第二十一話『第五十二回入団式』
───俺達は、無事に討伐士試験に合格した。
最終試験を終えた翌日。
合格者全員は、宮殿の大広間へと集められた。
高い天井。
幾何学模様が刻まれた巨大な柱。
足元には深紅の絨毯が敷かれ、その先には壇上が設けられている。
左右には、既に討伐士団の正規団員たちが整列していた。
一人一人が制服を身に纏い、微動だにせず前を見据えている。
その立ち姿だけで分かる。
ここに並んでいる連中は、修羅場を越えてきた本物だ。
無言の圧。
息苦しいほどの緊張感。
だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
──俺も、ここに立つ資格を得たんだ。
「ではこれより、第52回討伐士入団式を始める。合格者は、前へ出ろ!!」
その声が響いた瞬間、空気が一段階引き締まった。
名前を呼ばれるたびに、短く返事をし、一歩前へ出る。俺達十人は、最終順位順に一列に並ばされた。
……完全に入学式だな。
そう思いながらも、背筋が自然と伸びる。
ここまで来るのに、どれだけの血と汗を流したか。
それを思えば、この形式ばった儀式すら、悪くない。
「これより、晴れて討伐士試験に合格した十名を紹介する。呼ばれた者は返事をし、後ろを向いて一礼しろ。」
淡々とした声だが、その一言一言が重い。
これは“選別”ではなく、“承認”だ。
「第十位!!奥寺 絵梨花!!」
「はっ、は、はい!!」
奥寺絵梨花。
黒髪ロングに眼鏡。
今も少し肩をすくめ、緊張で声が上ずっている。
臆病で、気弱で、自己評価が低い。
戦闘中も何度も足が止まり、震える場面を見た。
だが──身体能力は高い。
反射神経、跳躍力、回避性能。
基礎スペックだけなら、上位陣にも劣らない。
最終試験では、剣を振る前に降参した。
それでも、彼女がここに立っているのは、それまでの実績が確かだった証拠だ。
「第九位!!高坂 芳生!!」
「はい。」
高坂芳生。
切れ長の目、無駄のない立ち姿。
真面目さと冷静さが、そのまま形になったような男だ。
身体能力は平均的。
だが頭の回転が異常に早い。
相手の癖、行動パターン、間合い。
それらを瞬時に組み立て、最適な答えを導き出す。
特に機械や構造物への理解が深く、ロボット戦では的確な指示を飛ばしていた。
戦場に一人は欲しい参謀タイプ。
──敵に回したくはない。
「第八位!!ジャガル・マグネル!!」
「はぁ〜い、ヨロシクねッ♡」
ジャガル・マグネル。
顔は完全にカエル。
だが姿勢は堂々としており、衣装も妙に様になっている。
異種族というだけでも目立つのに、
さらにオネェ口調という強烈な個性。
戦闘能力は突出していない。
正直、派手さもない。
だが──生存能力が異様に高い。
危険察知、逃げ足、判断の速さ。
「ヤバい」と思った瞬間に引く判断が、誰よりも早い。
戦場で一番最後まで生き残るタイプ。
ある意味、最も厄介な存在かもしれない。
「第七位!!メタルライド!!」
「……」
メタルライド。
一見すると無口な青年。
だが彼は人間ではない。
とある企業によって開発された、人型AIロボット。
戦闘型ではないため剣技は控えめだが、その代わり分析能力は群を抜いている。
視線が合った瞬間、背筋がぞくりとした。
目の奥に、うっすらと照準のような光がある。
特定の人物をサーチし、追跡し、記録する。
戦場では“目”として機能する存在だ。
……味方なら心強い。
「第六位!!名古井 伊織!!」
「はい!」
名古井伊織。
呼ばれた瞬間、背筋を伸ばして一歩前へ出た。
その動きには一切の迷いがなく、しかし威圧感もない。
黒髪のショートヘア。
小柄で、線も細い。
正直、第一印象だけなら戦闘員には見えない。
だが─────
最終試験を見た者なら、その評価は一変する。
彼女は倒れない。
どれだけ攻撃を受けても、息が乱れても、足が震えても、必ず立ち上がる。
派手な剣技はない。
一撃必殺の技もない。
それでも、相手は確実に削られていく。
最終試験で、あのメタルライドを降参させた理由は単純だ。伊織だけが、最後まで動いていた。
逃げない。
止まらない。
焦らない。
長期戦に持ち込めば、彼女は相手の精神を確実に削る。気付いた時には、戦況はもう取り返しがつかなくなっている。
静かな闘志。
それが、名古井伊織という討伐士だ。
「第五位!!川崎 彩葉!!」
「はい。」
川崎彩葉。
名前を呼ばれ、ゆっくりと顔を上げる。
視線は真っ直ぐ前を向いているが、どこか遠い。
姉である川崎琴葉と、顔立ちはよく似ている。
だが、立ち姿も、空気も、まるで別人だ。
彼女の周囲には、常に一枚の壁がある。
誰も踏み込ませない距離感。
それは防御ではなく、諦観に近い。
この未来にどうやって辿り着いたのか。
なぜ討伐士を志したのか。
その理由を、彼女は語らない。
姉妹でありながら、ほとんど会話を交わさないという事実。
その関係性は、傍から見ても歪だ。
剣術の練度は、正直に言えば琴葉には及ばない。
だが、それでも戦闘型ロボットと互角にやり合える。
無駄な動きがなく、感情の揺れがない。
急所だけを、淡々と狙う剣。
─────きっと、彼女はずっと、
誰かの背中を追い続けてきたのだろう。
「第四位!!宮本 武蔵!!!」
「はい!!皆さん!!よろしくお願いします!!」
宮本武蔵。
声が、でかい。
存在感も、でかい。
一歩前に出ただけで、場の空気が明るくなる。
それでいて、軽薄さはない。
剣術、体術、共に完成度が高い。
特にスピードは異常だ。
踏み込みの速さ。
反応の鋭さ。
攻撃に転じる判断の早さ。
最終試験では、全員を正面から倒して一位。
策も、奇襲も使わず、純粋な実力でねじ伏せた。
熱血で、真っ直ぐで、負けず嫌い。
だが慢心はない。
─────こういう男がいると、部隊は強くなる。
「第三位!!桜木 翔也!!」
「はい!」
桜木翔也。
金髪。
軽そうな態度。
笑顔で手を挙げる。
初対面なら、まず舐められる。
だが、実力を知っている者は、誰も油断しない。
身体能力だけなら、今回の合格者の中でも最上位。
反射神経、瞬発力、筋力、どれも高水準だ。
剣技は粗削り。
理論より感覚。
だが、その直感は異様に鋭い。
ふざけている時と、戦闘時の切り替えが極端だ。
仲間が傷ついた瞬間、表情が変わる。
────信頼できる。
それだけは、間違いない。
「第二位!!小柳 深海!!」
「はい。」
小柳深海。
呼ばれた瞬間、場の視線が一斉に集まった。
体格。
筋肉の付き方。
剣を持たずとも分かる、鍛え上げられた身体。
剣術は伝統派。『青眼の構え』
構えに無駄がなく、基本で重心が低い。
一つ一つの動きが理にかなっていて、
そこに体術を自然に組み込んでくる。
派手さはない。
だが、隙がない。
────積み重ねてきた時間の量が、違う。
経験を積めば積むほど、
確実に手の付けられない存在になる。
「そして────」
一瞬、間が置かれた。
誰もが、次に呼ばれる名前を理解していた。
「第一位!!川崎 琴葉!!!」
「はい。」
川崎琴葉。
白髪のロングヘア。
背筋を伸ばし、静かに前へ出る。
その佇まいだけで、空気が引き締まる。
剣を持っていなくとも、圧がある。
剣技は、圧倒的。
同じ伝統派の流派だろうが、練度が段違いだ。
一振り一振りに迷いがなく、
意志が、剣そのものに宿っている。
第三次試験で見せた、あの一撃。
『神撃斬』。
あれは技ではない。
理屈を超えた、力の顕現だ。
────彼女は、この世界でも数少ない
『天の導き』の所有者だ。
こうして、十人全員が紹介された。
「以上!! 10名!! 君たちは討伐士として、これから大いに活躍してもらいたい!!」
「団長挨拶!! 団長! 前へ!!」
号令が響いた瞬間、大広間の空気が一変した。
先ほどまで残っていたわずかなざわめきが、まるで水を打ったかのように静まり返る。
聞こえるのは、整列した討伐士たちの呼吸音と、床に伝わる微かな衣擦れの音だけ。
一歩、また一歩。
中央通路を進み出た男の存在感は、歩くだけで周囲を黙らせるほどだった。
討伐士団団長───神蔵源治。
年齢は分からない。
白髪混じりの髪、刻まれた深い皺。
しかし、その背筋は真っ直ぐで、剣を抜けば今でも最前線に立てると誰もが確信する佇まいだった。
歴戦という言葉を、そのまま人の形にしたような男。
団長の視線が、横一列に並ぶ俺達十人をゆっくりとなぞっていく。
まるで剣の切っ先で測られているかのような感覚に、背筋が自然と伸びた。
「───団長の神蔵源治だ」
低く、重い声。
決して怒鳴っているわけではないのに、言葉が骨に直接届くような感覚があった。
「…こうやって見渡してみると君たち、いい面構えをしているな」
一人一人を、しっかりと見る。
そこには飾りも誇張もない、純粋な評価が込められていた。
その視線が俺の前で一瞬止まった。
ほんの一瞬。
だが確かに、何かを量られた気がした。
「これは期待出来そうだ。君たちの入団、快く歓迎しよう」
胸の奥に溜まっていた緊張が、少しだけ解ける。
試験を乗り越えた実感が、ようやく言葉として認められた気がした。
「さて、ではここで少し、君達討伐士の皆に話しておきたいことがある。聞いてくれ」
場の空気が、再び引き締まる。
これは儀式ではない。重要な“現実”の話だ。
「一昨日、とある者の情報提供により、天道教の素性が少し見えてきた」
その一言で、広間に微かなざわめきが走る。
誰もが知っている名前。
だが誰も、その全貌を掴めていない存在。
「天道教は7人の幹部、そしてその上に、皆が崇める絶対神が居る」
背中を冷たいものが這う。
その構図は、あまりにも明確で、あまりにも不気味だった。
『…この内容、一昨日琴葉がオレに伝えてきた話、そのままだ。』
あの時は個人的な情報だと思っていたものが、今は公の場で語られている。
事の大きさを、改めて思い知らされる。
「───私はこの話を聞き、これは運命だと思った」
団長の声に、微かな熱が宿る。
「ここ数年、何も素性が見えなかった天道教が、今、徐々に姿を現しつつある」
それは脅威であると同時に、好機でもある。
「これは風向きが、こちらに向いてきていると言っても過言では無いはずだ」
誰かが小さく息を呑む音がした。
「だから我々は、この代で、必ず天道教を壊滅させる」
迷いのない断言。
逃げ道を自ら断つ覚悟の言葉。
「その為に、君達にも協力して欲しい」
視線が、再び俺達新入りに向けられる。
期待と責任が、同時にのしかかってくる。
「そしていずれ、香良洲の素性も突き止め、この世界に平和をもたらしたいんだ」
胸の奥が、強く脈打つ。
敵は一つではない。
だが、進む道ははっきりしている。
「我々はその為に、ここにいる!!!」
声が、大広間を震わせる。
「我々はここで命を捧げなければならない!!」
一瞬、張り詰めた静寂。
「この地に生きる全ての人達の幸せを!! 平和を!!」
そして────
「我々が守り抜く!!!」
次の瞬間、感情が爆発した。
拍手、歓声、剣を鳴らす音。
床が揺れるほどの熱量が、一気に押し寄せる。
新入りである俺達は、一瞬戸惑った。
だが、その熱に包まれ、自然と声を上げていた。
団長の闘志が、討伐士団全体に火を付ける。
それに応えるように、団員たちが雄叫びを上げる。
────ようやく、実感が湧いた。
俺達はもう、試験を受ける側じゃない。
守る側だ。
誰かの日常のために、刃を振るう立場だ。
「これで話を終わりにする!!!」
「団長!! ありがとうございました!!!」
再び、割れんばかりの声。
「最後に、天皇陛下による討伐士認定書授与!」
「天皇陛下は前へご登壇下さい!!」
場の空気が、また一段変わる。
ざわめきが自然と収まり、厳粛な静けさが戻ってくる。
卒業式で名前を呼ばれる時みたいな感覚。
「───小柳深海!」
名前が呼ばれた瞬間、心臓が一拍だけ大きく跳ねた。
これまで何度も名前を呼ばれてきたはずなのに、この場、この状況で呼ばれる自分の名は、まるで別物のように重く響く。
「はい!」
はっきりと、腹の底から返事をする。
一歩前に踏み出すと、磨き上げられた床が光を反射し、足元がやけに眩しく感じられた。
視線が自然と集まる。
数多の討伐士、団員、関係者、そして────壇上。
ゆっくりと階段を上がり、天皇陛下の前に立つ。
距離は数歩しかないのに、その存在感は圧倒的だった。纏っている空気が違う。
威圧感ではない。ただ“重み”がある。
「──おめでとう」
穏やかで、しかし芯の通った声。
それだけで背筋が自然と伸びる。
「君には期待している。是非、精進して頑張っていってくれ」
その言葉は形式的な祝辞ではなく、確かに“個人”へ向けられたものだった。
期待という言葉の重さを、はっきりと感じ取る。
「はい、ありがとうございます」
言葉を選ぶ余裕はなかった。
だからこそ、嘘のない気持ちをそのまま声に乗せた。
「ご期待に添える働きが出来るよう、尽力致します」
一礼。
深く、丁寧に頭を下げる。
顔を上げると、天皇陛下は小さく頷いていた。
それだけで胸の奥が、じんわりと熱くなる。
壇を降り、自分の位置へと戻る。
その背中に、無数の視線が突き刺さっているのが分かったが、不思議と嫌な感覚はなかった。
そして────全ての認定書授与が滞りなく終わる。
「これにて!! 第52回入団式を終了する!」
号令と共に、大広間に拍手が広がった。
先ほどまでの緊張が一気に解け、空気が柔らぐ。
式が終わったという実感が、ようやく体に染み込んでくる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
入団式を終えた俺達は、王宮の一角で一息ついていた。
格式張った大広間から少し離れただけで、空気がぐっと身近になる。
「み、皆さん!これから一緒に頑張りましょうね!」
奥寺が、少し緊張したように、けれど一生懸命声を出す。眼鏡の奥の目が、キラキラしていた。
「そうだね、これからは全員仲間になるわけだし……まぁ順位分けというので言うなら敵になる訳だが、その場合はいささかややこしい────」
高坂が腕を組み、難しい顔でブツブツと呟き始める。
相変わらず、考えすぎる癖は抜けていないらしい。
「まぁ細かいことはいいじゃないか!!」
そこに、元気そのものの声が割って入る。
「俺達は晴れて討伐士!!みんなと仲良く切磋琢磨して行こう!!おーー!!」
宮本が拳を突き上げる。
場の空気が一気に明るくなるのが分かった。
「みんな元気だよなぁ」
思わず、そんな言葉が口をつく。
「まぁな。正式に入団したってことで、気が晴れたんじゃねえの?」
隣で翔也が肩をすくめる。
軽口の裏に、確かな安堵が滲んでいた。
「でもうち、なんで第6位なんだろう」
伊織が首を傾げ、不満そうに呟く。
「弱えのにな??ハッハッハ!!」
翔也が即座に煽る。
「オマエハマタコロサレタイノカ?」
一瞬で殺気が跳ね上がる。
───相変わらずの光景だ。
こいつらは、何も変わらない。
いや、変わらなくていい。
肩書きが討伐士になろうが、順位が決まろうが、
こうして馬鹿なやり取りが出来る関係は、きっとこれから先も続いていく。
それでいい。
それがいい。
そう思えること自体が、少し誇らしかった。
「あ、そうだ。せっかくですし、VINE交換しませんか?? いざって時の連絡とか、必要ですよね?」
奥寺が少し控えめに、けれど勇気を出したように提案した。確かにその通りだ。
これからは同じ討伐士団の仲間として、現場でも情報共有が必要になる。
こういう些細な繋がりが、命を救うこともある。
「そうだね!!!名案だよ奥寺ちゃん!! よし、みんなで交換しよう!!」
宮本が即座に賛同し、場の空気を一気に前向きにした。その勢いに押される形で、全員が携帯を取り出す。
順番にVINEを交換していく。
画面に表示されるアイコンや一言メッセージを見て、思わず笑ってしまった。
宮本のアイコンはダンベル。
一言メッセージは――
『皆も一緒に筋トレしてキャンプしよう!!』
あまりにも宮本らしすぎて、誰も突っ込む気すら起きなかった。
翔也は派手なエフェクト付きのアイコンで、
『人生ノリと勢い!!』
……まったくブレていない。
高坂は無機質な歯車のアイコンに、
『合理性重視。無駄な連絡は要相談。』
らしいというか、なんというか。
奥寺は花のアイコンに、
『皆さんと一緒に強くなりたいです』
控えめだけど、真っ直ぐな言葉だった。
それぞれの個性が、そのまま画面に表れている。
ほんの些細なやり取りなのに、不思議と胸が温かくなる。
こうして俺達は、正式に“仲間”になったのだと、実感が湧いてきた。
俺達は無事、討伐士になった。
それは喜ばしいことであり、同時に重い責任を背負ったという意味でもある。
討伐士の道は、決して楽じゃない。
怪物と戦い、人の悪意と向き合い、時には命を賭ける修羅の道だ。
それは、ここにいる全員が理解している。
それでも。
明確な目的がある以上、立ち止まる理由はなかった。
愛菜のこと。
天道教のこと。
香良洲の正体。
そして、この未来の世界の行く末。
全てを知るために。
全てに決着をつけるために。
──さぁて。
これからが、オレの人生の本番だ。
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