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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
真夜中のサブリミナル!?
19/21

兎に尋ねましょう

 亜津兎は黙り混んだまま応えない。

「……亜津兎」

 ポツリと名前を呼んだ。

 彼は応えないーー。

 遠くで聞こえる蝉の声。

 重苦しい沈黙。

 額から流れる汗。

 いつまで沈黙が続くのか、いい加減僕が我慢できなくなった頃、ようやく彼が応えた。

『……用件はそれだけか?』

 応えた声は、記憶にある声とは少し違っていた。

 声変わりしたんですね……。

 声から感情を読むことは出来ない。

「はい。……例えば昨日、力を使いましたか?」

 あれが亜津兎だと言うのなら、話は早い。

 だが、そうでなければーー。

『俺はお前を許したつもりはない』

 その言葉に息を飲んだ。

 冷たい声が僕を支配する。

「……あ」

『けど、余計な疑いをかけられるのも迷惑だから、教えてやる。俺の蛆は離れたところにいる人間に意思を伝えることも出来る。けどな、距離には限度がある』

 亜津兎が、僕の問いに答える。

 蝉が遠くで鳴いていた。

『今俺がいる場所から、お前の場所までは無理だ。何か媒介物があれば、話は別だけどな』

「あ、ありがーー」

『勘違いするな』

 お礼を言いかけた僕の言葉を亜津兎は遮った。

『余計な疑いをかけられたくなかっただけだ。俺はお前を許すつもりない』

 ピシャリと言い放つと、ブツリと通話を切られる。

 冷たい言葉が胸に突き刺さり、ズキズキと痛んだ。

 あれ?

 何でしょうか? この感情は?

 受話器を持ったまま、片方の手で胸を抑えた。

 酷く胸が痛かった。

 忘れたつもりはなかった。

 許してもらえるとも思ってはいなかった。

 それでも、まだ僕達はーー。


 下唇を噛み締める。

 これは、結局は僕の甘えだ。

 僕が甘えてた。

 胡蝶がヒラヒラと舞う。

 コール音が数回鳴って電話が繋がった。

 あれ? 僕はかけてないんですけど……。

『亜鶴沙。亜津あつの言うことは気にしなくていい。あいつも意地になってるだけだから』

 受話器から聞こえたのは、時雨の声。

「……そうでしょうか? ……よく電話出来ましたね」

 能力を使って電話をしていたのに。

『胡蝶の力で電話をかけられるのは、能力の応用だろ? 簡単に言えば、電話回線をハイジャックしてるようなもんだ。能力を使っているってところ以外は普通の電話と変わらないよ。履歴は残るし、公衆電話にかけることは出来るから、こちらからかけるぶんには普通の電話と同じだよ』

 そう言って電話の向こうで時雨は笑った。

 なるほど。時雨の説明はいつもわかりやすいですね。

『さっきの話だけど、亜津のあれは照れ隠しみたいな部分もあるから。あいつ本当はお前のこと心配してるんだ』

 ……心配?

『胡蝶の能力を使ったろ? それが確認できてる。おまけに暴走したって』

 あ……。ゴールデンウィークの時のことだ。

『それ亜津兎も知ってるんだ。お前がまた傷付くんじゃないかって心配して怒ってるんだ』

 本当にそうでしょうか?

 僕は二人にとても酷いことをした。

「……時雨は僕のこと怒ってないんですか?」

 本当は許してるんですか? そう聞きたかったけれど、勇気がなかった。

 蒸し暑い電話ボックスにいるのに、亜津兎の一言で体は凍りついてしまったようです。

『……怒ってる』

 少し黙った後、時雨はそう言った。

 ドキリと心臓がなった。

『それはね、亜鶴沙がまた胡蝶を使ったからだよ』

 あれ? 少し想像とは違った答えが来ました。

「……」

『でも、私は良いことだと思う。力を使ったのは、前に進もうとした証拠だろ? けど、連絡が欲しかった。どうして一人で何でもやろうとするんだ? 私も心配したんだよ。だから怒ってる』

 時雨は、僕に伝えようと言葉を紡ぐ。

 時雨の言葉は不思議といつも僕の胸に響く。

『亜鶴沙、人に心配かけたら、ごめんなさいって謝るんだよ』

 ああ。時雨は、僕のこと心配してくれたんですね。

「……ごめんなさい、時雨。心配してくれてありがとうございます」

 ありがとう。時雨ーー。

『うん。いいよ。亜鶴沙、一人で無理するなよ。私は側にいてあげられないけど、皆の力になりたいから。だからーー』

 頼ってーー。

 その言葉が胸にすーっと入ってくる。

 どうして、時雨の言葉は僕の胸に響くのでしょうか?

「分かりました。……亜津兎と話させてくれてありがとうございました」

 そのまま、電話を切ろうとすると時雨は待ったをかけた。

『もっと電話して。手紙でも良い。亜津兎も喜ぶ。本当はあいつ寂しがり屋なんだ』

「分かりました」

 ガチャリと受話器を置いて、電話を切った。

 久しぶりに話す相手だった。

 でも、僕のこと見ていてくれてたんですね。

 懐かしい友人は、もう友と思ってないかもなんて思ってたのに、頼って、そう言われた。

 もっと電話してとも。

 それがとても嬉しいのです。

 ポタポタと涙の粒が落ちる。

 ありがとう。

 時雨。

 心配してくれてたことが嬉しい。

 本当は怖かった。

 罵倒される。そう思っていた。

 そうされてもおかしくないことを、自分はした。

 けれど、心配してくれてた。

「……ごめんなさい」

 そして、ありがとうーー。

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