第二十六話 「開戦」
肝心の開戦が別視点というアクロバット展開です。
実際の激突は次話になるのですが・・・
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
むう、そろそろ人物紹介更新しないといけませんねえ。
イダヴェル帝国剣術団アークロイガー第一軍 作戦計画部従卒 アリエン・ワーデルガーの巻
僕は気が重かった。
だって、せっかくコルベイン王国への遠征が終わって大勝利になったと聞いたのに、戦争はまだまだ続くんだって。
僕がお仕えしているのはウォーレンナック大将軍の懐刀と言われている、アスタニーヴ・サイレン将軍だ。
コルベインではイダヴェル軍が酷いことをしたって帝都で噂になっていた。
僕らはそんなことはしていない!
あれはきっとデュラハン大将軍がやったことなんだ。
ウォーレンナック大将軍はすごく怖いけど、仕方ない時以外は無益な殺生はしないはずだ。
あのお方は凄く無駄を嫌うもの。
サイレン将軍はその兼ね合いがよくわかっていらっしゃるので、ウォーレンナック大将軍の信頼が厚いんだ。
今度の戦争はバルディスが相手だ。
コルベインほど楽じゃないんじゃないかな。
でもサイレン将軍は心配ないとおっしゃっている。
イダヴェルのいくさは革新的だからなんだそうだ。
昔の戦争では代表の騎士一名ずつが互いに進み出て、名乗りをあげて一騎打ちをして勝った方が有利な陣地に陣取って戦争してたりしたらしい。
僕にはよくわからない。
名乗りをあげてるときに弓で撃ったらダメなんですか?って聞いたら、昔の戦争では卑怯と言われ色々な国から攻められたりしたそうだ。
おかしなルールがあったみたいだ。
僕が知っている戦争はもっと単純だ。
歩兵さんたちが整列して槍を構えて突撃する。
弓兵さんたちが一斉に矢を射掛ける。
騎兵さんたちは両翼から撹乱する。
魔法兵さんたちは魔術で戦況をコントロールする。
強い方が勝つ。
戦争なんだから仕方ないと思う。
そうやって戦場でいくさがはじまってしまうと、実はサイレン将軍にはあまり出番がないんだ。
将軍はいくさがはじまるまでが忙しい。
「どのように戦端を開くかで勝敗の8割は決まっているのだ」
将軍はよくそうおっしゃる。
戦場にどれだけの兵をどうやって、どこに展開させるか。
それ以前に、どういうルートでどこを攻めるか。
食べ物や水や薬や、荷馬や騎馬の餌だって切らしたら大変だ。
敵だってバカじゃないから、いろいろ考えてくるだろう。
それをどうやって見破るか、見破れなくても不意を衝かれても大丈夫な準備はできているか。
将軍はそういうことを全部考えて作戦を立てて大将軍に進言するお仕事をなさっている。
すごく立派だと思う。
戦場にいくと、参謀という仕事をする方がいらっしゃって、陣形を調整したり、突撃のタイミングを見極めたりと大将軍のお考えの助けになるそうだ。
立派な方たちと、無敵のウォーレンナック大将軍がいらっしゃる僕達は絶対負けないと思う。
だって見渡す限り兵隊さんたちで埋まっているよ。
地平線が動いてるみたいに見えるんだ。
もう少ししたら縦列隊形に組みなおして街道を進軍する。
そうしたら僕らが通り過ぎるだけで丸一日以上かかっちゃうね。
帝都にいるときもサイレン将軍はとても忙しそうだったけど、出発してからは寝る暇なんてないんじゃないかなって思う。
僕はお仕事のお手伝いはできないので、夜に暖かいお茶を運ぶくらいだ。
「やあ、ありがとうアリエン」
「すこしはお休みになってください。お体に障りますよ」
「ああ、もう少し手配することを詰めたら寝るとしようか。お前の兄上が飢えてしまうと困るからな」
僕の兄上は騎兵団の第二陣にいる。
僕よりも全然背も高くて、たくましくて、騎兵突撃は騎兵団の中でもすごい威力だって褒められているんだ。
兄上はとても優しくて勇敢で僕の自慢だ。
僕は兄上のようになりたいけれど、ちょっと無理かもしれない。
それならサイレン将軍のように頭を使う仕事で兄上を手伝いたい。
将軍にそれを話すと、頭を撫でてくれた。
「よい心がけだね、アリエン。それならいっぱい勉強をして、あとはいっぱい旅もしなければいけないね」
「旅ですか?」
「うん、視野を広げることはとても大事なんだ。物事を一方の面からしか見られないと必ず失敗をするからね。柔軟な見方、失敗を恐れない勇気、失敗しても次善の策をいち早く考える冷静さ。それらは旅が育んでくれるものだとわたしは考えているんだ」
サイレン将軍は僕にとって父上と同じくらい尊敬するお方だ。
国境が近づいてきた。
もうすぐバルディスに入る。
偉大なるバシュトナーク皇帝陛下が出発前におっしゃられていたことを思い出す。
「様々な国、様々な法、様々な考え方、実にくだらぬ!
それらの違いはやがて行き違いとなり、軋轢となり、憎悪となる!
憎悪は破壊と略奪を生み、生きとし生けるものの営みを何代も後退させる!
東方王国然り、前イダヴェル王国然り、古代魔法王国もその呪縛からは逃れられなかった。
我らはどうだ!?同じ轍を踏むか!?
否!
断じて否である!
我らは地平の全てを単一の法、単一の価値観によって統べる!
厳格かつ公正な道徳、合理を追求した規律によって全ての者を歩ませるのだ!
後ずさる者、立ち止まる者のない完全な世界、我らが目指す世界の第一歩が今まさに始まらんとしている!
後世の歴史家は我を血に飢えた覇王と呼ぶのか!
笑止である!
我とそれに続く勇敢な民は汚名を恐れぬ!
理想に燃え、大義を胸に進まぬ者こそ大罪人である!
世界を緩慢な滅亡にさらしてはならぬのだ。
古代魔法王国のように全てが灰燼に帰す未来に手をこまねいていてはならぬのだ。
我と共に立ち、我に続け!
道は我が指し示す!
汝らは迷わずについてくるだけでよい。
苦難の先にのみ理想はあるのだ!」
難しくてよくわからなかったけれど、凄い拍手だった。
兄上に後で聞いてみたら、
「いろんな国があって戦争していたら、いつまでも戦争がなくならないからバシュトナーク様が全部の国一つにしてしまえば、もう戦争が起こらなくなるよっておっしゃられたんだ」
と教えてくれた。
なんてすごいことを考えるのだろう。
では僕たちはこの世で最後の戦争をしにいく最後の軍なんだなあと思った。
すごいすごい。
興奮が止まらなかった。
でも、最後の戦争が終わったら兵隊や軍はいらなくなっちゃう。
その時、兄上やサイレン将軍はどうするのだろう。
僕もサイレン将軍のような仕事はできなくなってしまうなあ。
そしたらなんでもいいや。
ばあやの焼いてくれるパンはとてもおいしいので、作り方を教えてもらってパン屋さんになるのもいいかもしれない。
うん、そうしよう。
イダヴェルとバルディスの国境は大きな川で隔てられている。
本当は軍が川を渡るのは大変なことなんだそうだ。
なぜかというと、あまり深いところや流れの早いところだと流されてしまう。
橋をのんびり作っていたら敵に壊されてしまう。
そして川を渡っている時に矢を撃たれたりしたらたくさんの兵隊さんがうまくよけられなくて死んでしまう。
でも平気だってサイレン将軍はおっしゃった。
「今回は奇襲だからバルディスにあまり備えはできていないんだ。それに国境付近に詰めている兵力は約2000、近隣の兵力を結集しても12000。これでは我々15万と当たれば一瞬ですり潰されてしまう。だから彼らは我々を見つけたらまっすぐ逃げるのが一番得策なんだ。2000の守備兵が後方へ伝令もできないまま全滅してしまえば、次はウイラードの10000が奇襲にさらされてしまう。これではいけないね」
よくわかったようなわからないような。
敵は少ないから逃げるってことだね。
川の手前で見通しのよい大きな平地があったので、僕たちはそこで整列した。
いよいよはじまるたいくさの前にウォーレンナック大将軍がみんなに激励をしてくださるそうだ。
大将軍のお声はすごく大きい。
台の上に乗って喋るだけで平地の隅の方までよく聞こえる。
こんな大声で怒られたら、すごくしょげてしまうと思う。
「皆ご苦労!各人の尽力により全行程はすべて予定通りだ。これより渡河作戦に入るが、万事予定通りで変更はない。敵領侵攻後は陣形を組み直し粛々とゆく。策は必要になったところで練る。さし当り必要ない。我らは王者の戦いをすればよい。当たった敵は全て排除せよ!」
それはそうだ。こんな大軍が攻めてきたら誰だって死にたくないし逃げてしまうだろう。
サイレン将軍にそう言うと、
「そうだよアリエン。数が多いというのはそれだけで圧倒的な力になるんだ。今日この場所にこの数の精強な兵を集めること、それが戦略というものだよ」
準備を充分にすること、訓練をたくさんすること、お金や食べ物をたくさん集めておくこと、それがすでに戦争なんだなあ。
ウォーレンナック大将軍の15万は大きく5つのグループに分かれて川を渡ることになった。
その中でもまたグループに分かれて、また分かれて、一番小さく分かれたグループは5人組なんだって。
5人の中でリーダーを決めて、リーダーはグループの人がちゃんと揃ってるかをいつも気をつけていて、遅れたりする人がいたらグループみんなで助け合っていくんだ。
川の浅くて流れの緩やかなところは限られているので、15万人が渡りきるまでには何日もかかった。
僕は馬に乗っていたからいいけど、歩兵の人は大変そうだ。
いくらイダヴェルやバルディスが暖かいったって今は白の月だよ。
寒い中で川に入ったら風邪をひいてしまう。
川を渡りきったところではあちこちで焚き火が焚かれて、服を乾かしたり、体を温めたり、スープを飲んだりしていた。
ちょっとのんびりしているなあと思ってしまったけど、ゆったり構えて、じっくり攻めればいいので問題はないそうだ。
そんな中でも4人の歩兵さんが台を担いで(御輿というそうだ)上に一人のローブを着た人を乗せて川を渡っていくのが見える。
あれは魔術団の方だ。
1000人もいるのにひとりひとりがサイレン将軍より丁寧に扱って貰っているみたいだ。
中でもアシュケム・ヴィドマー様の乗っているのは桁が違う。
ヴィドマー様は帝国魔術団アトラーヴェイの団長で今回のいくさに魔法兵の3分の2を連れて直々に出陣なされた。
皇帝陛下よりも見る機会の少ない方なので、これは貴重だ。
と思っていたけれど、ヴィドマー様は50人くらいの大勢の人に担がれた特製のすごく豪華な台の上にある部屋におられるので全くお姿が見えない。
この台は普段は車輪がついていて、4頭の馬と10人くらいの人で引っ張っているんだけど、川を渡るのは危ないので、車輪をはずして手で運ぶそうだ。
宝石とかはさすがについていないけれど、上等そうな木材とぼんやり光る魔力を帯びた石が近寄りがたい雰囲気だった。
ヴィドマー様は風の魔術を得意とするので「嵐の導き手」と呼ばれるすごい魔術師だ。
あまりにも強いカマイタチを作ったので地割れになったとか、敵の砦をまるまる結界に閉じ込めてしまい、空気を抜いて全員窒息させたとか、聞いただけでも震えがきてしまうような恐ろしい話ばかりだ。
とても気難しいらしいので、僕は側仕えにならなくて本当によかったと思っている。
きっとすこしでも失敗をしたら、ネズミやヒキガエルに姿を変えられてしまう気がする。
ヴィドマー様ほどの魔術師なら、きっとそんな魔術だって使えると思う。
結局深みに足を取られ溺れて亡くなった人が何十人もいたらしい。
戦争に行く前に死んでしまうなんてやりきれないだろうな。
御輿を担いでいた兵隊さんたちが一番多く亡くなったそうだ。
魔法兵の人はみんなすぐに助けられたので無事だった。
魔法兵の人は本当に大事にしてもらっているなあと思う。
イダヴェルの軍は全部で50万人くらいいるんだって。
でもそのうち1500人しか魔法兵はいないから大事にされるのかもしれない。
僕達が最初に攻めるのはバルディス王国の南方国境守備拠点であるジェルケルハイム砦だ。
何年かに一度は、まるで恒例行事のように攻めてきていたんだって。
イダヴェルが5000くらい。守るバルディスが2000くらい。
砦に近いところに陣を張って、矢を射掛けあったり一騎打ちをしてみたりして、2ヶ月くらいすると勝負がつかずに引き換えしてくる。
そんなことを何度もやっていたようです。
何故だかわかりません。
「それはね『我が国とお前達は敵同士だからいつ本格的に戦争をするかわからないよ』というポーズをとるためなんだよ、アリエン」
「どうしてそんなことをする必要があるのですか?」
「相手を油断させないためさ」
「相手が油断したほうがよいのではないですか?」
「相手が油断しすぎて、よそへ、たとえばミクラガルドやコルベインといった同盟国に攻め込んだら困るだろう?」
「ああ、なるほど」
今でこそ属国になってしまった眠り湖を囲んだイダヴェル、コルベイン、ミクラガルドは以前は対等な付き合いをしていた。
それでも一番大きいイダヴェルがリーダーみたいな立場だったから、守ってやる、もしくは守ってやるぞーというポーズを示す必要があったそうだ。
でもあんまり被害は出したくないし、本格的な戦争もしたくない。
だから何年に一度か、相手の国でイダヴェルに対して何だか不穏な空気になったら、ちょっと攻めて撃退されるっていうのが丁度いい具合だったそうだ。
サイレン将軍はその頃の戦いに参陣したことはないそうだ。
でも将軍の直衛の騎兵さんの一人で結構なベテランの人がいて、その人は思い出話を聞かせてくれた。
「あの頃はまだ俺達も自分を騎士だって言っててな。一丁前に騎士の誇りとか言ってたもんだ」
騎士と騎兵の違いはなんでしょうか。誇りなのかな。騎兵に誇りはないの?
「向こうにも面白いヤツがいっぱいいてな。にらみ合いを続けていても飽きるからって何度も一騎打ちをやるんだよ。見物してるやつらも盛り上がって、さながら祭りのようだったな」
騎兵さんは楽しそうに言っています。戦争が楽しかったのかな。
「俺と一騎打ちしたヤツは丁度腕前がトントンくらいでなあ、いつまでやっても勝負がつかん。お互いいいかげんに疲れてきて夕暮れになる頃には『またな』って声をかけあって別れたんだ。そしたらよ、その夜にこっそりそいつが砦を抜け出してウチの陣まで来てよ」
それは驚くだろうなあ。夜襲だと思うよ。
「酒瓶を出して、『とっておきのヤツを持ってきたから一杯やろう』って言うから驚いたぜ。それで隊長には内緒で何人かで酒盛りしたんだ」
それじゃあまるで友達みたいだ!
そして騎兵さんは僕の耳元に顔を近づけて小さな声で囁いた。
「いいかい坊や、とかく戦争ってのは偉い人達が大層なことを言ったり都合のいいことを言って、相手の国を憎ませたり俺達がすすんで戦うように仕向けたりするもんさ。でもな、今の話のように相手も同じ人間なんだよ」
どきっとした。たしかにこんな話を将軍に聞かれたら凄く叱られてしまうかもしれない。
だってバシュトナーク陛下が間違っているみたいなことを言うのはよくない。
でも、騎兵さんが言ってることもわかる。相手は魔物や怪物じゃなくて、同じ人間だ。
そう思うとちょっと震えてきた。
「でもな、俺達も向こうも兵隊だ。兵隊ってのは戦争が商売だ。そうやって仲良くなったヤツでも戦場で会えば迷わず殺さなければならない。キツいだろうが坊やもいつかそんなことになるかもしれない。いつも覚悟だけはしっかり持ってな」
はい、と僕は答えた。
僕が戦場で実際敵と切りあうのかはわからない。
でも、戦争に関わるということは人が、敵も味方も死ぬ仕事に関わっているんだって忘れちゃいけないんだ。
僕は震えでガチガチ鳴る歯を必死で食いしばった。
もうすぐ戦争が始まるんだ。
歯が鳴るのがいつまでも止まることはなかった。
ジェルケルハイム砦は僕の目から見てもすばらしくいい場所に建っていた。
両脇は切り立った山が迫っており、それを迂回するには魔物が多く棲む森を抜けなければならないそうだ。
幸い砦は物凄く大きいわけではなく、中にいるのも2000人くらいだ。
きっと15万人が攻めてくるのを見たらすぐに逃げ出してしまうだろう。
砦に面した平原に15万人は整列できない。
だからまた陣形を縦長にして、3万の精鋭が先鋒を務める。
重装槍兵団、弩兵団、重装騎兵団、攻城兵器団がそれぞれ配置につく。
僕とサイレン将軍は先鋒には入っていないが、開戦の様子を見るために先鋒の直後につけていた。
ウォーレンナック大将軍もすぐ傍にいたのでとても緊張した。
平原に日が昇る。
いよいよ開戦だ。
ウォーレンナック大将軍は何も言わずに頷いた。
合図が先鋒まで送られて、先鋒の指揮を執るチェスター将軍が大声を上げる。
「アークロイガー進軍せよ!」
アリエン君は今後どうなるんでしょうかねえ(遠い目&他人事)
イダヴェル帝国は広大な国土、肥沃な土地、人口はバルディスの2倍以上と非常に国力が高いです。
人材も豊富っぽいなあ。サイレン将軍みたいなまともな人ってバルディスではいなかったような・・・
さあ、次話も頑張ります。
気合次第では年内、遅くとも松の内には更新します。
それでは皆様、楽しいクリスマスを!




