賊との夜戦
リリスに起こされた後、賊に気付かれない様にメンバーの4人と輪になって会議を始める。
しゃがみながらカイルが地面に石で図を書きながら梢の音でかき消される小さい声を出す。
「賊は計10人。水辺の方に8、反対側に2だな」
カイルの言うと賊がいる向きに耳を澄ました。
・・・あ、確かに居るかも。
カイルに言われなかったら気付かないわ。
賊は盗賊の僕が居ると分かった上に神経を研ぎ澄ました索敵でやっと見つけられた。
当たり前の様にしていた為に一瞬スルーしてたが、カイルはいるかも分からない状態で気付いた。
僕よりも格段に難しいのに。
この依頼って僕、必要ある?
でもここまで来たらやるしかない。
「どうしますか?」
僕は実戦経験が皆無だから経験豊富の悪魔の聖騎士の皆さんに指示を仰ぐ。
「私が8で良い?今日、全然運動してないから」
「2、狩る」
エンリカとリリスが小さいが主張の強い声で答えた。
前衛のエンリカは想像通りだけど悪魔の聖騎士の女性陣は血の気が多すぎませんかね?
リリスに至ってはハッキリ『狩る』って言っちゃってるし。
苦笑いが滲み出るのを抑えられない。
「僕とカイルはここを守ってるからエドはリリスと一緒に二人の方を捕まえて。任せたよ」
えっ、僕も行くの?
まあ良いか、リリスが助けてくれるでしょ。多分。
信じていないわけではないが、リリスは錬金術師。探索者では殆どいないので思わず質問する。
「分かりました。リリスは大丈夫ですか?」
「グッ。強い、エドより。プラス、居る、ゴーレム」
リリスは無表情で親指を立てながら気持ち力がこもった返事をした。
そっか、思わず聞いてしまったが僕よりは強いだろう。
個人のランクをDランクまで上げているし、経験も違う。
僕は自分の事に集中しよう。
音を立てないように暗闇の森を進み、賊の背中側へ回り込む。
ゴーレムは鎧の音が鳴る為、少し離れた位置に待機している。
「指名手配、両方」
リリスがポツリと語りかける。
僕は落ち着きながら息を殺し、静かに返事をした。
「気を付けます」
「欲しい。素材、お金。どっちも」
あれ?なんか意味が分からないこと呟き始めたよこの人。
お金は分かる。懸賞金の事だろう。
素材って何?賊が奪った宝とかかな?
リリスの言葉に疑問が浮かんだが今考えなければならないのは賊。
目視で確認したところ、賊は身軽で速さを重視した男と大剣を背負ったデカい男。
探索者は夜目が利く。
僕でも顔まで見れる距離。
そういうことは賊やリリスは僕よりはっきり、昼間と変わらず見えるだろう。
気付かれないように慎重にリリスに視線を送る。
僕の視線に気づいたリリスは速そうな男をやると手で合図した。
したがって僕は大剣の男。
闇に溶け込みながら息を整える。
あの大剣はまともに受けたら致命傷は不可避だ。
危険から守ってくれる人もいない為、慎重に戦わなければならない。
問題はどのタイミングで攻撃するか。
可能であるならば両方の相手が何かに気を取られているタイミングが良い。
目の前に集中する。暗闇に溶けるように息を吐く。
心臓の鼓動が外にも響きそうなほど高まる。
「グァァァァァァァ!」
元々いた方向、音の出所は馬車の先、多分エンリカに斬られた賊の声が響く。
賊達が悲鳴に反応し、賊の意識のリソースが叫び声に大きく割かれた。
一瞬の事だが、確かに隙ができた。
僅かな隙を逃さない様にリリスが合図を出す。
「今」
合図と同時に全速力で飛び出した。
賊の頸椎の隙間に食い込ませるようにナイフの峰を繰り出す。
頸が目の前まで迫る。このまま行けば確実にダウンさせられる。
いけると思った時だった。
空気の揺れか違和感を感じたのか、賊は直前で二人に気づき、僕のナイフを右手で払うようにして受け流した。
くっ、上手く凌がれた。
最高速のため、無理矢理止まろうとすると却って隙を晒してしまう。それ故に逆らわずにそのまま賊との距離を取った。
少し上がった息を冷静に整えつつ、賊と正面から向き合う。
いかにも人相の悪い賊がにやりと笑いながら話す。
「おぅ、速さは悪くねぇ。だがまだまだだな」
賊が右手で大剣を抜き、鋭い踏み込みで間合いを詰める。
賊の袈裟斬りをスレスレで避けると、滑らかな動きで顎を狙い左足の蹴りを繰り出した。
「甘い」
「!!!」
賊が呟いた途端、僕は遙か後方の木に打ち付けられた。
「ぐわっ」
全身に痺れるような痛みが走り、肺の中の息が全て押し出された。
力が入らず、地面に崩れ落ちる。
視界が揺れて立てない。
辛うじて見えるのは賊の足元だけ。
今の状況を素早く整理しながら一刻も早く回復しようと肺を活性化させる。
後ろへ飛んでいく最中に見た賊の体勢から予想するに、剣のスイングに当たったのだろう。
反射的にナイフで防ぐ事が出来たが、暫く動けない。
骨も折れているかもしれない。
早く立たなきゃ。
何とか周りの状況を確認しようと感覚を研ぎ澄ます。
僕の事をほっといてリリスに意識を割く大剣の男、さらさらと木の葉が風に揺れる音がはっきり聞こえる。
・・・おかしい。何だこの感覚は。
近くではリリスが戦闘していたはずだ。
この短期間で認識範囲外に居るのはあり得ない。だからといって死んでるみたいな血の匂いもしない。
背筋が凍えるような感覚に陥る。
賊も妙な感覚に気づいたのか、叫んだ。
「おい!ゾーク!返事しろ!」
「男、答えない。私、眠らせた」
賊の言葉に反応したのはいつも通り感情が分からないリリスの声だった。
リリスの近くをゴーレムが歩いている。
しかし、ゾークと呼ばれた賊はどこだろうか。眠らせたなら呼吸音はあるはずだ。
大剣の男はリリスに任せてゾークを探しはじめた。
(いない。呼吸音や人がいる独特の音のズレも無い。どこに行ったんだ?)
同じことを思ったのか、大剣の賊が声を荒げる。
「そんな出鱈目信じるか!逃げたわけでもねぇ、死んだわけでもねぇ、じゃあ何処に居るんだ!?」
リリスのこの先の発言は理解出来ない。いや、脳が理解したくない恐ろしい言葉だった………と思う。
リリスが右耳の赤い宝石が付いたピアスを指差して賊の言葉に答える。
「魔道具。人、入れれる。…条件、無意識。…打った、麻酔薬。男、意識、無い」
「何言ってんだ!意味がわからねぇ!」
僕も同感。今日初めて賊に共感したかも。
リリスが賊にゆっくりと歩み寄る。
リリスの顔をハッキリと認識したらしい賊が顔色を変えて震え出した。
「お、お前は!悪魔の聖騎士の《水色の悪魔》!」
悪魔の聖騎士は王都の外でも有名らしい。その中でリリスは《水色の悪魔》と呼ばれているみたいだ。
悪魔って何をしたんだか。街を切るレベルじゃないと良いけど。
当の本人のリリスは何か思案している様子で大剣の男をまるで気にしてないように呟く。
「んー。欲しい。速いの。ゴーレム。………あー。盗賊、居る、エド」
「まさか、あの噂は本当だって言うのか!」
噂って何?聞きたい気持ちもあるけど聞きたく無い。
賊の体は身動きが出来ない程震え上がり、両手で持っていたするりと大剣が滑り落ちた。
「決めた、パワーアップ。要らない、速いの」
リリスが右耳のピアスを触る。赤い光と共に現れたゾークと言われた先程の細い方は男が地面に倒れ落ちた(と思う)。見ていないから間違っている可能性もあるが。
「欲しい。お前」
「キェェェェェェェェェ」
これからされる事を感じ取ったらしい賊が発狂した。
賊が地面から大剣を拾い、リリスに真っ直ぐ突撃する。
しかし、賊はリリスの5m以上手前で止められた。
2mはあるゴーレム後ろから腕をガッチリ取り押さえられる。
賊が暴れるが、ゴーレムは銅像のように微動だにしない。
ゆっくりと1歩づつリリス注射器を持ってが賊に近づく。
「やめろぉぉぉぉ!」
「殺した、お前、人、たくさん。命乞い、無駄」
悲痛な叫びを物ともせずに注射器を刺して薬物を投与し始めた。
暴れる賊の動きがどんどん鈍くなり、1分後には完全に意識が無くなった。
「ふう」
一息吐いたリリスは再度右のピアスに触る。
赤い光を発して大剣の賊が跡形も無く消えた。
赤い光で目を瞑ったのを最後に、僕の意識は途絶えた。




