決着なき決着
王子の手から剣先が垂れた。
鉄の重みは残っているのに、武器としての意味が溶けていく。
鞘に戻してもよかった。砕いてしまってもよかった。
だがどちらを選んでも、何かが“始まる”気配はなかった。
ユーフェミアは立ち上がらない。
薄い木陰の下、彼女は座ったまま、白い手首を軽く振る。
魔法鳥たちが群れ、翼をたたんではパン屑を啄む。
彼女はその供給を続けるだけだ。
まるで壊れた噴水が、いつまでも一定量の水を吐き出しているかのように。
王子は、一歩も踏み出せない。
剣を振るう理由は、整理され過ぎて輪郭を失っていた。
怒りは稀薄な塩水のように淡く、
恨みは棚卸しされた数字のように中立で、
恐怖はただのリストになってしまった。
ユーフェミアの魔法は、攻撃を防いだのではない。
戦争を構成する条件——高温を、燃料を、舞台装置を——根こそぎ奪い取っていた。
彼女は視線を上げることすらしない。
王子がそこにいるかどうかも、確認する必要がないようだった。
ただパンを割り、鳥へ放る。
魔力は、散文のように平坦だ。
奇跡の兆しも、栄光の前兆もない。
城の中庭を包む空気は、異様なほど静かだった。
教師のティーカップはすっかり冷え、
生徒のページは規則正しくめくられ、
鳥たちは与えられた糧に向かう。
日常が歩調を乱さない。
この場にいるのは王子だけだ——ただ一人で、劇を始めたがっている観客。
剣を握る指が、微かに震えた。
遅れて、理解が追いつく。
「俺は……戦っていなかった。」
声は、告白ではなく報告だった。
自分自身への——遅れた通知。
「戦う相手を作ろうとしていただけだ。」
王子の胸から、氷のような空洞が広がった。
対峙する悪役が存在しない世界は、英雄譚という引火性の物語を拒む。
舞台は組まれず、スポットライトは点灯しない。
観客席は空席のまま。
ここには敗北すら存在しない。
英雄は負けたのではない。
英雄譚が——起動すらしなかったのだ。




