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ユーフェミアは今日も眠い。  作者: 南蛇井


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ユーフェミアの哲学

ユーフェミアは冷酷ではなかった。

その瞳は深い湖のように澄み、温度も憎しみもない。

ただ、己の論理に静かに従うだけだ。


王城中庭、薄曇りの空。

王子の叫びは湿った空気を震わせる。


「お前は人間を壊している!」


ユーフェミアは瞬きを一度だけ挟み、淡々と答える。


「壊れているのは人間ではなく、

苦痛を礼賛する文化です。」


彼女の語調には刺すような鋭利さも、挑発もない。

ただ、落ち着いた医師が診断を述べるような平坦さ。


ユーフェミアの魔法は、治療というより最適化だ。


試験の失敗で胃が痛む生徒に対して、

魔法は痛みそのものを消す。


失恋で眠れぬ者には、

記憶の棘を丸めて安眠を許す。


人生の段差は丁寧に削られ、

世界は機械の滑走路のように平坦になっていく。


「苦痛は非効率です。

苦しみを燃料にする文化は前時代的です。」


ユーフェミアは告げる。

その口調は教師でも神官でもなく、

問題を最短距離で解決する技術者のものだった。


「技術だと?」

王子は剣を握りしめ、声を震わせた。

あまりに滑稽な言葉に聞こえたのだ。


「苦しみは人間の証だ!

痛みを越えてこそ、誰かを助けられる!」


その叫びは焚き火の如く熱い。

彼自身が歩んできた傷跡の記憶で燃えている。


ユーフェミアは首を僅かに傾けた。

彼女にとってその感情は観察対象だった。


「あなたの言う英雄は、

痛みが存在する環境でのみ成立します。」


「しかし、痛みのない社会を作れたなら——

英雄は概念として不要になります。」


その言葉は雷鳴よりも静かに王子を打ちのめす。

説明ではなく結論だった。


ユーフェミアの魔法は人の心を奪わない。

代わりに、人の心が揺れる理由を削り取る。


壊れない身体。

乱れない精神。

迷わない意思。


それは人を弱くするためでも強くするためでもない。

管理可能な状態へ収束させるためだ。


王子は歯を食いしばり、剣の切っ先を彼女に向けた。

光は震え、彼自身の手も震えた。


「人を救うのは——痛みを知る者だ!!」


ユーフェミアは一歩も引かない。

むしろ、王子の激情を好奇の対象として眺めている。


「人を救うのは、痛みが存在しない社会です。」


その瞬間、

彼女は剣では斬れぬ場所に立っていた。


憎むべき悪でもなく、

倒すべき魔でもなく、

痛みという概念を上書きする思想。


王子は言葉を失った。

胸の奥で燃えているものが、

彼女の前ではただの計算誤差に思えたからだ。

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