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そして君は明日を生きる  作者: 佐野零斗
第二章『復讐に燃える青年と小さな暗殺者』
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第二十二話『帰還した戦士と師匠の過去』

 入団式が終わり一段落すると、新人の俺たちに討伐士の制服が配られた。

 これは先輩たちが着ているものとだいたい同じだったが、少し色が違ったりする。

 基本は白をベースにしているが、所々に色が入っていて、スタイリッシュなデザインだ。

 凄く動きやすい。それと男女兼用だ。


 制服を身にまとい、慣れない格好で帰り道を歩いていた。


 その時、最初にいた公園の近くを通った。


「────懐かしいな。今思えば全部、ここから始まったんだよな。よく分からないタイムリープ、ただのオタクだった俺が、戸惑いながらも気づけば、討伐士の一員になったなんてな。」


 最初の頃を思い出していた。

 最初は弱く体も強くなくて、ただメイドやアイドルが大好きなオタクだったのに。

 今は全然変わっている。


「──この時に愛菜も横にいてくれれば。もっと良かったんだけどな。」


 ぼそっと呟いた。

 そんな事を呟いても、愛菜は戻ってこない。

 今、彼女は自分と戦って頑張ってるはずだ。

 そう思いながら、公園を後にした。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 師匠の家の近くまで来た。

 数日ぶりなのに、何故だか懐かしく感じた。

 俺が修行した山も、なんとなく俺の帰りを待っているような気がした。

 そうして俺は、家のドアをノックした。


「──ただいま。今帰りました。」


 ドアを開け、玄関の中に入ると───


「───お、おかえりっ、なさい。」


 聞き覚えのある声、見覚えのある顔。

 それを見た瞬間、驚き目を大きく見開いた。

 だって彼女は…………


「───あ、愛菜…、??」


 彼女が意識を取り戻している。

 これは夢か?現実か?妄想か?幻か?


 様々な意見思考が浮かび上がったが。

 紛れもなく彼女は今目の前にいる。

 意識をしっかり持ち、俺と目を合わせ喋っている。


 だが、何か違和感があった。

 その違和感の正体は、彼女の一言で理解する。




『あの、あなたが小柳深海さん、ですよね?』




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 愛菜は、意識を取り戻していた。

 だが、"記憶を失っていた"

 今までの記憶がほぼ全て消えていた。


 俺と出会った事も、この世界の事も、何があったのかも、全て忘れていた。


 彼女の記憶にあるのは、人間として必要な知識と、人より優れた礼儀の作法のみ。

 以前のような元気な彼女は、もう居なかった。



 俺は今、師匠と二人で部屋にいる。

 一階でおばあちゃんと愛菜が家事をしていた。


「─────師匠、愛菜はどうなってるんですか。」


「ワシにも全て分かる訳では無いのじゃが、恐らくは、あの即死レベルの一撃により、意識が一瞬この世界から消えてしまったのが原因じゃろう。傷は癒え、意識を取り戻したとしても、記憶媒体はリセットされてしまったんじゃ。まるで、バッテリーを新しく交換し、バックアップしておらんかったロボットのようにな。」


「そんな、記憶を取り戻す方法は無いんですか?」


「ワシも今まで人の記憶が無くなるというケースは見た事がない。じゃがおそらく治癒術の問題ではなく、彼女の体になにかあったのじゃろう。すまんがワシにも何も分からんのじゃ。」


「──そうですか。」


「……どうじゃ、気分晴らしと言ってはあれじゃが、少しワシの話を聞かんか?」


「師匠の?はい。聞きますよ。どんな話ですか?」


「──ワシの、過去の話じゃ。」


「!!!」




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 ワシは元々、引退するまでは討伐士として前線に出ておった。

 ワシが討伐士になるのは少し遅くてな。

 みんなが若い中、ワシは一人でトレーニングを積み重ね、人一倍努力した。その努力が実を結んだのか、討伐士になってから、わずか3年で、討伐士第一位の座を手に入れることが出来た。

 そしてそのタイミングで、当時の団長さんが戦死したという報道が流れた。


「──これより、第42回 任命式を執り行います。」


「まず、新団長任命式。天皇陛下、女王陛下、前へお願い致します。」


「では新団長。『小川(おがわ) 清光(きよひこ)』前へ。」


「はっ!─────前を失礼致します。」


 団長が入れ替わるタイミングというのは不定期、団長がご臨終になったりした時に行われる。

 ワシはこの時、討伐士第一位の功績と名誉が認められ、新団長として任命された。


 ──ちょっといいですか、天皇陛下はまだ分かるけど、この時女王陛下もいたんですか?


 そうじゃな、当時は女王陛下も出席しておったんじゃが、最近は天道教や香良洲等の集団が多くなり、女王陛下の身の安全のために、あまり表に出てこなくなったんじゃよ。


 そして団長になって色々指示を振る立場になって分かった。"団長" というのは、生半可な気持ちでやってはいけないと。


 数年もやっていけば、ワシが団長の器に向いてないことくらいすぐに分かった。ワシは強さだけを追い求めてきた。だが一人じゃ、守れんものも多かったんじゃ。


 実際、何人も犠牲者が出てしまった。ワシが団長になってから、数多の死を自分のせいだと思うようになってしまったんじゃ。


 そこからワシは、自分に自信がなくなっていって、軽い鬱病になって前線を離れた。

 その絶望的な時に、今の婆さんが話しかけてきたんじゃよ。


「──誰だお前。人の部屋勝手に入りやがって。」


「ねえ、もう諦めるの?討伐士団長を。」


「俺はもう、前線に出ない。俺が出ていい器じゃない。俺が出たら、数々の人が死んでいく。」


「なんでそうマイナスな事だけ考えるの?私は、あなたの功績を沢山知っているのに。そうやって下を向いて、何が変わるの。」


「俺の功績なんて、そんなにない。」


「あるじゃない。貴方が居て、救われたって人が何人もいるでしょ?その人たちの力になろうって思わないの?」


「…なろうとはしたさ。でも、常に一人で戦ってきた俺に、そんな重荷は背負えなかった。余計な事ばっか考えちまう。」


「──じゃあ、私が隣にいて支える。貴方が前を向けるように。私がサポートする。だから、前線に立って。団長は、あなたにしか務まらない。」


 この言葉に、ワシは強く背中を押された。

 その言葉をきっかけに、婆さんとは結婚。

 ワシも前線に復帰し無事団長の役目を果たし引退したというわけじゃ。


 そこからは才能ある人に声かけては、サポートする側に回った。

 ワシが出来る事を全てこなそうと思った。ワシの余生がどのくらい残されてるかも分からんしのぉ。


 それで、お前さんに声を掛けたというわけじゃ。

 ワシの見る目は間違ってなかった。お主は今まで教えたなかで一番ポテンシャルと才能がある。もしかしたらお主なら『天の導き』を授かるかもしれない。


 ─────師匠、天の導き?ってなんですか?


 天の導きは、簡単に言えば天の神様から与えられた力の事じゃ。

 選ばれし強き人間が授かれる特別なもので、それを持つものはこの世界で数人しかいない。


 ちなみにこの世界には治癒術という水の導きの劣化派生能力を持ってる人がおるが、それは天の導きとは無関係じゃ。


 そういえば、今の第一位。神蔵蓮と言ったか?

 あやつを見て分かったんじゃが──


 やつは天の導きを、"複数所持している"ようじゃな。

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