第17話中層の洗礼
ダンジョン――中層。
一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わった。
「……濃いな」
アナシュが小さく呟く。
魔素の圧が、肌にまとわりつく。 呼吸がわずかに重い。
「ここが中層よ」
エリナが剣に手をかける。
「油断したら、一瞬でやられる」
「……分かってる」
だが――
(前とは違う)
確かな自信があった。
『気を抜くな』
リードの声。
『強くなったからこそ、死ぬ』
(……ああ)
その言葉は、重かった。
カサッ――
音。
「来るわよ!」
影が揺れる。
現れたのは――
「……またゴブリンか?」
だが、違う。
体格が大きい。 装備も整っている。
「ホブゴブリン……それも――」
エリナが目を細める。
「数が多い」
6体。
いや――
「まだいる……!」
奥からさらに3体。
合計9体。
完全な包囲。
「……いいじゃねぇか」
アナシュが構える。
「やってやる」
『冷静に動け』
リードが告げる。
『数は脅威だが、崩せば終わる』
「エリナ!右側任せた!」
「了解!」
「レイン、後ろ頼む!」
「任せろ」
一斉に動く。
速い。
「チッ――!」
踏み込む。
「疾風脚!!」
一体を吹き飛ばす。
だが――
(硬い……!)
以前より明らかに耐久が高い。
「連携してる!」
エリナが斬りながら叫ぶ。
「崩さないとキリがない!」
『指揮個体を探せ』
リードの声。
(……いるな)
視線を巡らせる。
奥。
一歩引いた位置。
他より装備がいい個体。
(あいつだ)
「俺が行く!」
踏み込む。
だが――
「邪魔だッ!」
二体が割り込む。
完全に守っている。
「クライン!」
エリナが叫ぶ。
「無理に突っ込むな!」
(……くそ)
囲まれる。
だが――
(ここで止まるかよ)
『視野を広げろ』
リードの声。
『一対一で考えるな。“全体”で見ろ』
(全体……?)
一瞬、思考が止まる。
だが次の瞬間――
理解する。
(動きが連動してる……!)
「レイン!!」
叫ぶ。
「一瞬でいい!止めろ!」
「……いい判断だ」
静かな声。
次の瞬間――
空気が震える。
「水魔法――」
魔力が収束する。
「『水雷』」
バチィッ!!
水と雷が混ざり、広範囲に走る。
ホブゴブリンの動きが止まる。
「今だ!!」
全力で踏み込む。
加速。
「風魔二連撃!!」
直撃。
指揮個体に叩き込む。
「ギャァッ!!」
吹き飛ぶ。
だが――
(まだだ!)
「エリナ!!」
「任せなさい!!」
一閃。
首が飛ぶ。
その瞬間。
残りの動きが乱れる。
「統率崩壊!」
レインが言う。
「一気に押し切るぞ!」
そこからは一方的だった。
数分後――
静寂。
「……はぁ……」
息を整える。
だが――
(疲労が段違いだな)
エリナも肩で息をしている。
「……中層、舐めてたわ」
「同感だ」
レインも珍しく息が荒い。
だが――
アナシュは拳を握る。
(でも――)
体の奥。
確かに、力が増している。
「……まだいける」
「は?」
エリナが驚く。
「本気?」
「ここで止まってたら」
視線を奥へ向ける。
「追いつけねぇだろ」
沈黙。
そして――
エリナが笑う。
「……バカね」
「でも嫌いじゃない」
レインも小さく頷く。
「では進もう」
『いい流れだ』
リードの声。
『だが忘れるな』
『ここはまだ“入口”だ』
奥から、さらに強い気配。
重い。 深い。
明らかに、さっきとは別格。
アナシュは笑う。
「……いいじゃねぇか」
三人は進む。
中層のさらに奥へ。
その先に待つのは――
“本当の中層の敵”。
ダンジョン――中層。
「……やっぱり空気が違うな」 アナシュが小さく呟く。
一歩進むごとに、魔素の重さが増していく。
「ここから先は油断したら終わりよ」 エリナが剣に手をかける。
その時――
バサバサッ!!
「上!!」 レインが即座に反応する。
天井から黒い影が降ってくる。
「……来たか!」
「鑑定!」
視界に情報が浮かぶ。
『ブラッドバット LV6
HP:160/160
MP:40/40
SP:120/120
平均攻撃力:90
【サブスキル】吸血/群体行動
【特性】血液吸収による自己回復』
「……吸血持ちかよ!」
一斉に襲いかかってくる。
一体が腕に噛みつく。
「ぐっ……!」
傷口から血が吸われる。
「回復してる……!」
『長引けば不利だ』
「分かってる!」
その瞬間――
「離れろ」
レインの声。
「――水雷」
バチィィッ!!
雷を帯びた水流が、空間ごと薙ぎ払う。
「ギャァァァッ!!」
全てのブラッドバットが焼き落ちた。
静寂。
「……一撃かよ」
アナシュが呟く。
だが――
ザッ……ザッ……
新たな気配。
「次来るわよ!」
現れたのは、人型の魔物。
「鑑定!」
『リザードファイター LV12
HP:520/520
MP:60/60
SP:400/400
平均攻撃力:310
【サブスキル】戦闘技術/反応強化
【特性】対人戦闘適応』
「レベル12……!」
「さっきより格上ね……!」
リザードが突っ込んでくる。
剣が振り下ろされる。
ガキィン!!
エリナが受け止める。
「重っ……!」
「クライン!横!」
「分かってる!」
踏み込む――が、
リザードが即座に反応。
(反応速っ……!)
『読まれている』
「チッ……!」
一度引く。
(こいつ……“戦ってくる”タイプだ)
その時。
「左に重心が寄る」 レインが静かに言う。
「……!」
タイミングを合わせる。
踏み込み。
(今だ!)
「烈風拳!!」
ドンッ!!
直撃。
体勢が崩れる。
「はぁっ!!」
エリナの斬撃。
ズバッ!!
撃破。
「……はぁ……」
息を整える。
だが――
グチャ……
「……ん?」
足元が沈む。
「ッ!?」
「動くな!!」
「鑑定!」
『デススライム LV8
HP:300/300
MP:0/0
SP:200/200
平均攻撃力:150
【特性】酸性体液/物理耐性
【注意】接触時、装備と肉体を溶解』
「うわっ……やば……!」
靴が溶ける。
ジュウウッ……
「風使え!」
「――跳躍!!」
ギリギリで脱出。
「……あっぶねぇ……」
静寂が戻る。
「……中層、普通に殺しに来てるな」
「当たり前でしょ」 エリナが笑う。
レインは静かに周囲を見る。
「だが――」
その一言で空気が締まる。
「まだ“奥”がある」
アナシュは拳を握る。
(強くなってる……でも)
「……まだ足りねぇ」
『いい自覚だ』
リードの声。
『だから進め』
ダンジョンの奥を見据える。
暗く、深い。
「……行くぞ」
「当然」
「同行する」
三人は進む。
さらに危険な領域へ――




