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シナスタジア心霊事件ファイル~共感覚霊視者と心霊詐欺師の霊能者業界成り上がり~  作者: 十凪高志


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第21話 受験者全員を、不合格とします

 翌朝。

 工藤栞さんに、報告する。


「詩織さんたちは、陽菜さんの本当の気持ちを知りたかったんです。それを知らずに死んでいきました」


 栞さんは泣いていた。


「でも、私たちは知ることができました。陽菜さんの手紙で」


 僕は続ける。


「陽菜さんは、最後まで希望を持っていました。詩織さんの『大丈夫?』という言葉に、救われていました。そして、翌日『ありがとう』を言おうとしていた」


 栞さんが嗚咽する。


「詩織……陽菜さん……」

「でも、震災が起きた。そして、陽菜さんは死んだ。詩織さんは、それを一生悔やんでいました」


 僕は栞さんを見る。


「詩織さんたちは、陽菜さんと同じ場所で死ぬことで、陽菜さんの気持ちを理解しようとしました。でも――」


 僕は言葉を選ぶ。


「それは、叶いませんでした。死んでも、陽菜さんの気持ちはわからなかった。ただ、苦しんで、死んでいくだけでした」


 栞さんが顔を覆う。


「そんな……」

「でも、今、私たちは知っています。陽菜さんが本当に何を思っていたのか。詩織さんの『大丈夫?』が、どれだけ陽菜さんを救っていたのか」


 僕は続ける。


「詩織さんは、間に合わなかった。でも、確かに陽菜さんに届いていました。それだけは、確かです」


 栞さんは、長い間泣き続けた。

 そして、顔を上げた。


「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」


 高野さんが記録を閉じる。


「実技試験、終了です。皆さん、お疲れ様でした」


 だが――

 その日の夕方、事態は急変した。



 高野さんから緊急連絡。


「皆さん、すぐに協会本部へ来てください。重大な問題が発生しました」


 協会本部。


 会議室に、スピの介が立っていた。

 そして、その横に――

 桐島健太、相良美月、田所雄介、西園寺梓。

 主犯格4人が、揃っていた。


「どういうことだ」


獅堂が睨む。

 スピの介が薄く笑った。


「彼らから、正式な抗議を受けました。『協会の受験者たちが、過去のプライバシーを侵害し、誹謗中傷を行った』と」

「何だと?」


 桐島さんが前に出る。


「私たちは、あなたたちから一方的に『いじめの主犯格』として決めつけられました。証拠もなく、名誉を毀損されました。これは明らかな人権侵害です」


 相良さんも続ける。


「私は教師として、生徒たちを守る立場にあります。過去の出来事を蒸し返され、職場での信用を失いかけています」


 西園寺さんが涙を浮かべる。


「私の子供が、学校でいじめられるようになりました。『お母さんは昔、人をいじめていた』と言われて」


 田所さんは黙っていたが、弁護士らしき人物が横にいた。


「田所さんは、精神的苦痛を受けました。損害賠償を請求する準備をしています」


 スピの介が資料を広げる。


「皆さん、これは重大な問題です。協会の名誉にも関わります。受験者たちが、無関係な市民を攻撃した。これは、協会の信用を失墜させる行為です」


 その言葉に獅堂が反論する。


「無関係ではない。彼らは佐久間陽菜さんをいじめた張本人だ」

「証拠は?」

「森下拓也の証言がある」

「精神病院に入院している人物の証言ですね。信憑性に欠けます」


 桐島さんが冷笑する。


「それに、仮にいじめがあったとしても、14年も前の話です。時効です。今さら掘り返されて、社会的制裁を受ける理由はありません」

 

僕が前に出る。


「あんたたち、本当にそれでいいのか? 陽菜さんは死んだ。13人も死んだ。その原因を作ったのは、あんたたちだ」

「それはあなたの主観です」


相良さんが答える。


「客観的な証拠はありますか?」

「証拠なら――」


 吉宗ちゃんが叫ぶ。


「ふざけんなっす! 私、こいつらの嘘、全部味で分かってるんですよ!」

「あなたの霊感も、法的証拠にはなりません」


 スピの介は冷酷に言い放った。


「さて、皆さん。協会としては、この問題をどう処理すべきか、判断しなければなりません」


 高野さんが割り込む。


「待ってください。受験者たちは、依頼人の要望に応えただけです。真実を解明することが、試験の内容でした」

「真実?」


スピの介が嘲笑する。


「彼らが提示したのは『推測』です。物的証拠に基づかない、主観的な解釈に過ぎません」

「それは――」

「高野審査官、あなたもわかっているはずです。霊能力というものは、科学的に証明できない。だからこそ、私たちは慎重に扱わなければならない。でなければ、協会は『詐欺集団』と見なされます」


 スピの介は勝ち誇った表情で言った。


「よって、私は審査委員会に、受験者全員を『不合格』とするよう推薦します」


 そして――

 スピの介は、さらに続けた。


「それに、皆さん。もう一つ、問題があります」

「何だ」

「流出した映像のことです」


 僕は息を呑んだ。


「工藤栞さん――依頼人です。彼女が、この『真実』と共に、あの映像についても言及すると言っています。具体的には、『多くの人がこの事件を消費した』という批判を含めて、SNSで公表すると」


 桐島さんが前に出る。


「あの映像は、警察が押収した証拠品です。それが違法に流出し、ネット上で拡散された。我々は、その映像を見た全ての人間を、プライバシー侵害で訴える準備をしています」


 僕は震えた。


「……何を言ってる」

「あの映像を見た人間は、1000万人以上います。その全員が、13人のプライバシーを侵害した共犯者です」


 桐島さんは僕たちを見た。


「そして――受験者の皆さん。あなたたちも、あの映像を見たのではないですか?」


 僕は――

 何も言えなかった。


「八坂祐介さん。先日、あなたは私に『あの映像のこと、知っていますか』と尋ねましたね。ということは、あなた自身が見ているということでしょう」


 僕は――

 小さく頷いた。


「……見ました」


 桐島さんが笑う。


「では、あなたも共犯者ですね。13人の死を『消費』した、加害者の一人です」


 スピの介が続ける。


「三日月吉宗さん。心霊系の配信者として有名なあなたが、『神奈川13人事件』の映像を見ていないはずがない」


 吉宗ちゃんは――

 小さく頷いた。


「……見ました。去年の夏です」

「配信しましたか?」

「してないっす。でも――見ました」


 桐島さんが言う。


「見ただけで、十分です。あなたも、13人の死を『消費』した」



 スピの介が獅堂を見る。

「草薙獅堂さん。あなたはどうですか?」


 獅堂は――

 静かに答えた。


「……見た。3年前だ」

「つまり、受験者全員が、あの映像を見た共犯者だということです」

 スピの介が勝ち誇った表情で言った。

「そんな人間たちが、『真実の解明』を語る資格があるのでしょうか?」

 桐島さんが続ける。

「あなたたちは、13人を二度殺したのです。一度目は映像で『消費』し、二度目は調査で『利用』した」


 相良さんが続ける。


「しかも、あなたたちは私たちを『加害者』として糾弾しながら、自分たちも『加害者』だった。これは、完全なダブルスタンダードです」


 西園寺さんが涙を浮かべる。


「私たちは、確かに過去に過ちを犯しました。でも、あなたたちも同じです。なのに、なぜ私たちだけが責められなければならないのですか?」

 田所さんの弁護士が言う。


「我々は、協会とその受験者たちを、名誉毀損と精神的苦痛で訴えます。そして、流出した映像を視聴した全ての人間――1000万人以上を、プライバシー侵害で訴える準備をしています」


 スピの介が資料をテーブルに叩きつける。


「さて、鈴白理事。あなたが推薦した受験者たちは、協会を窮地に陥れました。責任を取っていただきます」



 会議室が、重苦しい沈黙に包まれた。


 僕たちは――

 完全に追い詰められた。

 全て、正論だった。

 僕たちは、あの映像を見た。

 13人の死を、「検索してはいけない言葉」として消費した。

 そして今、その事件を調査している。


 それは――


 本当に、正しいことなのか?

 僕たちに、その資格はあるのか?


 だが――

 獅堂が口を開く。


「……俺たちに資格はない。それは認める」


 獅堂は眼鏡を外した。


「俺たちは、あの映像を見た。13人の死を消費した。それは、消せない事実だ」

「ならば――」

「だが」


 獅堂は眼鏡をかけ直す。


「だからこそ、俺たちは真実を明らかにしなければならない」

「何を言っている」

「俺たちは、13人を『消費』した。だから、その罪を償う義務がある。真実を明らかにし、彼らの死を無駄にしないことが、俺たちにできる唯一の償いだ」


 スピの介が嘲笑する。


「償い? 偽善ですね」

「偽善で結構」


 獅堂は立ち上がった。


「俺たちは偽善者だ。資格もない。でも、やらなければならない。それが、俺たちの責任だ」


 僕は――

 獅堂を見た。

 彼の目は、真剣だった。

 そして、僕も立ち上がった。


「……そうだ」


 僕は桐島さんを見る。


「僕は、あの映像を見た。13人の死を消費した。その罪は、消えない」

「ならば――」

「でも」


 僕は続ける。


「僕は、今、彼らの真実を明らかにした。陽菜の声を、知った。それが、僕にできる償いだ」


 桐島さんが冷笑する。


「償い? そんなもので、許されると思っているのか?」

「許されるとは思っていない」


 僕は答えた。


「でも、やらなければならない。それが、僕の責任だ」


 吉宗ちゃんも立ち上がる。


「私も――私も、あの映像を見ました。配信のネタにできるかって思って。でも、見たら――怖くて、配信できなかった」


 吉宗ちゃんは涙を流している。


「でも、見たことは事実です。13人の死を、消費しました。その罪は、消えません」


 吉宗ちゃんは続ける。


「でも、今、私は彼らの真実を知りました。陽菜さんの想いを知りました。それを、多くの人に伝えたい。それが、私にできる償いです」


 三人は、並んで立った。

 それを、スピの介が嘲笑する。


「美しい言葉ですね。だが、現実は違います」


 スピの介は資料を広げる。


「工藤栞さんが、この真実をSNSで公表すると言っています。そして、あの映像についても言及すると」

「それの何が問題なんだ」

「炎上します」


 スピの介は断言した。


「主犯格4人の個人情報が晒され、誹謗中傷が殺到します。彼らの家族も巻き込まれます。そして、あの映像を見た1000万人以上の人間も、『加害者』として糾弾されます」


 スピの介は続ける。


「ネットは、正義という名の暴力で溢れます。『いじめの加害者を許すな』『映像を見た奴らも同罪だ』――そんな声が、嵐のように押し寄せます」

「それで――」

「そして、その全ての責任は――協会が負うことになります」


 スピの介が勝ち誇った表情で言った。


「鈴白理事。あなたの推薦した受験者たちが、この混乱を引き起こしました。責任を取っていただきます。そして――」


 スピの介は三人を見た。

 勝ち誇った顔で、厳粛な――そして隠しきれない、いやらしい笑みを張り付けて。



「受験者全員を、不合格とします」

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