初依頼
朝の人通りが少なく静かな王都に悪名高いパーティの声が響く。
声の出所は街の西へ移動して行き、王都の西門前で止まった。
「ギリギリ間に合った!」
「いや、多分アウトですよ」
僕は息を切らしながらエンリカに指摘する。
見るからに寝起きのカイル、ランディ、エンリカ、錬金術師のリリスまで息切れ一つしていない。
これが一流探索者と新人探索者の差だろうか。
〜時は遡り少し前〜
窓に入る清々しい日差しで目を覚ます。
昨日は店で夕食を食べた後にすぐ寝たにも関わらず、緊張や興奮であまりよく眠れなかった。
欠伸を噛み殺しながらふと時計を見る。
依頼の集合時刻まで急がなければいけないことはないが大きな余裕があるわけでもない。
僕は急ぎ気味で準備を始める。
まだ他のみんなは眠っているみたいである。
起こしに行こうと考えたが「まああの人達結構やってると思うしそこら辺は大丈夫か」ということで自分の準備だけに集中することにした。
僕はこの時の判断をすぐに後悔する事になる。
僕以外の物音がしないまま、刻一刻と依頼の時刻が迫ってくる。
・・・これ、もしかして置いていかれた?
あの人達は無いと思いたいが。
不穏な予感がして玄関を見たが僕含め全員分である5足の靴が揃えられて置かれている。
この時間、流石に起こさないとまずいか?
となると問題は誰から起こすか。
斬られるかもしれないからエンリカは無し。
女部屋に行きたくないからリリスも無し。
よってランディかカイルとなったんだが………。
ここはリーダーのランディにするか。
寝起きも良さそうだし。
ランディの部屋の前に行き、扉を恐る恐るノックする。
「……………」
僕の耳には家の外で鳴く鳥の囀りしか入ってこない。
「ランディ、入って良いですか?」
「……………」
緊張しながら扉を開けてランディの部屋に入る。
棚や机には綺麗に揃えられた魔術の本、それと裏腹に床にはぐちゃぐちゃに散らばったなんだか難しそうなメモ。
流石リーダー、頭良さそう。
床から視線を上げ、ベッドで寝息を立てるランディを見る。
金髪がカーテンの隙間から差し込む朝日を反射して煌めく。
落ち着いた印象の寝顔と相まってなんと言うか、悔しいが絵になってる。
見入る気持ちを抑えながらランディの身体を揺さぶり始めた。
「ランディ、起きてください。朝です。依頼の時間まで余裕ありませんよ」
「うん?おはよう」
眠たそうにランディがゆっくりと目を開く。
「おはようございますランディ。依頼の時間が迫ってきてますよ」
「ほうほう………」
まだ起きっていないランディに声を掛けると、ぼんやりとしながらゆっくり伸びた。
その後、頭が起きて状況を理解したらしいランディはハッとしたような声を出し急いで動き出す。
「やば、起こしてくれありがとう。他のみんなは?」
「みなさん寝てます。まだ起こしていません」
「エドはリリスを起こして。その後すぐ出発準備。カイルとエンリカは僕が起こす」
「はい!」
元気よく返事をし、初依頼前の重大任務が始められた。
リリスの部屋の前。ランディとデザインの同じ扉のはずなのに空気が重い。
まるでこの先にあるものを体が受け付けないような。
早鐘を打つ鼓動を感じながら扉をノックし、声を掛ける。
(頼む!起きててくれ!)
心の中で叫ぶ。
「……………」
僕の願いは沈黙によって打ち砕かれた。
耳を澄ますが物音がしない。
ここに入らなきゃなの?
絶対ヤバい雰囲気醸し出してるよ。
この家の地下の研究室よりはマシとはいえね。
実験の記録を見たからには帰さない的な。
「リリス、入りますよ」
意を決して恐る恐る扉を開けた。
無造作に積み上げられた本、散らばった紙、更には衣類まで交じった物が床を埋め尽くしている。
慎重に僅かな足の踏み場を縫って机に開かれている本の上で伏せて寝ているリリスに近づく。
「リリス、依頼時間ですよ」
「うっ」
深い眠りに落ちているリリスの肩を優しく揺さぶる。
リリスはうめき声を出しながら身体を動かした。
「リリス、依頼です。直ぐに準備してとランディが」
眠たそうに身体を起こし、何度か目をぱちくりさせたリリスはいつも通りの少ない言葉で返事した。
「…了」
僕の出発準備も全部終わってリビングに戻るとすっかり目が覚めたランディと欠伸をしながらエンリカを肩で担いだカイルが待っている。
え?それ、人の運び方じゃないよね?
あまり見たことの無い光景に対して、僕は脊髄反射の言葉ではなく、なんとか脳を通して質問する事に成功した。
「エンリカはどうしたんですか?」
「起こしたら寝ぼけて斬ろうとしてきたから眠らせた」
えっ、なに?こっわ!
起こしに行かなくて良かった。
「僕を先に起こしたのは良かったね。カイルは中々起きないし、エンリカはこれだし」
今日は昨日と違って最善を選び続けている。この調子で依頼も頑張るぞ。
…そもそももっと早く起こすべきだった事は置いておこう。
僕とランディの会話に一区切りがついた頃、ガシャガシャと大きい音を鳴らしながら歩く顔まで鎧で覆われた大柄な人型の物をリリスが連れてきた。
僕が目を見開いて不思議そうにしていると、視線に気づいたリリスが説明を始める。
「ゴーレム。作った。この子」
ゴーレムとは錬金術師が作る人形だ。
しかし、これゴーレムなの?なんか生きてそう。
「このゴーレム、僕たちのパーティのタンク的存在なんだよ」
「怪我、治る、直ぐ。理由、ゴーレム」
「へぇー、そうなんですね」
ゴーレムって怪我の概念あるのかな?
まあ良いや。深く突っ込まないでおこう。
それにしえもゴーレムがパーティの大事な役割って事あるんだなぁ。
ランクが高いパーティは違うのか。
「ほら、話はそのくらいにして早く行かないと間に合わないよ」
ゴーレムについてぼんやり考えているといつの間にか依頼の時刻が迫っていたので僕たちは急いで家を飛び出した。
〜そして今にいたる〜
「すみません。遅れました」
依頼には少し遅れた。
到着早々、ランディが謝罪を入れる。
流石リーダー。
「いやいや、誤差ですから気にしてませんよ。むしろこの依頼を早く受けてくださって感謝しかありません」
依頼主がランディの謝罪を「気にしてないよ」と返してくださった。
今回の依頼は商人の護衛依頼。馬車で7日の都市、ウオプへの護衛。
道中に魔物は勿論、腕利きの盗賊も出るためBランクのパーティを募集していたそうだ。
そんなところにGランクの僕が入って良いの?
みなさん守ってくださいね。
本当にお願いします。
出発前の依頼主との確認が終わり、もう出発しようとした時にリリスがぼそりと呟くように声を出した。
「提案。薬、私特製。動物、取れる、疲れ。1時間、一回、飲ませる。着く、3日後」
いや、そんな急がなくても良いんじゃ無いですか?
リリスは馬車の中で寝ている予定だから良いかもしれませんが僕(達)は外で歩くんですよ。
基本的に護衛依頼を受けた探索者は迅速に対応できるように外にいる事が多い。
更に、整備しきれていない道は整備された平地を歩くのと比べ物にならないくらい疲れる。7日の距離を3日で行くなら疲労は何倍にもなるだろう。
「どっち。依頼主」
「分かりました。折角ですのでお言葉に甘えて早足で行きましょう。それと申し遅れました私、シークと申します」
「りょ。ゴー!」
リリスは表情は変わらないまま、どこか嬉しそうに呟いた。
3台の馬車と周りの4人の探索者(+1体?)達一向はウオプへと発つ。




