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▼"一次通過"アイスマジック  作者: 薬屋がいる限り1位無理!tanakatakusi
第2章 4女ディヴィアの誓い 学園ラブコメカードバトル編

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第16話明かされた星

 その日のうちに、ディヴィはハイセイ市の救急病院へとヘリで搬送された。


 無情にも、ヘリの同乗を許されたのは医療従事者とパイロットのみだと告げられ、彼女の手を握りしめて付き添うことすら出来なかった。

 遠ざかっていくローターの轟音を俺はただ立ち尽くして見上げていた。


 四方を峻険な自然に閉ざされたブランカ村には、彼女の瀕死の命を繋ぎ止めるための高度な医療設備が存在しない。

 彼女が空へ消えた後は、まるで荒波の如く押し寄せた警察の聴取と混乱を極める学院の対応にひたすら忙殺された。

 もし、いつも有能なディヴィが隣に居てくれたなら、物事はスムーズに進んでいたに違いない。彼女の不在が不条理なほどに重くのしかかる。


「今は精神的に酷く辛いでしょう、詳細はまた後ほど連絡します。」


 目の下に深い隈を刻んだ中年の刑事にそう告げられ、ようやく俺は解放された。

 生気を吸い尽くされたように身体を引きずりながら翌朝、俺は再び重苦しい霧の立ち込める学院を目指す。


「…………」


 アストレイア女学院は、当然のように休校措置が取られていた。

 校門の前には警察関係者や野次馬が複数人立っており、正面から入ることは不可能な状態だ。

 おかしい、なぜカメラを持ったマスコミが来ていない?ネットニュースを探しても学院の記事は見つからない。


 とりあえず学院の正面を避け、外壁の影から静まり返った職員用通路へと侵入する。

 前に踏み出すことすら今の俺にはやっとだった。すっかり生気を失った俺の姿を、担任の先生が出迎えてくれた。


「ロットくんよく来たね。……もし体調が優れないなら保健室で休むといい。カウンセリングの専門家も手配してある」

「ありがとうございます……」


 それだけ短く掠れた声で答えた。


 昼になれば担当の刑事から連絡が来る。それまでの時間は、どう過ごしても自由だそうだ。

 俺の足は自然とあの惨劇の舞台――ステージホールへと向いていた。

 ホールの入り口には無機質な黄色い規制線が幾重にも張られている。この境界線を越えれば、たちまち怒声が飛んでくるだろう。


 視界の先には、見慣れない制服やスーツに身を包んだ大勢の人物が蠢いている。彼らが這い回る1階のフロアには、とても近寄れそうにない。

 だがせめて、悍ましい光景を目に焼き付けておきたかった。――何か証拠があるかもしれない。

 俺は息を潜め捜査が続く階下の様子を2階の吹き抜けからこっそりと覗き見た。


 その時、背後から音もなく近付いてくる微かな気配を察知した。


「どうも。私、ナタール署のホープと申します」


 振り返ると昨日会った刑事がいた。以後お見知りおきをと差し出された名刺を泥のように重い手で受け取る。


「俺と話したいっていうのは……」

「ええ、私ですよ」


 わざわざ、姿を隠していた俺を探しに2階まで上がってきたというわけか。

「立ち話もなんですし、あちらの部屋へ移動しましょうかね」

 促されるまま、近くの無人の教室へと移動した。


「本当に大きな建物ですねぇ。さすがは歴史ある学院だ」


 窓の外を見下ろしながら、ホープ刑事は感心したような声を出す。世間話を振ることで、こちらの警戒心を解こうとしているのだろう。その意図が透けて見えて、俺はただ黙秘を貫いた。


「さて。何から話しましょうかねぇ、ロットさん」

「……俺を疑っているんだろうが、あらかじめ言っておく。俺は被害者だ」


 この男が敵か味方かも分からない。だが互いに腹を探り合っている時間などない。俺は覚悟を決め言葉を紡いだ。

『アイス家』によって命を狙われているという事実。そして共にこの学院へ留学してきたアーサーとヴィアの存在。核心の部分をいくつかぼかしながらも俺たちの置かれた異常な状況を一気に吐き出した。


 ホープ刑事は顎に手を当てて俺の話を静かに聞いていた。


「なるほど。実はねロットさん。我々もあなたや周囲の関係者の洗出しを急ピッチで進めているところでしてね」


 刑事の細い目が、一瞬だけ鋭く光る。


「それに事件の前後フードを深く被った不審な人物の目撃証言も上がっているんですよ」

「!」


 その言葉に脳裏にある記憶が火花を散らした。

 ――そうだ。学院で奇妙な聞き込みをして回っていた、探偵風の怪しい男。

 あいつが犯人か……? いや、あいつはあまりにも堂々しすぎていた。別の組織の人間か?


「元よりアイス家に関しては黒い噂が絶えませんからね。今回の件も何やらヤバい噂に首を突っ込んだ愚かな輩が、見せしめに殺されたんじゃないかと当初は我々も疑っていたのですが……」


 まるで俺たちの無謀さを嘲笑うかのような物言いに、胸の奥でどす黒い不快感が渦巻いた。


 だがホープ刑事はそこで一度言葉を切り、ゆっくりと俺の目を正面から見据えた。


「あなたのお話を聞いてね、少し考えが変わりました。個人的にはロットさんを強く疑っていたのですが……どうやら巨大な陰謀の渦に巻き込まれ、何者かに利用されている可能性が出てきたな、と」


 互いに情報を探り合っていては埒が明かない。そう判断したのだろう、刑事は自らの考えを先に開示してきた。その真摯な姿勢は信頼に値するかもしれないし、あるいは罠かもしれない。


 静まり返った教室。窓から差し込む冬の光の中で、ホープ刑事は告げた。


「いいですかロットさん。今の状況から逆算して、導き出される答えは一つです」


 その声はあまりにも残酷な響きを帯びていた。


「次に殺されるのはロットさん。あなたです」

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