交渉
チェンジアップってロマンあるよね。変化球1球種だけ極めろと言われたらノータイムでチェンジアップを選びます。
人によって変化や球速が違うのも良いポイント。
外角ストライクからボールになる逃げてくチェンジアップで三振の映像は延々と見れる。
「護衛依頼ですか」
「そうなのよ。本当はエドの実力を測るのも兼ねて討伐依頼にしようとしたんだけどね」
エンリカが僕の肩に置いた手を離す。
〜遡る事少し前〜
「ギルマス、何か用かな?」
ギルドマスターは既に部屋で待っていた。
40〜50のイカつい風貌。かつてBランクにまで探索者だった男はランディ、エンリカを見るやより一層近寄りがたい顔をする。
「ちっ、今日に限ってお前らが来るのかよ」
ギルドマスターにとって大量の当たりの中から唯一の外れくじを引いた気分だった。
「お前ら盗賊が抜けたからメンバー決まるまで来ないんじゃなかったのかよ」
「盗賊が決まったから来たの分からない?」
「アッハッハ。お前さん達冗談言えたんだな」
圧をかける笑顔でランディが問いかける。
ギルドマスターは圧を気にせず手を叩いて爆笑した。
「売られた喧嘩は買うよ」
「えっ、マジで入ったんか?」
思わず意識して纏わせていたギルドマスターとしての威厳が剥がれる。
「そう言ってるわよ。で、依頼はどんなのかしら?」
決して気が長く無い二人は本題へと急かせる。
ギルドマスターは取り敢えず二人をソファに座らせた。
「まあ落ち着け、護衛依頼とダンジョン調査だ。本来それぞれ別のパーティに頼もうとしたがお前さん達には両方やってもらう」
「冗談じゃないね。やっぱこの話は無しだ」
「おい待て!」
風貌に合った強い声でそそくさと立ち去ろうとする二人を引き止める。
「お前ら、ギルドに借りがあるよな?忘れたとは言わせねえぞ」
二人は苦虫を噛み潰したような顔になる。思い当たる節が多すぎる。
「はぁ。受ければ良いんでしょ。受ければ」
参った参ったと言うランディの言葉にせっかちなきらいがあるエンリカが続ける。
「それで対価はどうするのよ」
探索者は依頼を受けるかどうかは自由だ。強制させる為には依頼者側にしろギルド側にしろ、探索者が納得できる対価が必要だ。
「『この前エンリカが酔っ払った時にうっかり斬った街の修繕費の負担とそれによるペナルティの取り消し』で、どうだ?」
「それってエンリカだけだよね。一人でいってらっしゃい」
『じゃあ任せたよ』と言葉を送る。
「それじゃ不公平よ。ランディも色々やらかしてるじゃ無い」
エンリカがギルドマスターとランディに対して声を荒げて猛抗議する。
「うるせぇ、自分で問題起こして抗議するんじゃねぇ!でも不公平なのは確かだ。さぁて、どうしようか」
その言葉を待っていたと言わんばかりにランディが圧をかける笑顔とは違う、目が笑っていない不気味な笑顔を見せる。
「この前僕、チンピラを撃退した時に少し街壊しちゃいましたよね?」
やっちまったというギルドマスターは表情で頭に手を当て、大きなため息を吐く
「しょうがねぇ。隙を見せた俺も悪い。じゃあ『切った街』と『喧嘩』の事はチャラにしてやるからこの依頼二つ受けろ!」
「「分かりました!」」
二人は騎士団の様に大きくハキハキと揃えて言葉にして部屋から去る。
「ってことがあったのよ」
エンリカがやれやれと話した。
「は、はあ。それはなんて言うか」
僕は言葉が出なかった。
喧嘩でうっかり街壊しちゃったは百歩譲って分かる。酔っ払って街を切るって何?怖い。
やっぱとんでもないパーティだな。悪魔の聖騎士は。
「エドって泊まるとこある?」
ギルドから出たところでランディに聞かれる。
「あ、無いです」
「じゃあエドが良ければ家に住みなよ。みんなと一緒に」
「それが良いわ」
ランディとエンリカが提案してくる。
「皆さんが良ければ」
こうして僕は寝床を確保した。
そして翌日、朝日が眩しい時間帯。
今日は初依頼!緊張であまり眠れなかったけど頑張るぞ!
あれ?もうすぐ依頼の集合時刻なのにみんな起きてないから起こさなきゃかな?やだな。寝ぼけて斬られそうで怖い。
土曜日からの腰痛、ぎっくり腰と診断されました。
靴紐を結ぼうとしただけなのに(涙)。まだ若いのに。若くてもなる時はなるらしいけど、やっぱり歳とった人の方がなりやすいとのこと。
これで靴紐を結ぼうとしてぎっくり腰になった某横浜の方を笑えなくなった。
多分明日からは探索者らしいところ見せられます。




