第21話 姫殿下御転居 3
室内に入ると、三人は入り口横に誂えられ、ソファーの並べられた待機所に並んで立った。
五つを二列に並べられたゲートポイントは、周りを透明な強化ガラスで仕切られ、中の様子が詳細に伺える。瑛美たち三人が立つ場所の正面には、その出入口があった。
「時間です」
コントロールルーム内の佐藤軍曹がマイクを通して言った。
すると、五つある内の四つのゲートポイントの高さ一メートル程の所に、光の粒子が球形に集まりひときわ強く輝いたと思うと、人の姿が現れた。
エレナ王女殿下、リナ・バレル女官長、そして瑠沙本家次女の麻里絵であった。もう一つのゲートポイントにはキャリーケースが一つ。
「おはようございます。東京駐在所へようこそいらっしゃいました。向かって左に出入口がございますのでそちらへどうぞ」
佐藤軍曹のアナウンスと共に、健人がドアに歩み寄り開け、その場に直立姿勢をとった。コントロールルーム内にいた佐藤軍曹も外に出て、直立姿勢をとる。
ゲートポイントのドアから、リナ・バレル女官長を先頭にエレナ・ルサ・ロワール第三王女殿下、瑠沙麻里絵と出てくる。
エレナ王女は瑛美たち三人が並ぶ前に立つと、その一歩後ろにリナ女官長、麻里絵と並び立った。
「エレナ・ファリス・ルサ・ロワール第三王女殿下に敬礼!」
瑛美が号令をかける。
室内に立つ王国航中軍籍の三人は王国式敬礼を、瑠沙丈一郎は右手を左胸に当て、深く頭を下げた。
「直れ! ようこそいらっしゃいました第三王女殿下。この少ない人数でのお出迎えお詫び申し上げます。これからのご滞在中の警備は、われら東京駐在所員一同総力をあげて当たらせていただきますので、お任せいただきたいと存じます。
それと、こちらは瑠沙本家のご嫡子の丈一郎殿です」
「堅苦しい挨拶は無しにしましょう、エイミー。ここは公式の場ではないし、わたくしがここにいることも非公開なのですから。こちらでの滞在はあくまで《《おしのび》》なのですからね」
王女は瑛美に向けていた親し気な目を丈一郎には品定めをするかのように向け、
「《《よしなに》》、丈一郎殿。面を上げてください」
丈一郎は深々と下げた頭を上げると、胸に当てた手はそのままに目線は下げたまま王女に答えた。
「瑠沙丈一郎にございます。王女殿下に置かれましては、お目にかかれたこと恐悦至極に存じます。東京でのご滞在中はご不自由無きようご助力させていただきますので、何なりと私共、瑠沙ホールディングス東京第一渉外室にお申し付け下さい」
丈一郎は、王女の柔らかな所作やかけられた言葉とは裏腹に、その威圧感にこれが王族なのかとやや声を震わせながら答えた。
「リナ」
「はい」
王女の呼びかけに、リナ女官長が答えた。
「そちらの東京第一渉外室とのやり取りは、わたくしリナ・バレルか補佐の瑠沙麻理絵が行いますので、よろしくお願いします。
それと、夕刻からの晩餐会については里の方から伺っています。そちらについての打ち合わせの時間を後ほど頂きたいと思います」
リナ女官長が丈一郎を見ながら言った。
「エイミー、もう良いかしら? 東京と言う所の住まいがどんなところか楽しみにしてきましたのよ。早く案内してくださいな」
王女は瑛美に急かす様に言葉をかけた。
王女の期待に満ちて子供のように輝く目を見て、瑛美は思わず笑いそうになるのを堪えて答えた。
「お車の準備はできておりますので、まいりましょうか」
午前九時三十分、瑛美は駐在所のある瑠沙ビルディング東京第一の入り口を入った。
手には先日に朝食を食べに寄った喫茶店で買ったコーヒー豆とベーグルサンド、そして、ホットコーヒーの入ったラージサイズのカップを持っている。
入口横にある警備受付には、いつもいる比嘉警備員が今日はまだいなかった。チラと中を覗いてみると、どうやらミーティングをしているようだ。
昨日、王女殿下を虎ノ門の別邸まで送り届けた後は、その夜に行われる瑠沙系列企業の重役たち、と言うよりも瑠沙家係累の重鎮たちとの晩餐会の打ち合わせ。そして、リナ女官長から、今後姫殿下が東京に来たことで想定される会見、面会スケジュールなどの話を聞いた後は、晩餐の準備などで慌ただしくなり丈一郎の希望していた面談は行うことはできず、今日の午後からということになった。
まぁ、おそらくは例の技術漏洩に関することの打ち合わせをしたいということだろうと考えながら、瑛美はエレベーターの昇降ボタンを押して降りてくるのを待った。
エレベータのドアが開き、瑛美が乗り込もうとすると目の前には佐藤軍曹が
額に汗をかきながら口をパクパクさせている。
「し、少佐いえ所長……」
「うん? どうした? 降りるんじゃないのか?」
「い、いえ……。所長のお迎えと……思いまして……」
「……? 何だ? お迎えってのは?」
瑛美が七階のボタンを押し、ドアが閉まると訝し気に佐藤を見た。
「それが……あの……殿下が……」
七階に着いたエレベーターのドアが開き、一歩出た瑛美は右手の駐在員事務所内のデスクの一つに座り、今ジョギングをしてきましたというような、ベージュのジャージにキャップを被り、ペットボトルの水を手にした王女殿下を廊下の窓越しに見て固まってしまった。
「エッ、エレナ様! リナは? 麻里絵はどうしました?」
瑛美は慌てて事務所内に駆け込んだ。
そんな姿の瑛美を見ながら、エレナ姫はにっこりと微笑みながら瑛美に行った。
「えへへ……、来ちゃった……」
瑛美はその場で頭を抱えてしまった。




