第二十四話 「なぜだかウイラード領攻略戦」
ふふふ毎週更新が帰ってきましたよ。
いつまでもあると思うな親と更新。
いや、むしろ
いつまでもあると思うな親と応援。
うん・・・こっちだな・・・
トーマス・ヘンドリクス・ウイラード辺境伯。
バルディスの貴族の中でも五指に入る実力者だ。
他にはゼフィアの亡き祖父エンフィールド公爵は先々代の王妃を出したことで知られる。故ヴィダルは先代の宮廷騎士団長も務めた。
エンフィールド領は王都から北にしばらく行ったところにあり、広くはないが交通の便がよく経済的には潤沢だ。
バルテルミの父、ピアーズ候爵は王都西側の海に面した一帯を統治している。
海運や漁業などが盛んで、バルディス海軍は候に一任されている。
ウイラード辺境伯はピアーズ候と並ぶ権力者だ。
辺境伯と侯爵は同一にされる場合もあるが、バルディスでは文字通りの意味で分けられている。
すなわち辺境伯は所領が王都から遠い場合。
侯爵は王都に近い場合だ。
他には領土を与えられていない法衣貴族というものもいて、大臣などで侯爵がいる場合も辺境伯とは言わない。
また、王は世襲で継承順位によって自動的に決まるため、選帝侯という地位もない。
ウイラード家当首トーマスは代替わりしてまだ年数が浅い。
年齢も30代なかばだ。
本来は5つ上の兄が家督を継ぐはずだったのだが、病死してしまったため急遽当主となった。
貴族では当主の万一を考えて、次男などの次席継承者に対しても後継ぎと同等の教育を施すため問題はなかった。
無論扱いは天と地ほどの差があるものなのだが。
兄に比べてトーマスは文の人であった。
武に優れていた兄を経営面で補佐しようと、勉学に励んできたそうだ。
若い頃から先代を補佐し、領内での信望も築いてきたため、トーマスの領主就任は好意的に迎えられた。
だからこそ今回のイダヴェル襲撃に一番怒り、悲しんでいる。
広大な領土を守るため貴族中随一の騎士団の規模を誇るが、その兵力1万余騎をもってしても歩兵中心とはいえ15万を超えるイダヴェル軍にはひとたまりも無い。
ジェルケルハイム砦には王都直轄の国境守備兵力2000も駐屯するが、どちらにしろ焼け石に水だ。
アホほどの大軍だ。まともに正面からやってはいけない。
それは辺境伯も重々わかっているはずだ。
怒り、悲しむ以外にできることがなく、そんな自分の不甲斐なさも怒りに拍車をかける。
今回は全隊をもって辺境伯のもとへ向かうことにした。
補給も兼ねるためだ。
道々見て回った領内の避難状況は5割というところだった。
進軍が冬というのが幸いし、農作業については大分落ち着いている。
が、小麦などは本来種まきのシーズンになるので来期の食料不足は深刻になるかもしれない。
直轄領や他の諸侯領、友好国に対しては既に増産の打診をしており、凶作にでもならなければなんとかなる見込みだが、苦しいことには変わりない。
小領であれば静穏な環境を好む領主などは、町から離れた小高い丘の上に屋敷を建てて住むこともあるが、さすがに辺境伯ともなるとそうはいかない。
ウイラード辺境伯領の中心はダシュワーという大きな城砦都市となっていて、南部交易や物流の一大拠点であり、城壁内部には長期間自給できるだけの様々な産業の施設、能力が集約されていた。
農工業や牧畜は言うに及ばす、人造湖での養殖漁業や、林業、丘陵地帯には各種鉱脈が露出していたり、坑道が掘られたりと各種資源や物資も潤沢であった。
これらを効率よく行える立地を発見し、都市計画した先達はよほどの偉人であったことだろう。
民衆もまたウイラード辺境伯を誇りに思っており、ウイラード領民であることもまた誇りに感じていた。
『帝国なにするものぞ』
そう考える者が多くいるのもまた仕方ないことで、辺境伯は自身の意見もあろうが、まず領内の意見を取りまとめることに苦心しそうだった。
その結果が・・・
「お引取り願おう!」
いや・・・なんでやねん・・・
城門は堅く閉ざされ、警備隊長と思しき槍兵は城壁の上から高らかにのたまわった。
どうしてこうなった。
「わたしは陛下の命を受け、この地へ参りました。ウイラード辺境伯様に何卒お取次ぎを」
「必要ない!我々はここでイダヴェルの攻撃を凌ぎきり、領民を守る!」
子供じみた話だ。15万の兵力と魔法兵1000を相手にどうやってもちこたえられよう。
篭城する相手が長期戦のつもりなら、魔法兵団で合成魔術を練って、戦略級の威力を持つ魔術を行使してしまえば壊滅だ。
1000もの魔術師がいれば戦略級魔術でも準備に1週間とかかるまい。
ましてや相手は攻略部隊だ。
のんびり歩兵のみで攻めてくるわけではない。
破城槌などの攻城兵器もあるだろうし、夜陰にまぎれて城壁を登って侵入する隠密部隊もいるだろう。
それを知らぬウイラード辺境伯ではないはずだ。
同じ意見だったらしくバクスター・ポロニアムが並んできた。
「メルレン様、なにやら様子があやしき風ですな。ここはひとつ我におまかせあれ」
うん、まあ埒が明かないし頼んでみようか。
「わかりました、お任せします」
「ありがたき幸せなり」
どうもこのおっさんの喋りには慣れない。
「雑兵!貴様の名と身分を名乗るべし!」
いきなり雑兵呼ばわりされて警備隊長はむっとしたようだった。
「ダシュワー北門警備隊長、サイモン・ウーリッジだ!」
「覚える必要すら感じぬ小物なり!貴様ごとき小物の言で陛下の勅命をいただく我らを追い返そうとはなんたる不遜!」
勅命と言われるとちょっと怯んでしまうサイモン隊長だった。
「貴様の言がそのままウイラード辺境伯閣下の言ならば、閣下は国家に弓ひく逆賊として一族ことごとく討たれようぞ!」
「なっ!」
うわ!言うなあ。
しかし、現状をみれば確かに正しいかもしれない。
結局作戦を破綻させる端緒を作ったとなれば、なんらかの処罰はまぬがれない。
しかもそれが明らかに王の命令に背いたものであれば、最悪敵と内通したと言われても仕方ない。
自分達が全滅してしまえば罰すら受けることもできないが、歴史に汚名を残すことだけは間違いないだろう。
サイモン隊長は自分の裁量権を大きく超えた内容にうろたえている。
「さあさあ!急ぎ辺境伯閣下をここに!なんなら代理の責任者でも構わぬ!」
代理?
と僕がおかしな顔をすると
「これはおそらくウイラード辺境伯の御意志ではありませぬゆえ」
と、バクスター。
「内乱ですか?」
「規模はわかりませぬが、おそらくは」
なるほど。迫る危機に暴発した勢力がいるかもしれないということか。
「貴様らか!安全な王都で我らの地のみを敵に蹂躙させるような真似をしようというのは!」
ウイラード辺境伯ではない誰かが登場した。
「だれです?」
小声でバクスターに囁くとバクスターも小声で
「辺境伯の弟、レスター・ウイラード子爵ですな」
「ふむふむ」
一応お偉いさんなわけか。
「はじめまして、わたしはバルディス宮廷騎士団団長代行補佐兼任参軍を陛下より拝命しました、メルレン・サイカーティスと申します」
「知らん!」
うわ、小物扱いされ返されました。
「誤解のなきように申し上げますが、今回の策はわたしの立案によるものです。陛下には御裁可をいただきましたが、陛下もいたく心を痛めていることをご理解ください」
「ではなぜ全軍をもって南部国境で迎撃せぬのか!」
「はい、敵国境近くでの戦闘になりますと、敵は補給が容易です。また形勢が五分となれば、無理押しはせずに第二軍、第三軍を一挙投入する可能性もあります。そうなればおそらくバルディス軍は壊滅し、コルベインでの惨劇が全土で繰り返され、マガニア、キャルバルまでもが戦火にさらされるでしょう」
「国内に引き込めば、勝てるというのか!」
「勝てるとまでは残念ながら申し上げられません。我らは最小限の被害をもって敵を押し返せればよいのです」
「敵を叩くことができなければ繰り返しになるのではないか!」
うーん、ネタバレになるんだが言っても問題ないか。
「いえ、イダヴェルはこれより一年の後、バシュトナークが討たれることにより、その勢力を大きく減じます」
「!!!!」
驚いたのはウイラード子爵だけではなかった。
隊の連中もみんな目まんまるだ。
ひどい騒ぎになったが、ようやく収まってきた。
理由は単に続きを聞きたかった、ということだ。
「誰に討たれるというのだ!バルディスの騎士か!?マガニアの全能皇帝か!ヒヤルランディの英雄王イルベオスか!?」
「カタラクの王ダルタイシュです」
しーんとなった後、また大騒ぎだ。
「誰だ!?」「知らないぞ」「カタラクは王がいたか?」「族長会議があるだけじゃないのか!?」
まだダルタイシュはデビュー前だ。
知られてないのも無理はない。
今頃は第一軍の進発にあわせて、クスコ・ガンカナーが特使とは名ばかりの降伏勧告のための使者としてカタラクへ赴いている。
そして蜂の巣をつっついたような騒ぎになるカタラク諸部族連合領を代替わりしたばかりの若いセルワー族長、ダルタイシュが10日間で平定してしまうのだ。
地上最強の男の鮮烈デビューまではもう少しかかる。
「何故お前にそれがわかるのだ」
ウイラード子爵は呆然と聞いてきた。
「予言の書というものを見たからです。大賢者に少々ツテがありまして」
さあ、この辺から無理が出てくるんだよなあ。
鵜呑みにするには眉唾すぎる。
「よ、よし、では仮にお前のたわごとが真実だとしよう。とすれば我らはここで一年篭城すれば勝ちではないか。覇王が討たれてほうほうのていで逃げ帰る奴らの後背を衝き、好きなだけ領土を切り取ってやればよいのだ」
あ、調子に乗っちゃった。
「15万の軍を追撃するには相応の犠牲を覚悟しなければなりませんし、逆侵攻を恨みに思ったイダヴェルが戦力を整えて反攻するかどうかは予言の書をもってしてもわかりません。第一・・・」
言葉を切って、僕はわるーい笑いを浮かべた。
「魔術師を知らなすぎです。わたしは魔法剣士の技を使いますが、魔術もある程度は修めております。わたしくらいの魔術師ならば、このダシュワーの城壁など一人で落としてみせますが?」
謙遜しといた。帝国魔術団はアシュケム・ヴィドマーという恐ろしい使い手がいるが、多分帝都を離れていない…と、願いたい。
1000の魔法兵の指揮を執る者はそこそこやるだろうが、所詮人間だ。
暇に飽かせてアホほど魔術修練ばっかりやってるグレイエルフはだいたい達人級の魔術師だし、魔力も生まれつき多い。
たまに人間でもリュタンみたいなのが現れるが、ごくまれと言ってもいい。
これは挑発だ。
事態を早急に打開するには荒業が一番。
「ほざきおったな!このエルフめが!難攻不落といわれたジェルケルハイムにもひけをとらない、このダシュワーを単騎で落とすとな!」
またみんな目がまんまるだ。
「よかろう!お前のホラが真になるならば、兄上に会わせてやろう!」
「わかりました」
「大丈夫ですか?」
アル君が支度をしてくれている。
一応軍装だが、ぶっちゃけ魔術でカタをつけるので普段着で歩いていってもいい。
しかしまあ形式というか様式美というか、まがりなりにも宮廷騎士団なので騎士然としていたほうがいいと周りに言われた。
「大丈夫ですよ。本来地下迷宮などで手詰まりになったとき使う魔術なんですが、いいのがあるんですよー」
「ご主人様のことだから心配はないと思うんですが・・・」
アル君は目の前のダシュワーの巨大な鉄門を見上げた。
門扉全体が鉄塊で作られており、重さも厚みもデタラメだ。
内部の閂も鉄製で、施錠、開錠は滑車で行い、門の開閉は巨大な装置を使って馬が十数頭で歯車を回すというシロモノだ。
鉄はおおよそ2m四方の分厚い鉄板がリベットで繋ぎ合わせてある構造だ。
高さは20m、幅は扉1枚で10m、厚みは20mmくらいありそうだ。
「使う魔術は生物や生物由来のもの、たとえば木などには使えないし、接触発動なので発動によって危険があるときには使えないし、1つの部品にしか使えないのでたとえばチェインメイルなんかに使っても無意味ですし、意外と使えない魔術なのですが・・・」
「そ、そうなのですか」
「でも大丈夫。まあ見ていてください」
僕は騎乗したままゆっくりと門に進む。
(パーツ1個、というか1枚は大きいし、接合面もしっかりしてるな。これなら大丈夫そうだ)
僕は充分に安全を確認すると、背後のメンバーと城壁でじっとみている警備兵やウイラード子爵にぶんぶんと手を振った。
「それじゃいきますよー」
詠唱開始。
「万物を形作りし普遍の理を我は読み解く。其は塵芥より成りし器なり。我は今その器の結い目をほどき、塵へと返さん」
右手より発動。
手を門に当てると魔術で編まれた走査の糸が2m四方の鉄の板の中に潜り込んでいく。
単一の素材で作られたひとつの物。
しかしそれは分子間結合力によって結びついた鉄分子の塊。
魔力はそれら分子のひとつひとつにからみついていく。
「崩壊」
発動の瞬間、鉄の板だったものは分子間結合力を0にされ、目に見えないほど細かい等量の鉄の粉へと姿を変えて崩れ去った。
後に残るのは2m四方の入口だった。
僕はあっけに取られる警備隊を尻目に悠然と馬を進め、肩をすくめた。
「制圧も可能ですが、まあだいたいこんなかんじでしょうか?」
以前メルレンが使った時には地下迷宮で閉じ込められる罠からの逃亡に使用したらしい。
ところが通路を塞ぐ岩だと思って魔術を使用したのは迷宮の壁、しかも迷宮の構造を支える岩盤だったらしく、大規模崩落を起こす地下迷宮から命からがら脱出したらしい。
改良して詠唱省略し、相手の武器を崩壊させようと試したが、自分の手を切り落とされそうになり断念したこともあった。
というわけで非常に使いどころの難しい、ありていにいえば役に立たない魔術だ。
重機で現金自動預け払い機を持ち去るデタラメな泥棒よろしく、人の家の壁を崩壊させて盗みをはたらく時なら使えるかもしれない。
いや、やらないけどね。
他にも飛行して城壁に乗るとか、城壁に組んでるデカイ石を隕石にするテもあったけど、飛んだら弓で撃たれそうだし、メテオはいろいろと人的被害が出そうなのでやめた。
いい具合に切り抜けたと思うなあ。
さすが僕。
「ねえメルレン、あなたの魔術とかで驚くのはもう慣れたのだけれど、あの門の穴はどうやって直すのかしら?」
サラ。
「いいえ??直りませんよ?壊しちゃいましたから」
「え?」
「え?」
「・・・」
「何かまずかったですかね」
「門に穴が開いたら敵や魔物が侵入してくるではありませんか」
「どのみち一旦はここを放棄していただくので、かえって都合よくないですか?」
サラはしばらく僕を見つめていたが、やがてハアとため息をついた。
「まあよろしいですわ。あの子爵のせいですしね」
いいならいいじゃねえか。と、思うが言わないでおく。
「で、どうするつもりですの?」
「どうとは?」
「どうも子爵が一部の強硬派を煽動して辺境伯を軟禁した、という状況のようですが」
「ふむふむ」
「ふむふむってあなたねえ!王国で叛乱が起こったといってもいい状況ですのよ?鎮圧したあなたは首謀者を斬首にする必要があるのよ」
エー、ヤダなあ。
「というワケで斬首とかイヤなんですが」
ダナードに相談してみる。
「ふむ。なんとかなるかもしれないッス」
「おお!本当ですか!」
頼れるぜ、ダナえもん。
「子爵は叛意を示したワケじゃないッスよね」
「そうですね、せいぜい命令違反ですか」
「本来勅命であれば、逆らえば叛乱と見なされることもあるッス。ただ子爵個人の意見で辺境伯の意見は違うと思うッス」
「なるほどー、領内の意見集約に遅滞が生じたおかげで起きたほんの行き違い、ということですね」
「あとは隊長の悪知恵でなんとかできそうッス」
「おい」
屋敷地下に軟禁されていた辺境伯は速やかに救出された。
辺境伯の家内の意見では、不満はあるが従うしかないという辺境伯のグループと、断固抗戦すべしという子爵のグループが対立していたようだ。
王都での御前会議の時とは違い、すっかり消沈していた。
気持ちはわかる。
だって有事というより存亡の危機だってのに弟はバカだし、弟さえ押さえられないバカチンとみられても仕方ない状況なんですもの。
「メルレン、ウイラード辺境伯はとても有能な方ですのよ」
サラはフォローする。
「大丈夫、わかっていますよ」
僕は助け舟を出す。
「ウイラード辺境伯様、ようやくお会いできました」
「・・・すまん、迷惑をかけた」
「いえいえ。わたしこそ守りの要である城門に穴をあけてしまいました」
「貴殿は陛下の全権を受けて動いている。この不始末どう裁く?」
潔いなあ。
「不始末?何かありましたか?」
「!一歩間違えば謀叛だったであろうが!いや、すでに謀叛であるか」
「謀叛?これは物騒な。わたしは本日こちらへ参り、陛下より命じられております『メルレンの策を皆に理解してもらえるようによく説明して参れ』という内容を実行いたしました。わたしの拙策は皆様にご負担を強い
るところが多く、理解を得にくいとわたしも思っております。本日の説明で辺境伯様、子爵様、ならびにウイラードの領民の皆様に少しでもご理解いただければ嬉しいのですが」
「メルレン殿・・・見なかったことにすると言うのか」
「何をでしょう?」
「・・・感謝する」
たまにはイケメンらしく、イケメン的行動をするのである。
いつもありがとうございます。
じわじわと増えていく皆様の応援ににやにやしてしまいます。
自分的に文が荒いかなあと思う部分もありますので、折を見て手を入れられればいい・・・いやそんな大風呂敷を広げるのは^^;




