第二十五話 「いまだ静かな時」
待っていた方、お待ちどうさまでした。
初めての方、はじめまして。
気がつけば25話です。
1話がそんなに長くないとはいえ、クオーターまできましたよ。
アニメなら2クール目前ですよ。
これがアニメなら盛り上がらないまま2クール・・・。
打ち切りじゃないですかあ^^;
コンゴトモヨロシク。
事後のウイラード辺境伯の動きは迅速だった。
弟の子爵の拘束と所領没収、後継者の指名(これは一応息子にしてあげた。必要以上に禍根を残さないためだ)、呼応した者の更迭、罰金の徴収等々。
これは有事で時間がないせいもあるが、僕は身内の恥というかいまいち弟を御し切れなかった気恥ずかしさではないかと思ってしまう。
まああくまでも身内での揉め事、という風にしようという僕らの心遣いに応えたものだろう。
ついでにトラップ作りに勤しんでいると思われるジレコ伯爵への物資後送。
ジェルケルハイム砦で残っている国境警備隊への補給手配。
僕らも念入りに補給を行った。
特に、いよいよ開戦が近いので矢、武器、交換用の防具といった類はここで本格的にそろえる。
同じく気恥ずかしさもあってか、ウイラード辺境伯は同行するとは言ってこなかった。
1万の騎士団と残る民衆を率いて早急に出発の準備を進める。
民衆は東部ピアーズ侯爵領へ、騎士団はそれらを護衛しながらピアーズ侯爵領を経て王都へ向かう。
開戦時には移動中になるだろうが、イダヴェルに捕捉されなければ問題はない。
復興時にはそのまま逆ルートで帰り、予定では自分達のほかに他の領地で募られた復興事業労働者が入って復旧を助力する。
期間労働者の予定だが、復興の状態や双方の希望によってはそのまま入植する。
そうした働き口を求めてくる者は、所領が小さいか俸給によって運営される貴族の三男以降や、貧農の次男以降が多い。
復興後の町や村は以前と比べて人口が増えることは考えにくいので、人が増えることはいいことだろう。
無論、トラブルはあるかもしれないが、やがて収束していく問題だ。
それら復興事業の財源は王も悩んでいた。
莫大なものになることは目に見えている。
これについては当面諸侯や他国からの借り入れで賄うしかないだろう。
焼け石に水かもしれないが、ここはラノベのお約束として僕の現実世界のノウハウでも投入してやろうと思っている。
とはいえ単なる一学生。
都合よく画期的発明品となるべきものの製法をたまたま知っていたり、石油鉱脈の掘り当て方から、原油の精製工程を偶然知っていたりするわけもない。
ということで様々なソフト的手段を手ほどきしておいた。
例えばリゾート開発。
東部海岸の美しいビーチ近辺にコンドミニアム的なヤツを建築し、美味しい海の幸と海水浴を中心にしたリゾート地を作る。
ここからがキモで、多頭立ての大型馬車を多数建造する。
この馬車はサスペンション構造を導入したこの世界初の馬車だ。
生活品を担当する鍛冶屋に聞いてみたら、仕組みは理解できたらしい。
僕らの世界ではトラックのサスに使われている、比較的簡単な構造のサスペンションで、反らせた鉄板を何枚か重ねて、キャビンとフレームの間に噛ませる。
これによって路面のギャップは軽減され、馬車はより高速で快適に走れるというわけだ。
大戦が終わったらコイルスプリングのサスも開発に入り、この馬車を工業輸出品にすると同時に、この馬車でこの世界初のパックツアーをやるのだ。
人口の多い内陸都市から馬車と護衛の冒険者でリゾート地へ。
これまでは遠出には時間も費用もかかり、道中の不安もあったろうが、一度に多くの人数を運搬することによりコストを下げ、行程の短縮や道中の安全も同時に図るという画期的なものだ。
さまざまなツアー企画がやがて出てくると思われる。
この世界に旅行の楽しさを教えちゃおうというものだ。
なにせあまりレジャーがないので、はまると思われる。
中流むけの短期、近距離、低価格ツアーなんかも企画したいね。
このあたりはいたくカーマインさんも乗り気で、リゾート地の選出や用地取得のための下調べ、護衛戦力として都市騎士団の若手の研修をかねてはどうかというプランまで既に頭を回転させ始めていた。
その他、ちょっとしたアイデア商品なんかを開発しながら爆発的ヒットを模索していきたい。
そういえば海の幸デモンストレーションをランドルフさんと厨房で取り組んでみたのだが、このあたりは川魚しかとれないため刺身がちょっとキツかった。
やはり素人にマスのとかイワナの刺身は敷居が高すぎる。
当然醤油ないし、レシピもわからないので塩コショウで食べたのもまずかったが。
海にいくとどんな魚がいるのかね。
あーアジのタタキ食べたい。
ショウガは探せばありそうだな。
醤油のハードルが高い。
最悪柑橘類と辛子からゆず胡椒(のようなもの)を作って、ぽん酢と食べてもウマい・・・
醤油なくてぽん酢作れねええええええ!
ラーメン食いたい!チョコレートも食いたい!ポテチも食いたい!あ、ポテチなら作れそうだな、これも売り物候補に入れとくか。
・・・取り乱してスイマセン。
「ジャガイモってあるんですか?」
なんとなくランベールに聞いてみる。
「ありますが、北部のほうが比較的に入手しやすいです。南部の方はタロイモとかサツマイモが多いです。食べたいのですか?」
「あ、いやあ後学のために聞いておきたかったのです・・・サツマイモ?」
「ええ、調理方法はタロイモよりバリエーションが少ないのですが、乱切りにしてスープにしたり、すりつぶしてパイにすると甘味があるので人気はありますね」
焼き芋しらんのか?
これは焼き芋屋も流行りそうですわ。くっくっく。
この世界の女子を、あの黄金の悪魔の魅力の虜にしてやるぜ。
焼き芋売って復興予算になるとは思えないけどね。
なんか話が逸れた。
第一全部戦争が終わってからのお話。
戦争を知らない子供達である僕には緊迫感が足りない。
基本方針をきちんと説明することになり、広場に全員集める。
「これから我々は国境防衛の要であるジェルケルハイム砦へと向かいます。敵は開戦にあたりここを攻撃することは間違いありません」
「国境守備騎士団2000とオレらで死守するってワケですか?」
クーリア。
いや違うってキミにはもう言ったはずなんだがなあ。
「いいえ、敵の侵攻に合わせて撤退します」
「砦はタダでくれてやるワケですか?」
「そうなりますね。敵にはなるべく油断して欲しいので連戦連勝を味合わせてやります。わたしたちは負け続けます」
「そんなの悔しいじゃねえですか。こうなんつうか一矢報いたいですよ」
お、アホなのに難しい言葉使ってきたね。
「負けるといっても負けようと思って負けるので問題ありません。むしろうまく負けてやる方が難しいです」
クーリアはよくわからん、という顔で唸った。
「そうですね、じゃあクーリア、敵と戦って優勢となり敵が逃げ出します。あなたはどうしますか?」
「そりゃおっかけてケツに斬りかかりますね」
「うんうん。そしたらあなたの隊は本陣から離れますね」
「そうなります」
「単純にいうとそんなかんじです。わたしたちは少数なので機動力がキモです。敵を挑発して逃げれば放置できずに追撃されます。これからうまく逃げると隊列が乱れます」
そこでバクスターが挙手。
「しかし敵はありえぬような大軍なれば、少々の隊列の乱れなど問題にならぬと思えますが」
「そうですね。繰り返しやると敵は飽きてきます。『ああ、またちょっかいだけか』と。そのあたりで多少痛撃してやります。すると次回からはまた警戒せざるを得ません」
「そううまくゆくものでありましょうか」
「敵は15万の大軍ですが、われわれは15万を相手にする必要はありません。100騎を包囲するとしてもせいぜい1000騎。地の利はこちらにあるので相手が多勢であってもなんとか逃げられるはずです」
「ふむ」
いやまあ、いきあたりばったりだってのはわかってるんだ。
でもたぶん局地戦を制圧して撤退するとハナから決めていればやりようはあるはず。
味方死者0が理想だ。被害が出たら心が折れて王都まで逃げ帰りそうな気がする。
「目的は敵が緊張状態であることを持続させてやることです。たまには大仕掛けもして寡兵だとあなどられないようにします。そして士気を下げられるだけ下げて最後の仕上げを王都でやるのです」
「その最後の作戦が明かされぬのは何か複雑な事情でもありまするか?」
「う~ん、まあ細部が煮詰まってないので変更される可能性があることと、内容があまり・・・その・・・聞こえが良くないので」
僕の歯切れの悪さになんとなくみんな白けている。
「詰めに入ったらもちろんお話します。その時はどうか・・・」
言葉を切って真面目な顔をする僕にみんな食い入るような視線を向けている。
「嫌いにならないでください!」
コケた。
さてジェルケルハイム砦の戦力はやや多すぎるので半分は即時撤退していただく。
もう半分は見せ兵力として残って貰い、敵が見えた時点で「すごく大慌てで逃げ出した」ように撤退していただく。
ここは無血占領でもぬけの殻にする。
最初から罠しかけると警戒されるしね。
道中ちょこちょこは仕掛けるけど。
ダシュワーから残った民衆が避難するのを手伝って一週間も過ぎた頃。
いくつかの梯団に分かれたウイラード騎士団もあらかた出発し、子爵は護送用の檻つき馬車で奴隷のようにドナドナしていき、殿をつとめる辺境伯の本隊も準備を整えた。
辺境伯は下馬して僕のところへやってきた。
「世話をかけた」
「行きがかりですので何でもありません」
「最後に聞くが本当に100騎で15万を相手どるのか?増援は必要ないのか?」
「まさか!そんな一人で1500人も倒すなんてバシュトナークでも無理ですよ。武力は重要ですが、結局数には勝てません。イダヴェルと正面からやりあったらキリがないので数は集めても犠牲が大きくなります。100騎で当たれば最初から勝とうという気にならないので全力で逃げられます。逃げて逃げて、寄り道などさせずに王都まで連れて行きます」
「そうか。また会おう」
「ええ是非。次は戦勝会でお会いしましょう」
「ふっふ」
再び馬上の人となった辺境伯に敬礼をする。
「それはどういった意味があるのだ?」
あ。
いけね。
思わずキメようと思ったら、現実世界の軍隊式敬礼しちゃったよ。
「あーー、これは昔旅をした東方の国で伝わる騎士同士の敬礼です。辺境伯には失礼でした」
「いや、その敬礼はいいな。きちんと目をみながらできるではないか」
辺境伯は敬礼を返して寄越した。
「無事を祈っている!サイカーティス卿!」
辺境伯は再び隊列に戻っていく。
敬礼で見送っていると、いつしか回りのやつらも敬礼している。
「アニキ、これかっこいいっすね」
「そ、そうですか?」
「これをウチの隊の敬礼に決めましょうや!」
いや、ガラの悪いキミがやってもカッコヨクナイ・・・
だが賛同のこえが広まり、結局現代軍隊式敬礼がメルレン隊の敬礼になってしまった。
ちなみに陸軍式の方です。
南部最大の街ダシュワーから人気がなくなった。
物資はあらかた運び去ったが残っているものも多い。
これはイダヴェル軍のためのご褒美的なものだ。
焼き払ってしまってもよいが、酒もない、女もいない、金もないでは連中が荒っぽくなってしまう可能性がある。
しかしあまりにもただくれてやるのは惜しいので一部の食べ物に毒など仕込んだりする。
「テスカ、ご苦労様」
「あ!お頭!」
毒の取扱いにたけているテスカはイダヴェル向けの最初のトラップを設置することになった。
「間違って食べないように注意してくださいね」
「あはは!アタシはそんなにマヌケじゃないよ。ただウチには足りないヤツもいるから毒を仕込んだものはここの物置において鍵をかけとくよ」
『足りない』騎士ってヤダなあ。やっぱり野盗じゃんね。
「仕込んだ毒は即死するようなものですか?」
「いや、いろいろにしてあるよ。一辺倒じゃつまらないだろ?」
バリエーション豊かにすると面白いというものでもないと思うが
「ヒヨスだろ、ウルフズベインだろ、ベラドンナだろ、麦のカビ毒、オオアカトカゲの毒、熱帯岩ヘビの毒、珍しいところじゃフグ毒も持ってるよ。仕込んだ量はわざとまちまちで、2,3日熱出して寝込むくらいから、食べて直後に確実に死ぬ量まで様々さ」
「怖いですね」
「まあ扱いさえ間違わなきゃ大丈夫。今挙げた毒だって、きっちり量を計ってやれば鎮痛剤になるものが多いんだ」
「物知りですねえ」
素直に感心するとテスカは照れた。
「お頭にはかなわないよ!アンタはたいしたもんだ」
「いえわたしは長く生きているだけですから。しかしこれでイダヴェルも無闇に拾い食いできなくなりますね」
「ははは!そりゃあいいね!口に入れるものをいちいち毒見しなきゃならないってのは相当ストレスだろうね」
「うんうん。まさしくそれが狙いです。敵地で、敵の数もよくわからず、罠に警戒し、食べ物や水も毒を疑い、奇襲に神経を尖らせて、長距離を行軍していれば、きっと神経が参ります。ちょっとしたことで歯車が狂うような状態まで追い込んでやりましょう」
「お頭、顔が悪い人になってるよ」
いかんいかん。忘れてたがジェントルだったっけ。
空き家となった大きい宿のいくつかを勝手に宿舎にしていた。
部屋割りは適当なのだが、アル君は同室、サラとランベール、リュタンが近くの部屋というのがなんだかお約束のようになっていた。
いつもの稽古を庭でやっていたのだが、今日は弓の稽古だ。
ご多分にもれずエルフのメルレンは弓がうまい。
名手というレベルには程遠いのだが、並の弓兵隊なら教官になれる。
アル君は素質充分で大分競り合うようになってきた。
今日はサラとランベールも交えて弓のゲーム大会にした。
宿の酒庫にあったワインの樽の蓋に的を描いて木の幹に打ち付ける。
あ、ちなみに中身はスタッフでおいしくいただきました。
1番手僕。
矢は見事に的中。いわゆるブルズアイ状態。
「ご主人様お見事です」
「弓は『ハナレ』が大切です」
講釈師、見てきたような嘘をつき。
的まで歩いていき矢を抜く。
2番手アル君。
矢は見事に的中。
おお!これはピンヘッド状態!(僕の射た穴にずっぽり刺さってるの意)
アル君が「戦場じゃこんなものサーカス芸にもなりゃしない」とか言ったらコワイけど。
「すごいですね!」
「わああ!やったああ!マグレですが嬉しい!」
ううう、無邪気にはしゃぐアル君を見てかわいいと思う一方、現代の一部地域で起こる紛争とかで見る少年兵の姿を思い出してしまった。
すまん、アル君。
僕がキミを血と硝煙の戦場へと巻き込んでしまったんだ。
・・・実際はこの世界では珍しいことではないので仕方ないのだけどね。
3番手サラ。
ああ、惜しい。的には当たったが、中心からはすこし外れた。
「悔しいですわ!」
プンスカ。
「いやでも最近は弓の鍛錬などしていないでしょうに、この腕前は立派ですよ」
「あなたも普段弓など持っていないでしょう?」
「うん、まあそうなんですけどね」
4番手ランベール。
「あ、わたしは遠慮しておきます・・・」
「遊びですから気軽にやってください」
自信がないのか腰が引けているランベールが面白くて、つい強引に弓矢を持たせる。
「うう」
恨みがましくこちらを見つめるランベールに向かって僕はニッコリ。
ランベールは渋々弓に矢をつがえ、ん?なんか不恰好だな。
ビヨ~ン。
矢は前にではなく斜め上に飛ばされ、ぽてっと地面に落ちる。
「・・・・」
「・・・・」
「だから嫌だったんです!」
ちょっと吹き出しそうになっている僕を見てランベールは涙目で怒っていた。
「誰しも苦手はあるものですよ。では少々手ほどきいたしますよ」
僕はランベールの背に回り、ランベールの手を取った。
姿勢を直してやろうと背中に手を回すと・・・なんとも色っぽい状態になってしまった。
「ちょっとお!メルレン!わ、わたくしにも手ほどき願えませんこと!?」
ガタっと立ち上がるサラ。
ランベールは赤面している。
うわ、なんだこのラブコメ的展開は。
「ハ、ハハハ・・・ランベールの指導が一段落したらサラにも教えますので」
その後、騒ぎを聞きつけたリュタンも、おずおずと指導を願い出たが、これはもう弓の弦が引けないレベルだった。
アル君はそんな様子をにこやかに眺めていた。
もうすぐ年が明ける。
こうしてゆっくりしていられるのも今のうちだけかもしれない。
いや、でもなんか戦場でもバカやってそうな気もしないでもない。
みんな無事で切り抜けられますように。
いつも愛読、評価、お気に入り、感想ありがとうございます。
さて次回からはようやく第一部の本編に入れそうです。
しかし、雑なわたしはプロットがすげえぼんやりしてるので、書いてる途中で思いつくことが多いのです。
書き終わったら推敲もそこそこに投稿。
これが雑な内容の原因です。
いいや開き直って
「わたしのお話は新鮮、締めたて、捌きたて!」
をキャッチフレーズにしようかな。
いいえスイマセン。
遅筆で見直しの時間が取れないだけでございます。
誤字、脱字、内容の矛盾、名前のウッカリのご指摘もお待ちしております。




