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流されちまった2人の少女(5)

 ある程度進むと焚火をし、フライパンで目玉焼きを作っているマルとそれを愛らしい笑顔で眺めているアイコが居た。マルの傍らには、前日サナエがマルを吊るす際に使われたであろうロープが丁寧に結ばれていた。

「あっ、サナエだぁ。マル、サナエが帰ってきたよぉ。すっごく心配したんだから。ねぇマル」

 サナエを見つけ嬉々とした笑顔でアイコが手と尻尾を振った。

「うむ。どこ行っていたんだ。今日の朝飯係はお前だろ。顔を洗うにしても長過ぎだ。川に落ちて流されたとかそういった面白い言い訳じゃないと許さないぞ」

「その通りじゃ!」

 頬を赤らめサナエが叫んだ。マルにこのような痴態をさらすことはこの後1週間は言われ続けるのだが、心配をかけさせたのであろうということを思い、素直に認めたのだ。

「「アッハハハハハ」」

 2人は大爆笑。

「はぁはぁ、本当か。なかなかやるじゃないか。ぜひその場に居たかった。このマルグロリア一生の不覚だ」

 マルはフライ返しで黄身を潰してしまうほど笑った。アイコに至っては笑いすぎて呼吸ができなくなっている。

「うるさいなぁ。それよりももっと先に言うことあるやろ」

 サナエは横にいるクイナの方を見た。当のクイナは瞬きもせずに目の前の2人を見つめていた。

「おお、クイナじゃないか久しぶりだな。なんだまたサナエの殺害依頼を受けたのか」

 さすがマルである。男の顔は忘れても女の顔は忘れないと豪語しているだけある。サナエとは違い考えることなくクイナの名前を口にした。

「・・・・・・久しぶり。マルグロリア。それと」

 クイナはアイコの方を見た。その視線を感じたのか人見知りのアイコはサナエの後ろに隠れた。

「なんやねんアイコ」

「ねぇ、サナエ。あの人誰? 」

「えっとなぁ、ちょっと前に私の命を狙ってきた殺し屋やねん。でも返り討ちにしてやったわ、こうしゅっしゅっと」

 サナエがシャドーボクシングをした。

「ひっ、殺し屋・・・怖い」

 アイコはさらにサナエの背後に潜った。耳は垂れさがり、尻尾は体に巻きついている。

「あーあ。クイナ、怖がられてやんの」

「・・・・・・あなたの説明が悪い。アイコちゃん、私は殺し屋じゃない。人を傷つける悪者を懲らしめる正義の味方よ」

「なんや、ええように言うな」

 クイナはアイコの目線の高さまでしゃがみ、右手を差し出している。今にもルールルルと言いそうな状態である。

「ほっ本当にお姉ちゃんは怖くない人?」

「・・・・・・そう。無害」

 そう言ってクイナは右手を握り、勢い良く開いた。すると先ほどまで何もなかった手の中に一輪の花が出てきた。

「うわぁ、すごいすごい」

 サナエの背中から出てきたアイコはクイナの前に立っており拍手をしている。そして、その花を頭に飾ってもらい、2人は頬笑みあった。

 どうやら、すっかり打ち解けたようでアイコのクイナに対する警戒網は解かれたようだ。

「サナエ、この人良い人。とってもいい人。私クイナ好き」

「ちょろいわ、アイコちょろすぎるわ。相手に対する心の壁が和紙並みの耐久力や」

 以前、街でお菓子を買って上げるからおじさんと遊ぼうと言われてノコノコついて行ったアイコの姿をサナエは思い出した。人を疑うという心を持たせる必要があると思われる。

「・・・・・・それじゃあ、そろそろ失礼して」

 クイナは立ちあがりサナエの方を見た。その瞳は大事な何かを決意したようだ。

「もう行くんか」

「・・・・・・そう」

 クイナはアイコの背後に回り込み抱き上げ、膝を曲げその上に乗せた。

「ふぇっ」

 そして、首元に顔を埋め、じっとした。

「・・・・・・フサフサ、癒される」

 手で頭の耳をつまんだり、髪の毛をといたりと愛で続けた。以前のサナエの愛撫とは違い、丁寧で相手のことを考えているタッチであり、アイコは目を閉じクイナに身を任せている。一通り満足したクイナが離すと、アイコも同じように満足した表情をしている。

「こら、私のアイコに何してくれてんねん。せっかく私の匂いをマーキングしたのに、行くってアイコを触りに行くって意味やったんかい」

 そんなサナエの声も聞こえないのか、2人は同じ方向を見て立ちあがる。

「・・・・・・むふぅ。満足。ミッションコンプリート。フサフサは正義」

「むふぅ。アイコも満足。ソフトタッチは正義」

 顔についたアイコの抜け毛を払い、クイナはマルの方を見た。クイナのキャラクターが掴み切れていないマルは困惑な表情を浮かべていた。サナエは急いでアイコに抱きつき、自分の匂いを再び刷りこんでいた。

「・・・・・・あなた達はどこに行く予定?」

「うむ。妖精たちの村に行く予定だ。もしかしたら、こいつが妖精に召喚されたかもしれんからその確認でだ」

「・・・・・・それは好都合。私もそこに行く予定がある。ついて行っていい?」

「ああ、もちろん。君のような可愛らしい女性なら大歓迎だ」

「・・・・・・可愛らしいなんて私はそんないい女じゃない。ポッ」

「いやいや、少なくともそこにいるデカ女よりも可愛らしいぞ。なっデカ女いいだろう。彼女が同行しても」

「あん!? ええちゃうんか。私とアイコとクイナの3人で」

「おい、俺が入っていないぞ。お前は数もまともに数えら・・・」

 マルが話し終わる前にサナエは動き、マルの頭を掴みフライングメイヤーを放った。ダウンを奪い、エルボードロップ。最近のサナエは何かしらの技でダウンを取りエルボードロップで締めるという趣向になっていた。

「さて、行こか。アイコに、クイナ」

 荷物をまとめサナエは歩き出した。ガニ股に大股で歩くその姿は不機嫌な巨人のようである。

「あっ、待ってぇ」

 それを追ってアイコも進んだ。小走りでサナエの下へと向かった。サナエが10歩ですすむ距離を20歩で駆けていた。

「・・・・・・大丈夫?」

 やられたマルを心配そうにクイナが見つめる。逆光のため表情は良くわからなかったが、おそらくいつも通りの無表情なのだろう。

「うむ。大丈夫だ。いつものことだ」

 マルは何事も無かったかのように立ちあがった。少なくとも素人目でもエルボードロップはきれいに入ったと思われたが、マルはピンピンしていた。

「・・・・・・あなたは何故彼女の攻撃をわざと受けるの?」

「はっ?」

「・・・・・・あなたほどの実力者なら避けることも簡単なはず」

「うーん。何を言っているのか知らないが、避けられるものなら避けているぞ」

「・・・・・・嘘」

「嘘じゃない。本当さ。君なら避けられるだろうが君よりもはるかに弱い俺があいつの攻撃を避けられるわけないじゃないか。それに好き好んであんな攻撃を受ける奴いるわけないだろう。エルボードロップだぞ。俺以外なら死んでいるかもしれないぞ」

どこか焦ったマルは大量の荷物を抱え、焚火を消した。灰が舞い上がりマルのズボンに付いた。

「ほら、早く行こう。あいつらに置いて行かれるぞ」

 マルは火種が消えていることを確認し、先を行く少女たちを追った。

「・・・・・・むう」

 煮え切らないクイナを煙が巻いた。


 道中。

「なあ、クイナ」

「・・・・・・何?」

「もう一回じゃんけんやろうや」

「・・・・・・オッケ」

 もちろん一回で終わるようなことはなく、サナエはでこに大きなたんこぶをこしらえた。


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