大惨事の予感?!さあどうする?
ホームルームが終わり、1時間目が始まるまでのわずかな合間。
案の定、鏡子ちゃんが、磁石のように吸い寄せられてきて私に密着してきた。
「サキちゃん、どうしたの?さっき先生に注意されてた時……」
「あー!ちょっと調べ物をね……AIに聞いてたんだよ!そ、そう、AIだよ!」
咄嗟に出た苦しい言い訳。
「何を?」
「えっ……そこまで聞いてくる?(なんか最近、束縛激しくないですか、あなた!!)」
え〜っと、え〜っと。 「夏休み、どこに行こうかな〜なんて……」
「え〜?でもなんか必死に打ち込んでたじゃん。あれ、メールとかの打ち方じゃなかった?」
余計なことを言うな、茜!お前は、この教室が血の海に染まる光景を見たいのか!?
「メール……?」
可愛く首を傾げる鏡子ちゃん。でも、その奥の瞳が全く笑っていない。
脳内サキ・レーダーが最大級の警報を鳴らしている。
「い、いや、もう予約しちゃおうかな〜なんて!そ、そう、うちの親に確認してたんだよ!」
「ホームルーム中に?」
「う……」
なんか最近、追求が厳しすぎませんか。警察の取り調べですか?これ。
(疑われるようなこと、さっき全力でしてましたが……ごめんなさい!)
「う、うん。人気のところだから、早く親の返信が欲しくて……!」
「場所はどこなの?」
「うっ!え〜っと……沖縄、かな……?いや、北海道、かも……?」
「場所、正反対だよ?」
もうやめて鏡子ちゃん…私のライフは既にマイナスよ。
詰将棋の様に逃げ場を失い、半泣きになりそうな私。
「ま、まだ決まってないから、どっちがいいか相談してただけでさ……」
「えー?でも『予約しちゃおう』って、さっき言ってなかった?」
ひ〜もう勘弁して〜!
「ま、まあ……それとか全部含めて相談しようと……あ!先生きたよ!助かったーーー!!」
思わず心の叫びが漏れた。
「……?助かった?」
怪訝そうな顔で私を見つめる鏡子ちゃん。 本当にもう、勘弁してください……
その日の夜。
学校での鏡子ちゃんの執拗な追及に、わたしの精神は文字通りボロボロになっていた。
「もう……嘘をつくのも限界だよ……やだよ、もう……テス勉どころじゃないよ…」
逃げるようにベッドに潜り込み、みっきん垢のDMを開く。
明日の10時に駅まで迎えに行く旨を優花里先輩に伝えると、またしてもコンマ数秒で返信が届いた。
『明日は楽しみにしています。おやすみなさい、サキ様』
短い、けれど慈愛に満ちたメッセージ。ボロボロになったわたしの心に、優花里先輩の言葉が聖母の加護のようにスッと染み入ってくる。
明日、この人が家に来るんだ。あの大豪邸に住むお嬢様をウサギ小屋に招くのは緊張するけれど、今はただ、この安らぎに浸りたい。
「よし、明日に備えて、もう寝よう!」
そう思って目を閉じた瞬間、枕元で不吉な通知音が鳴り響いた。
「(……げっ!RINE!?)」
この時間にRINEということは、送り主は考えるまでもない。
『今日のサキちゃんを見てたら、なんだか心配になっちゃった。だから明日、図書館に行く前におうちに寄るね!朝9時くらいでいいかな?』
「……ひっ!!???」
心臓が止まるかと思った。 待って!待って待って!!血の海の大惨事予定地が、図書館から我が家に移動してくるだけじゃないの!むしろ逃げ場がない分、こっちの方が被害が甚大だよ!
「どうしようどうしようどうしようどうしよう……!」
パニックで部屋を右往左往する。落ち着け、計算しろわたし。
市立図書館の開館は9時半。
鏡子ちゃんを9時過ぎに「じゃあ頑張ってね!」と笑顔で送り出して、その足で駅にダッシュすれば、10時の優花里先輩の到着に間に合うはずだ!
「よし、もう寝る!明日は分刻みのスケジュールだ…!早く鏡子ちゃんを送り出して、入れ替わりで優花里先輩を招き入れるんだ!」
綱渡りどころか、剃刀の刃の上を歩くような計画だけど、これしかない。
わたしは祈るような気持ちで布団を頭まで被った。
「おやすみなさい世界。どうか明日、美山家が平和でありますように…」
わたしはあさっての日曜の朝を迎えることが出来るのだろうか…?という考えが心をよぎった。
鏡子の提案、親切からでしたが、サキにとってはストレスの原因に……
八方美人過ぎるのも、あまり良くないということでしょうか?




