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ユーフェミアは今日も眠い。  作者: 南蛇井


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制度への侵入:“治すな、最適化せよ”

▶ 制度への侵入:“治すな、最適化せよ” — 小説化


ユーフェミア魔法の導入は、まず学術ギルドの名称変更から静かに始まった。

学長は壇上で、ひどく誇らしげに宣言した。


「本日をもって“治癒魔術師”は廃止する。

これからは“最適化魔術師”だ」


拍手は起きなかった。

学生も教員も、右頬を撫でる風のようにその言葉を受け流した。

だが、その時ほんの微かに震えた空気は、数年後に都市全体を覆う暴風の前触れであった。


改称に合わせて保険制度が再設計された。

治療した患者が学校へ戻り、筋トレに復帰し、恋人へ愛を囁いた――

その結果として得られた成果データが補助対象となる。


怪我はもはや「治す」べき欠損ではない。

回復速度の不足こそが損害だと法は定義した。


運動部で膝を壊した少年は、診断書を提出する代わりにスプリントタイムを提出した。

教師は怪我の程度ではなく、回復後のベスト更新率を評価欄へ書き込む。

タイムが伸びなかったなら、

「処置の手法にノイズがあった」

とみなされ、保険は削られる。


医療室は静寂に包まれ、廊下はいつもざわついた。

負傷者は痛みを訴えず、

ただディスプレイに映る数値を気にしていた。

治癒は結果が均一であるほど優秀とされた。


一方、かつての治癒魔術師たちは困惑していた。


骨折した腕を包帯で固定し、患者の回復を待つ――

そんな牧歌的な仕事はもう存在しない。

新たな魔術師の役割はデータの平坦化だ。


患者の筋肉繊維の微細な裂けを修復するより、

平均値からの偏差を丸ごと削り取るほうが効率的である。

痛みも苦悩も、統計上の外れ値に過ぎない。


若手の最適化魔術師がぼそりと漏らした。


「人間は、怪我をするから人間らしいのでは?」


シニアは即座に訂正した。


「違う。怪我しても成果が減らないようにするのが我々だ」


若手は沈黙した。

その沈黙すら、精神波形の乱れと記録され、改善対象となった。


ユーフェミア魔法は、遂に文化へ侵入した。

個体差は多様性ではなく、**“誤差”**の名で処理される。


運動会の徒競走では、転倒した子の膝を赤い涙が伝う前に、

魔術が即座に介入し、筋肉の伸長率を調整して最適速度へ復帰させた。

観客は拍手喝采――ではなく安堵した。


「ちゃんと戻った。

ノイズは除去された」


挑戦は失敗するから尊い。

痛みがあるから努力になる。

昔の教師はそう言っていた。


だが、今の学校では違う。


努力とは誤差ゼロに収束する綺麗な曲線のことであり、

試行錯誤は最適化を阻害する乱数だとみなされる。


ユーフェミア魔法は人体に触れない。

人間という概念そのものの定義へ指を伸ばし、

それを静かに書き換えていく。

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