バタフライエフェクト
冬が過ぎ、春の日差しが小さなマンションを暖めていく。
二人は静かで穏やかな生活を繰り返す。金曜日に外食をして、帰りに稲荷神社へ寄る。
愛子がいつもの様に5円玉を賽銭箱に投げ入れ、パンパンと手をたたくと、祠の中から「コン」と狐が鳴く様な声が聞こえた。
愛子は驚いた。
「今、祠の中から、鳴き声がしたわよ」
「いや、わかんなかったな。だけど愛子のお祈りに答えてくれたかもしれないよ」
「そうだったら嬉しいなー」
愛子は無邪気に喜んだ。そしてマンションに戻り、いつもの様に共にベッドに入った。
愛子は弘幸の胸に顔を埋め少女の様に眠ってた。
はるか違う次元での未来。
天文省の報告が地球連邦に出された。西暦2000年代にアルファ次元時間時間の乱気流が起きていたという時間歴史学の報告だった。
この時代の科学は時間をある程度把握している。時間は相対的で、空間と絶対的に結びついているわけではなく、無数の時間の流れが空間と同期して存在している事がわかっている。
時間は川の流れのように、障害物や異次元の影響を受けると、部分的に渦巻き状態になり、時間の逆流など様々な変化をきたす。
時間歴史学の学者は、遠い違う次元に残っている時間の変化の残滓を調べてこつこつと研究を積み上げてきている。
「ふむ、アルファ次元では、この時期核戦争が起こったとみえる。その爆発の影響がかなりの次元にまで及んでいるようだ。
おそらく空間と時間の剥離が一時的に起こったのだろう。並列に存在する次元では時間の乱れで人間に何か変化が起こったことは間違いないな。
かなり小さな変化だから、大きな事件にもならなかったようだが、他の次元には、様々なバタフライ効果が発生しただろう」
そうつぶやいて、老科学者は又研究室に戻っていった。
日曜日の朝。二人は目を覚ます。何となく様子がおかしい。
愛子は顔を触り、体をなで回す。そして裸のまま浴室に行き鏡の前に立つ。
そこには50代の愛子ではなく、20代の体の愛子がいた。乳房はぴんと張り、体には染み一つない。体だけ若返っていた。急いで俊之の所に行く。
俊之も50代の俊之ではなく20代の体の俊之が眠っている。
俊之は、愛子から強く揺さぶられ目を覚ました。そして愛子を見て絶句する。
昔の愛子がそこにいたからだ。