第14話今、勝ちたい人
「――――ッ!!!」
ディヴィを抱きかかえる俺を周囲の教員たちが力ずくで引きずり下ろそうと群がってくる。その喧騒の向こうで、誰かが鋭く叫んだ。
「おい待て……まだ息があるぞ……ッ!!!」
一瞬で思考が我に返った。
今まで完全に遮断されていた周囲の声が、色彩を失っていた世界が、一気に鼓膜へと突き刺さる。
途切れかけていた意識と肉体の隅々に熱い血が怒涛の勢いで通い出すのを感じた。
「離せッ! ディヴィ――!!!」
引き留める大人の手を振り払い、無我夢中で再びステージへと飛び込んだ。もう一度彼女に会いに血に濡れた大理石のテーブルへと足を掛ける。
狂おしい祈りを込めて、ディヴィの身体を抱きしめた。
――動いている。かすかに、けれど確かに、彼女の胸が上下に呼吸を刻んでいた。
「生きてる、生きてるッ!!!」
溢れ出た大粒の涙が俺の頬を伝い、血に染まった床へと静かに落ちていく。
絶望の深紅で埋め尽くされた視界の真ん中に、俺はたった一筋のまばゆい光明を見た。
「警察を救急車を早くっ――!!! はやくしろ!!!」
叫ぶ。引き戻された冷酷な現実に、ようやく脳の処理が追いつき始めていた。
そうだ。 アーサーとヴィアはどうなった――!?
あまりの凄惨さに脳が防衛本能で直視を拒否していた。俺は恐怖に震える瞳をその凄惨の核へと向けた。
誰も触れない。いや、恐ろしすぎて誰も触れられないのだ。周囲で他の生徒や実行委員たちが腰を抜かし、嘔吐し、うずくまっているが、そんなものは知ったことか。
無残にも縦に裂かれた、2人の肉体。
左半身と右半身、それぞれ別人のパーツが歪に。そして精巧に一枚の皮として縫い合わされていた。
「異常すぎる。こんなこと人間ができるわけがない……」
奴らはずっと俺たちを狙っていた。緻密に計画を練り、周到に準備を重ね、この華やかなアストレイア女学院に牙を潜めていた。
甘かった。
命を狙われているなんて言葉、心のどこかで本当の意味では信じていなかった。
「クソッ!!」
激しい後悔が胸をかきむしる。だが遅すぎた。何もかもが遅すぎたのだ。
これほど残虐な目に遭わなければならない理由がどこにある。すべては『アイスゲーム』に関わってしまったからなのか――!? どうして、どうして、どうして……っ!
周囲がさらに慌ただしく変貌していく。学院の保健医だろうか、白衣を着た大人たちの到着は妙に早かった。
息があるなら必ず助かる。ディヴィに付き添いながら、まずはここを離れて保健室へ向かおう。
今は彼女の命を守るのが最優先だ。
その時、脳裏に1人の少女の顔がよぎり、ハッと息を呑んだ。
(そうだ――ケイはどうした!?)
あいつに、こんな地獄のような光景を絶対に見せるわけにはいかない。
声を荒らげて周りの連中に問い詰めると、教員の一人がすでに別の場所へ連れて行ったのだという。俺は血眼になって周囲を見回した。
――いた。ステージの最果て、隅の方の椅子で、いつものぬいぐるみを強く抱きしめながら、嵐の静寂の中で眠りこけている小さな姿が見えた。
その無垢な寝顔に心の底から救われるような安堵を覚える。
俺は愛すべき仲間であり、共にゲームで戦ったライバルでもある、今は物言わぬ骸と化してしまった、アーサーとヴィアに背を向ける。
「……ゴメン」
血の海の中心に取り残される二人へ、今の俺にはそう小さく惨めに呟くことしかできなかった。




