何も出来ないよ!
夜中に目が覚めてから、結局朝まで一睡もできなかった。
暗闇の中で思考を巡らせれば巡らせるほど、事態は悪い方向へとねじ曲がっていく。
朝になり、学校へ行く時間になっても体が鉛のように重くて動かない。
美嘉が「お姉、学校遅れるよ!」と起こしに来たけれど、どうしても制服に着替える気力すら湧かなかった。
母さんや、いつも通り迎えに来てくれた鏡子ちゃんが心配して部屋を覗きに来たけれど、わたしは生返事を繰り返すばかり。
結局、人生で初めて「心が折れて」学校を休むことになった。
鏡子ちゃんは学校に間に合うギリギリまで、わたしの枕元に椅子を持ってきて、座っていた。
いつもなら「どうしたの?」「何があったの?」と問い詰めてくるはずの彼女が、今日に限っては何も聞かず、ただ静かに見守ってくれていた。
「……サキちゃん、わたし学校に行くね。放課後、また寄るから」
最後にそう言って、優しく髪を撫でてくれた。
その温度がひどく嬉しかったけれど、今のわたしには「ありがとう」と返す元気も残っていなかった。
母さんが運んでくれた食事を、何時間もかけて無理やり胃に流し込む。
頭を空っぽにしようとしても、ふとした瞬間に優花里さんの凛々しい横顔や、あの渡り廊下での「焦り」を思い出しては、涙がシーツを濡らした。
スマホを見るのも怖くて、部屋の隅に放り出したままだった。
浅い眠りを何度か繰り返し、外がオレンジ色に染まり始めた頃、鏡子ちゃんが約束通り寄ってくれた。
今日の授業のノートや、配られたプリントを持って来てくれた。
心配そうに顔を覗き込む彼女に、わたしは掠れた声で「ありがとう」としか言えなかった。
鏡子ちゃんが帰ったあと、今度は美嘉が夕食を持ってきてくれた。
「お姉が元気ないと、静かすぎて調子狂うじゃん」
なんてぶっきらぼうに言いながら、美嘉なりにわたしを元気づけようと、色々な話をしてくれる。
(いつもはうるさいって思ってたけど……美嘉、意外と優しいんだな。これからはもう少し、お姉ちゃんらしく、優しくしてあげよう……)
そんなことを考えられるくらいには、少しだけ心が落ち着いてきた。
明日は学校に行かないといけない。
這うようにしてカバンに近づき、ふと思い出して部屋の隅に放置していたスマホを手に取る。
画面を点けると、驚くほどの通知が山のように溜まっていた。
鏡子ちゃんからの心配メールに混じって、目に飛び込んできたのは「優花里さん」からの大量の着信とメッセージ。
その名前を見た瞬間、胸の奥がズキッと鋭く痛んだ。
夢の中で冷たく告げられた「さようなら」の声が、耳の奥で何度もリフレインする。
(……怖い。開くのが、怖いよ……)
もし、この通知の内容が、夢と同じ別れの言葉だったら……
もし、鈴木先輩を選んだという報告だったら?
怖い、怖い、怖い!やだよ!見たくない!
わたしは震える手でスマホの画面を伏せた。
結局、一通もメッセージを開くことができないまま、わたしは残った食事をキッチンに戻し、逃げるようにお風呂に入って眠りについた。
明日の朝が、来なければいいのに。
そう願いながら、わたしは再び、深い絶望の眠りへと落ちていった。
恐れて連絡を取れないサキ。
二人の間の、すれ違いの溝が広がっていきます。




