盗賊だけど地雷の避け方教えてくれない?
「すみません、よく聞き取れませんでした。もう一度お願いしますか?」
受け入れたくない状況になると人間はこうも現実逃避をするのか、ほぼノータイムで聞き返す。
「これからよろしく、エドワード。悪魔の聖騎士へようこそ」
ランディさんの声に脳の働きがフリーズする。
えっ!なんでこうなったの!?なんで?じっちゃんこういう時どうすれば良いの?教えてよ!
いやまて、聞き間違えの可能性も京が一くらいあるかもしれない。
「えっと...簡単にいうと...」
「そ、合格!じゃあ早速こっちの自己紹介しよっか」
一縷の望みがランディの屈託のない笑顔で打ち砕かれる。
その恐ろしくもある顔に僕は100人に聞いたら100人が不気味と答える笑顔でなんとか言葉を絞り出した。
「よ、よろしくお願いします」
「僕はランディ・カーター。Bランク魔術師だよ。暫定リーダーだ。よろしくね」
色の薄い金髪のイケメンから紹介が始まった。
「私はエンリカ・ロハス。Bランクの剣士よ。よろしくね」
入り口の前で声を掛けられ(てしまっ)た赤髪の女性はエンリカと名乗る。
続いて水色の髪で眠たそうな目をした女性が淡々と述べる。
「リリス・スイーパー。錬金術師。Dランク。最後、カイル」
「俺はカイル・アキリー。魔法剣士みたいな感じだ。Bランクだ。よろしく、エド!」
床で寝ていた黒髪短髪の男が人が変わった様に自己紹介した。
「僕達とエドはチームだから畏まらなくて良いよ」
いや、探索者としての格が5段階くらい違う相手に対等に接することは今の僕には不可能。
だから名前だけ呼び捨てにしよう。
「ランディ、エンリカ、リリス、カイル。みなさんこれからよろしくお願いします」
簡単な世間話の後、ランディが布に大事に包まれたものを持ってきた。
「ウチに入るならこれ身に付けておいてね、パーティシンボルを」
「は、はい!?」
ランディに丁寧に渡されたペンダント。そのペンダントトップの形を見て思わず声が裏返ってしまった。
盾に翼を広げた蝙蝠の様な形がくり抜いてある。
かっこいいはかっこいい。
探索者のパーティシンボルはかっこいいものが多い。
しかしカッコよくはあるが縁起が悪そうなそれは余りにも異質と言えるパーティシンボル。
この時、パーティ名を言われたが思い出せない事に気づいた。いや、気づいてしまったというべきか。はたまたここまできたら逆に早くに気づけて良かったと考えるべきなのかもしれない。
「好きな所に着けていいからね。リリスはピアスにして左耳に。他は左腕にブレスレットにして着けてるよ」
みんなはペンダントじゃないんだね。
いや、それはどうでも良くないかもだがどうでも良い。
パーティ名を聞かなければ。嫌な予感がするが後々知るよりも今気付く方がまだマシだろう。
ランディが丁寧に教えてくれてるところ、僕は今日一番の勇気を出して尋ねた。
「質問いいですか?」
「答えられるのなら何でも」
イケメンスマイルで返される。薄い金髪の輝きも合わさってものすごく眩しい。
少し怯むが大きな深呼吸をして口を開く。
「このパーティの名前は何と言うのですか?」
一瞬の静寂に包まれる。
僅かな時間ではあるが、凍るような静寂。胃がキリキリしてきた。
「さっき緊張して聞こえてなかったのかな?悪魔の聖騎士だよ」
「えっ...い、意味はあれで良いんですよね...?」
きっと僕の知識不足だ。そうとしか思えない。そう思いたい。他に意味があるはずだ。
「そう、そのまま悪魔の聖騎士で良いんだよ」
僕の知識不足の線は完全に無くなった。
やばいパーティ入っちゃったかも。
既に何となく察しているけど。
あっ、で…でもなんとか褒める言葉を言わなきゃ。
「ユ、ユニークな名前ですね」
その言葉が放たれた途端4人の顔が曇る。
明るく、和やかな雰囲気が急に冷え、肌寒くなった。
やっちゃった!これ絶対地雷踏み抜いちゃったよね!?どうしようこの空気。
探索者は命懸けだ。常に死のリスクが付き纏っている。パーティメンバーが欠けることも少なくない。
僕用のパーティシンボルを保管していた。
新しいパーティメンバーを募集してるとなると...。
ああ、本当にやっちゃったな...。今日は来るパーティも間違えちゃったし。厄日なのかもしれない。
貰ったペンダントもピカピカで一見新品に見えるが、よく見ると年季が入っている。
恐らく悪魔の聖騎士の前任の盗賊の物であっただろう。
なんか重いな。
あまり言いたくないけど魂と一緒に怨念も宿ってそう。
本当に申し訳ないけど着けたくない。でもそんなことすると取り憑かれそう。
あれぇ?これ詰んだかな?
そこそこ長いの沈黙の後、重々しくカイルが口を開いた。
「パーティ名、悪魔の聖騎士は前のリーダーが決めたんだ」
ああ…。
でもいつか聞かなければいけない事かもしれない。だからこの際思い切って聞いちゃうか…。
胃が絞られるように痛むのを耐えながら声を出す。
「その、前のリーダーは僕と同じ盗賊だったんですか?」
「ああ、そうだった。凄いやつだったよ」
「それじゃ、やっぱり…」
パーティメンバーに悪い事してしまった。
ごめんなさい。
「もうすぐ子供産まれるから辞めたんだよ」
(ん?)
ランディの言葉に唖然とする僕を気にせずリリスが続けた。
「両親、元探索者。死んだ、両方、小さい頃。子供、寂しい、させない。辞めた、理由」
リリスのゆっくりとした発言に僕は雷に打たれた様な衝撃が走った。
えっ、ちょっと待って。ご存命なの!?良かったけどなんであんな空気なってたの?
僕の胃の痛み返してよ!
取り憑かれること無くなったし!普通に良いけど!
何より探索者としては分からないけど親としてはめちゃくちゃいい人じゃん。
『パン!』
ランディの手を叩く音に全員が注目する。
びっくりした。心臓が飛び出しかけた。びっくりさせないでよランディ。
「湿っぽい話はこの辺にしてパーティ登録に行こっか!」
ランディ、エンリカ、僕の3人でつい数時間前まで居たギルドへと向かう。
これまで感じたことのない胸のざわつき。
ギルドへ近づくにつれて違和感は大きくなる。
注目されている。しかし普通の注目の視線じゃない。
嫌な予感がしてならなかった僕は耳を澄ませて周りの会話を聞き取り始める。
「おっ、おい見ろよ。あの悪魔の聖騎士と一緒に歩いてるぞ」
「どんなメンタルしてたら出来るんだ!俺なんか………考えただけで背筋が震える」
「アイツ、アレか?たしか悪魔の聖騎士って盗賊の募集してたよな」
「いや、ないない。アイツどう見たって新人だろ」
「でもよ、王都に数日も居れば探索者なら噂は嫌でも入ってくるだろ?噂を聞いた後にあそこに入りたいと思うか?」
明らかに良い評判ではなさそうなガヤが聞こえる。
・・・・・これヤバいパーティじゃん。
やっぱり悪い予感が当たっちゃった。所謂地雷パーティってやつ?
今日は晴れのち地雷。地雷に気をつけましょう、だね。
どう気をつければ良かったんだろう。
「今日はいつもより注目度高いね」
「そうね、何でかしらね」
僕の心情なんかつゆ知らず元凶(?)であるランディとエンリカは「あはは」と談笑している。
カイルとリリスの二人は家の自室でグッスリ寝ている模様。




