第1話 「よく食う男」
地方の小さな町に、その男はいる。
名前は
【林ユージ】
年齢は四十代半ば。
独身。
見た目の第一印象は
"とにかく大きい"だ。
身長もあるが、それ以上に横幅がある。
本人は「がっしり体型」と言い張るが…どう見てもそうではない。
職場では、彼は別の名前で呼ばれている。
【ヤシー・モレノ】
由来は本人も知らない。
いやーー
正確には陰で呼ばれているだけなので本人は知る由もない。
昼休み。
ユージは食堂で机に弁当を広げていた。
大きめの弁当箱。
中身はーー母親が作った唐揚げメインのおかず。
それだけでは終わらない。
ポケットから取り出したのは、
【ファ○チキ】
更に――【カップラーメン】。
「それ全部食うんすか?」
「食い過ぎっしょ」
後輩が思わず聞く。
ユージは笑う。
「余裕っしょー♪」
その笑顔に悪気はない。
本当に全くない。
「最近ちょっと食欲ないんやけどな」
どこがだ!!とは誰も言わない。
「やっぱ鶏肉よ、鶏最高~♪」
そう言って、ファ○チキにかぶりつく。
「唐揚げとか毎日でも飽きんし」
実際……ほぼ毎日らしい。
彼の話は、だいたいこんな感じだ。
よく食べる。
よく喋る。
そして…よく自慢する。
「俺の昔の女唐揚げ作らせたら最強!」
何の前触れもなく、そんな話になる。
「え?そうなんすか?」
後輩が気を遣って返す。
「いやマジで色んなとこに女いたし、女には困ったことない」
どこまでが本当かは分からない…
ただ一つ分かるのは…
誰も深くは聞かないということだけだ。
仕事終わり。
ユージには決まったルートがある。
家の近所にある、唯一のコンビニ。
そこでタバコを買いついでに食べ物を選ぶ。
時間帯によっては、
値引きシールが貼られている。
「これが一番コスパ最高♪」
手に取るのはーー
カツカレーか砂ずりの唐揚げ。
迷う時間はほとんどない。
「やっぱ肉は裏切らんね」
誰に言うでもなく呟く。
別に珍しい話ではない。
地方の職場に一人くらいはいる、
少し変わった中年男。
それだけの話だ。
――この時は、まだ。
誰も深く考えていなかった。
彼の“普通”が、
どこまで普通なのかを。
次回 第2話 「出来る男」
今回も最後まで読んでいただき感謝いたします。




