エドワード・クレイ
この世界は魔力に満ちている。
魔力は世界中に大きな力を齎した。
魔力で強化した人類は強化してない人に比べて有り得ない力を手に入れた。
しかし、魔力で強化されたのは人類だけではない。魔力で強化された生物の魔物、魔力が溢れかえった地で顕現するダンジョン。凡ゆる脅威から人を守り、未知を求めて突き進む英雄、探索者。
英雄の卵が孵り、その一歩を踏み出そうとしていた。
「やっと着いたーーー!」
村から近くの町まで歩いて丸々2日、乗り合い馬車で1週間揺られてやって来た王都アレタネス。
馬車から降りて身体を伸ばす。そして想像以上の痛みに顔を顰める。
1週間固い場所に座りっぱなし。若いとはいえ体に堪え無いはずがない。
ガッチガチに固まって全身が痛い。
「よっし!」
頬を手で軽く叩きながら強く息を吐いく。
気合で身体の痛みを誤魔化し、王都の検問へ進んだ。
「うむうむ、探索者志望ね」
僕の番が来ると20代に見える門番が独り言のように呟く。
「何も言ってなくても分かるんですね」
「そりゃぁあれば分かるよ。ここ長いからね」
「そうなんですか、この仕事どのくらいなんでしょうか?」
「始めてもう2週間かな?」
意味ありげに笑いながら言葉を返される。
2週間?長…くはないよね。突っ込まないでおこう。
それは置いといて冷静に考えてみたら確かに見れば分かるな。希望に満ち溢れた少年と青年の間のような年齢、刃渡20センチ程のナイフを携えている。1人はやや珍しいらしいが僕でも十分分かる。
「通行料2万ネイと書類書いてね」
「はい」
門番さんが出した紙に必要事項を書いていった。
「そのナイフを王都の中で抜いたら警備隊が来て最悪お勤めになるから注意しな」
「分かりました。気をつけます」
指示に従いながら手早く終わらせた。
「そうだ、探索者志望なら探索者ギルドに行くんだろ。道教えてやるよ」
「ありがとうございます」
勤務2週間の自称ベテラン門番さんの道案内と応援の言葉を受け、王都への門をくぐる。
「王都、凄い」
外へと近いここの大通りでは探索者向けの武器屋、道具屋、防具屋などの店が並ぶ。
通りは村の祭り以上の活気に満ち溢れている。
さらに王都の外へと続くこともあって村や村の近くの町ではほとんど見ない探索者が何人も見掛けられる。
恐る恐る教わった通りに探索者ギルド、即ち王都の中心部へと進んむ。一歩進む度に賑やかさはどんどん増していく。
王都のほぼ中心へと進み、目的地と思われる場所に到着する。
そこには想像以上の大きさの建物がデカデカと建っていた。
落ち着いた雰囲気の綺麗な白い壁にガラスの窓。周りの建物の倍はある高さに被さる渋い青の屋根。これが探索者ギルド王都支部。
「でっかいな。横幅、村の家何個分だ?」
口から本音がこぼれ落ちる。
目線を戻すと、ギルドの建物から出入りする屈強な前衛らしき人に熟練そうな盗賊や魔術師。その顔には経験からくるものか自信や高揚が現れている。
それに対して僕はここまでの王都の雰囲気に精神が疲れている。
1週間の長旅に加えて王都の熱気に当てられて肉体的、精神的にもうヘトヘト。自慢じゃない、寧ろ褒められたもんではないが僕のメンタルは雰囲気に左右されやすい。簡単に言うとメンタルが強くない。弱くはない(と思いたい)が。
「ギルドの登録、明日にしようかな?」
ダメダメ、これまでの村での訓練を思い出せ。
踵を返そうとした自分を制止して覚悟を決める。
経験上、後回しにすればするほど僕は心の準備が必要になってくる。こんな感じだと1週間くらいかな?お金の余裕は残り少ないからすぐにでも働かないといけない。
弱い自分に打ち勝ってギルドの扉を開けた。
探索者は基本的にギルドに登録することが義務付けられている。納税もギルドへの会費という形で行われる。ギルドに登録するメリットとしては、仕事が回ってくる、メンバーを集めやすい、認定ランクに応じて宿、公共施設などの待遇がある。それに万が一、死亡した場合の手続きがしやすい。
「こんにちは。探索者ギルドへようこそ」
「こんにちは。新規登録したいです…」
茶髪を肩で切りそろえた世間的には(多分)綺麗な女性が朗らかな笑顔で迎えてくれた。それに応えようと必死で対応したが緊張と疲れからか語尾が小さくなってしまう。
「登録でしたら名前、年齢、出身場所を記入してください」
「は、はい…」
眩しすぎる笑顔に返答が押しつぶされた。
『名前 エドワード・クレイ
年齢 15
出身場所 デレイフ領スローク村』
「書、書けました」
「では、こちらをよく読んでよろしければサインしてください」
1文字も見落としがないように熟読する。
簡単に言えば「探索者のルールはこれです」と「探索中の出来事は自己責任ですよ」という事。
署名欄にエドワード・クレイとサインした。
「出来ました」
「じゃあ軽く説明するね。
ランクはG〜Sの8段階、一般的にG〜Eの真ん中位が駆け出し、B以上が一流ね。成果に応じてランクが上がるよ。基本的に重いルール違反や有罪判決を受けるとかじゃないとランクダウンはないから安心して」
「はい」
「君は見たところ一人だよね?」
「そうですね」
「最近の新人にしては一人は珍しいね」
グフッ
心に何かが突き刺さる音がした。
やめて、心の傷を抉らないで。決して友達がいない訳ではない。村が小さくて同じタイミングで探索者になる人がいなかったんだ。師匠で元探索者の村のじっちゃんは王都に行く途中に一人や二人は見つかるとか言ってたけどなんか居なかったんだ。
「どうしたの?大丈夫?」
見抜かれていた。まあ貴方が刺したんですけどね。自分で刺して大丈夫?って…あ、いや悪気はないのは分かっているんですよ。
「だ、だいじょうぶっす...」
「パーティメンバー募集の掲示板はあそこのエリアだから。これから頑張ってね。あと分からない事があったら気軽に職員に聞いてね」
「ありがとうございました」
早速メンバー募集の掲示板を見に行く。
「盗賊募集、盗賊募集っと。あっ、あれはランクE以上。あれはランク不問だが経験必須か」
僕の役割の盗賊は主にダンジョンの罠の解除、索敵、先行などをする。戦闘ができる人はパーティに何人いても困らないが盗賊は他の役割よりも戦闘力が劣る人が多い。盗賊で戦闘力が劣ってない人は例外中の例外しか居ない。また、盗賊の代わりを戦闘職が務められても戦闘職の代わりは、大凡の盗賊には荷が重い。さらに各パーティに一人で十分な点も募集が少ない要因だろう。戦闘力の劣る役割として治癒士もあるが、回復魔法が使える者は多くない。その為募集の3割程は治癒士の物だった。
「うーん、仲間探しからやるしかないか…」
ガッカリしながらふと掲示板を見上げると一番目に入りずらい端の張り紙目に入る。
『盗賊募集
ランク、経験不問!
希望すれば寝床あり!
アットホームなパーティです。
未経験でもメンバーが優しく教えます。
一緒に強くなりたい人募集中!
お問い合わせは(住所)まで!』
「これだ!」
昂る気持ちを極限まで抑えて焦るように書いてある住所へ駆け出す。
この時、僕は大変なミスを犯してしまっていた。その事に気づくのに1時間も掛からなかった。
『悪魔の聖騎士』
不定期になるべく高頻度で上げてきたいです。




