毒殺料理人アイコ(2)
「なんで、私も出なあかんねん」
『バカ、よく考えろ。アイコ1人だけ舞台で散々罵られてみろ、あの純心に治らない傷がつくぞ。だから、お前が盾になって慰めてやれよ』
「でも、その機会を作るのは私らやねんな」
『俺達の未来のためだ。そこは涙を飲んで立ち向かうんだ』
「はあ、なんか辛いなぁ」
『ついでだ。お前頑張って優勝しろよ。賞金が出るらしいからな。あわよくば賞金を手に入れて、落ち込んでいるアイコにうまいもんでも御馳走してやったら機嫌でも治るだろう』
「分かった。コテコテの関西料理を審査員共に喰らわしてやるわ」
『頼むぞ。昔やんちゃをしていた料理屋の女将』
「任しとけ」
【うう、緊張してきた】
「大丈夫やて、いつも通り作ったらええから・・・うん」
【うん。分かった。頑張る】
(オオオー!)
【えっどうしたの?】
「うん?なんでもこの街で一番のレストランのシェフの料理がケチョンケチョンに貶されたらしいで、ほらコック帽地面に叩きつけてるわ。そんで、クルリンパってなんでやねん」
【ええっ!?そんなぁ、それじゃあ、私たちじゃとても太刀打ちできないよ】
「・・・ふむ、こりゃ期待できるなぁ」
【えっなんて?】
「いやなんもないで、いやー厳しいなぁ。何言われるかドキドキするわ」
【うん、ドキドキする。あっ、次サナエの番だよ】
「おっしゃ。ちょっと食らわせてくるわ」
【何を?拳、料理?】
「・・・時と場合によっては両方かな?」
「・・・・・・グスッ」
【サナエ、大丈夫?】
「グスッ、あのくそ審査員共あんなボロカスに言わんでええやん。なんやねん犬の餌を作る達人って、そんなんで商売できるか」
【大丈夫だよサナエの料理はおいしいよ。ただ、あの人たちの舌に合わなかっただけだよ】
「うんそうやな。ありがとう、アイコは優しい子やなぁ。・・・それやのに私らときたら。アイコ頑張りや。失格者はなんでも舞台の下にいかなあかんらしいから、一緒におられへんわ。応援してるで」
【うん。あたし頑張る】
「なんかあったらすぐに駆けつけるからな」
【大丈夫だよ。多分。】
『おい、犬の餌を作る達人さんよ。なぜお前がここに居るんだ』
「黙れ。しゃあないやろ、係の人にそう言われてんから」
『これじゃあ、アイコが1人であの悪口の集中砲火を浴びてしまうだろうが』
「大丈夫。アイコが泣いてしまったら、暴れる準備はできているから。とりあえず、優先して審査員の一番偉そうなぽっちゃり眼鏡をしばき回すわ」
『うむ。そうか。で参加した感想は?』
「あいつら絶対に前日に悪口の練習してるわ」
『そうか、確かに切れがあったもんな』
「うわ、あの人も中々ひどいこと言われてるな」
『これは食べ物なの?は応えるだろうに』
「でも、めちゃくちゃおいしそうやのに」
『あれぐらいじゃ満足しないくらい審査員たちの舌が肥えているんだろう』
「もっと良心的な審査員を用意しておくべきや」
『しかし、このままではこの大会も成立しないだろうに大丈夫なんだろうか』
「なんで?」
『今までの挑戦者全員ケチョンケチョンに言われているからな。1人も褒められた奴がいない』
「もうこのまま優勝者なしで、あそこにおるキレてる失格した料理人に審査員が襲われたら、ハッピーエンドやな」
『お前、相当根に持っているんだな』
「当たり前や、アイコも責められるやろうし。それぐらいくらってもらわんと、気が済まん」
『それはそれは、ちなみに俺が審査員だったらどう』
「殺す」
『する?って言い終わる前にそんな重大なことをさらっと言うな』
「でもお前は言わんやろ」
『まあ、殺すなんて言われたらなぁ』
「そう言うことちゃうわボケ」
『うん?』
「なんでもない。あっ次アイコや」
「うわっガッチガチに緊張してんなぁ」
『うむ。見ろ食材を運ぶ手が震えているぞ』
「こりゃあ、昨日の食べたマルが亡き祖父に再会したゲル状のテンプラを超える超大作が誕生するかも知れんな」
『まさか、三途の川で見たこともない祖父に初めて出会うとは思わなかったな。それを、審査員共が喰らうのか、これはこれで楽しみだな』
「うん。審査員共覚悟せえよ、ふへへへへへ」
『当初の目的と変わってきたが、今のおれはそっちに賛成だ』
「・・・うわ」
『・・・ぐわ』
「なんちゅうもんができてん」
『あれは人を殺すんじゃないのか?』
「うん。見てみいや、アイコの料理?に穴を空けられたフライパン達の残骸を」
『いやいや、盛りつけられている純金製の皿が若干溶けかけているのも中々エグイだろ』
「ほんまに、あれっていったい何なんやろ。漫画で出てくる魔女の薬品みたいな紫の煙出しているし」
『俺にはあの物体に当てはまる単語が思いつかん。ただ王水を含んでいることは確かだな』
「うわっ、審査員食べたで」
『なんか可哀そうになってきたな。ほら、あいつらが持っているフォークが早くも溶解しているぞ』
「流石の私でも同情するで、いくら仕事と言っても。どんだけギャラもらっても食える料理じゃないで」
『・・・うん?なんか、審査員全員テンションが上がっているぞ』
「ハラショーって言ってんな」
『ああ、口に料理を運ぶ手が止まっていない』
「・・・うまいのか?」
『いやあ、あれが旨かったら・・・・・・旨いのかもな』
「全員、完食しよった」
『しかも、全員10点の札を出したぞ』
「そんな札有ったんかい!?・・・うん、満点と言うことは?」
『優勝?』
「優勝かあ。ハハーン、審査員共舌がぶっ壊れてるんやな」
『だから、他の料理人はダメだったのか』
「きっと、そうや、そうやないと私の心がもたん」
『そうだな、完璧な人選ミスだな』
【どう、あたし優勝しちゃったよ】
「うんうん、凄いなアイコは」
『ああ、よかったな』
【じゃあ、これからは毎日ご飯作ってあげるね】
「・・・は」
【だって、私が一番料理が旨いんだよ。それなら私が作るのが道理じゃない?】
「いや、そんな毎日作ってもらうなんてアイコに申し訳ないわ。結構しんどいやろうし」
【大丈夫。楽しいよ】
「・・・はぁ」
『・・・あぁ』
「これで10日目か」
『もう、この味にも慣れてきたな』
「うん。ところでマル」
『なんだ?』
「あんた、知らんかも知らんけど頭からキノコが生えてるで」
『んあ?知っている。昨日、お前の頭からキノコが突然生え出したのを見て、もしかしたら俺もかもと思ったからな』
「嘘!?生えてる?」
『ああ、ばっちしと』
「なんとかならんかねぇ」
『なんともなぁ』