ノーコンとは生来の課題であり個性なのである
巨大な岩をくり抜いた高さ、幅共に3m程しかない岩肌をカイル、僕、ランディ、リリス、ゴーレム、エンリカの順で歩いて行く。
少し進むと高さも余裕のある広場に出る。
そして更に分岐している道を少しづつ進む。
これを繰り返しバンコク、気配がした。
ザラザラと岩肌を削るような音、その音は蛇行しながら確かにこちらに向かってきている。
「来ました!」
「おう!手出しすんなよ!」
カイルが勢い良く返事をする。
丁字の分かれ道の突き当たりの10m位手前でカイルが迎え撃つ態勢を取った。
一般的な剣士とは逆の右の腰に刺した片刃の剣。剣の柄に左手をかけると空気が凍るようにピリピリし始める。
カイルは動かず、ジッと待ち構える。
息が詰まる中、曲がり角から直径約1mのオーアスネークが飛び出した。
カイルはオーアスネークを確認する同時か直前、魔法名を呟く。
「岩弾」
無詠唱とは思えない威力、無詠唱では考えられない早い構築速度、そして僕には見えない程の速さの岩弾がオーアスネークを襲う。
凄まじい音が鳴り、地面が揺れる。
岩弾は見えなかったが、確実に言える事がある。
オーアスネークには命中していない。
オーアスネークの鱗は傷一つ無く、鉱石の様に鈍く輝いている。
オーアスネークよりも5mは手前の地面、カイルの放った岩弾による罅が出来ていた。
オーアスネークが岩弾で少し怯んだ隙にカイルが接近する。
オーアスネークは、近寄らせまいと黒い液体を吐き出した。
微塵も躊躇せずにカイルは更にスピードを上げ、接近する。オーアスネークが液体を吐き終わると同時に開いた口の目の前に跳び上がった。
「この距離なら外さない。|《火の矢」
オーアスネークが蹌踉ける。
創り出した隙を逃さずにカイルは一瞬でオーアスネークの胴と頭を両断した。
胴と頭が離れたオーアスネークは消滅し、魔力に還った。
凄い。動きは見えるが、殆ど追えない。
最初の魔法は命中こそしなかったが、当たった場合はその時点で消滅させる事が可能な位の威力。
剣技も滑らかで無駄がない。
あ、でも・・・
「蛇の群れが来ます!」
「カイル、ノーコンなんだから遠距離ブッパしないでって何回言ってるのよ」
10mって遠距離なの?一般的に中距離位だと思ってたけど。
「これでこそカイルだね。この群れは僕がやる。あの分かれ道の中心に」
ランディが笑いながら指示を出す。
カイルって魔法はノーコンだったんだ。
元々魔術師だったとは聞いていたが、こんな理由で前衛にコンバートしたのか。
僕達はランディの言う通りに分かれ道の中心に立つ。
オーアスネークが全方向から迫り来る。
ランディが背中に背負っていた1m弱の大きな杖を両手で握り締め、目を閉じて詠唱を始めた。
「風刃渦」
ランディが魔法名を唱えると無数の風の刃の渦に包まれた。
突進してくるオーアスネークが風の刃に斬り刻まれ、吹き飛ばされていく。
一般的に風属性の刃は斬る事にエネルギーを割いている為、オーアスネークの様な巨体を吹き飛ばす程の威力は無い。だから、僕の予想が正しければ風の刃のすぐ後ろに吹き飛ばす風をセットで造っているだろう。
《一切操造》全てを造り、操るランディに相応しい二つ名だと思う。
風の刃の危険性に気付いたオーアスネークは黒い液体を吐き出す。
しかし、風の渦は攻撃を弾く。
「これ、毒」
「こいつら毒は持っていないはずよね」
「ダンジョンが危機を感じ、進化したのかな?」
猛攻を受け流す中、まるで安全な部屋の中の様に話し始める。
この人達どんだけ強いのか想像出来ないな。
多分これも全然本気を出していないだろうし。
毒を受け流し始めて少し経って、ランディが確認した。
「みんな分析とかもう大丈夫?」
他の三人が頷く。
するとこれまで渦状の風の刃を残りのオーアスネーク達に飛ばす。
寸分の狂いもなく、全てがオーアスネークの頭に命中して真っ二つにした。
針の穴に遠くから糸を投げて通す魔力操作の後にも関わらず、ランディは疲れを全く感じさせない涼しい顔で声を出す。
「よし、まずは蟻のボス部屋に行こっか!」




