でも今は違う。



---


大切な人がいる。



---


それが幸せであり、


同時に不安でもあった。



---


夜。



---


「人生の交差点」



---


扉を開ける。



---


カラン。



---


マスターがいつものように笑う。



---


「いらっしゃい」



---


あすかは席に座る。



---


最近はここへ来ると落ち着く。



---


第二の居場所のようになっていた。



---


グラスが置かれる。



---


静かな音楽。



---


柔らかな照明。



---


春から変わらない風景。



---


でも自分だけは大きく変わった。



---


「考え事?」



---


マスターが聞く。



---


「そんな顔してますか」



---


「してる」



---


即答だった。



---


あすかは苦笑する。



---


隠せているつもりなのに、


この人にはいつも見抜かれる。



---


「幸せそうな顔と不安そうな顔を同時にしてる」



---


その言葉に、


思わず笑ってしまう。



---


あまりにも正確だった。



---


「そんな顔あります?」



---


「恋してる人の顔」



---


また図星だった。



---


返す言葉がない。



---


扉が開く。



---


カラン。



---


悠真だった。



---


「こんばんは」



---


「こんばんは」



---


自然に笑顔になる。



---


その瞬間、


マスターが小さく笑った気がした。



---


気づかないふりをする。



---


悠真は席に座る。



---


いつも通り。



---


何も変わらない。



---


でも、


あすかの心は以前とは違う。



---


少し会えないだけで寂しい。



---


少し疲れた顔をしているだけで気になる。



---


それが当たり前になっている。



---


会話をする。



---


仕事の話。



---


最近のニュース。



---


休日の予定。



---


穏やかな時間。



---


その途中で、


悠真のスマートフォンが震えた。



---


画面を見る。



---


そして少しだけ表情が変わる。



---


「ごめん」



---


そう言って返信を打つ。



---


ほんの数秒。



---


それだけのこと。



---


なのに。



---


あすかの心がざわつく。



---


誰だろう。



---


仕事関係だろうか。



---


友人だろうか。



---


女性だろうか。



---


そんなことを考えてしまう。



---


嫌になる。



---


自分が。



---


悠真は何も悪くない。



---


それなのに勝手に不安になる。



---


恋とは少し面倒な感情だ。



---


「どうした?」



---


悠真が聞く。



---


「何でもないです」



---


反射的に答える。



---


嘘だった。



---


でも本当のことも言えない。



---


少しだけ沈黙が流れる。



---


悠真は何かを考えているようだった。



---


そして突然言った。



---


「俺さ」



---


あすかは顔を上げる。



---


「最近、毎日楽しいんだ」



---


その言葉に胸が止まりそうになる。



---


悠真は続ける。



---


「前は仕事して帰って寝るだけだった」



---


「でも最近は違う」



---


少し笑う。



---


「楽しみが増えた」



---


その言葉を聞いた瞬間、


胸が熱くなる。



---


期待してしまう。



---


自分のことかもしれないと。



---


でも確信は持てない。



---


だから苦しい。



---


恋はいつも曖昧だ。



---


帰り道。



---


二人は駅へ向かって歩く。



---


夏の夜風。



---


少しだけ涼しくなってきていた。



---


季節はゆっくり進んでいる。



---


「花火、楽しかったな」



---


悠真が言う。



---


「そうですね」



---


あすかは笑う。



---


本当に楽しかった。



---


たぶん今年一番。



---


「また来年も行きたい」



---


その言葉に、


胸の奥が強く揺れる。



---


来年。



---


その未来の中に、


自分がいる。



---


そう思っていいのだろうか。



---


嬉しい。



---


でも怖い。



---


幸せだから。



---


期待してしまうから。



---


駅が見えてくる。



---


別れ際。



---


悠真が言う。



---


「また連絡する」



---


「はい」



---


いつもの言葉。



---


でも今日は少し違って聞こえた。



---


改札へ向かう背中を見送りながら、


あすかは思う。



---


幸せは、


手に入れる瞬間よりも、


失うかもしれないと思った瞬間に価値を知るのかもしれない。



---


そして今、


自分はその幸せを失うことが怖いほど、


悠真を大切に思っていた。



---


夏の夜はまだ終わらない。



---


けれど、


二人の関係は確実に次の場所へ向かっていた。



---


第3章 第9話「伝えられない言葉」へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ