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第74話 ジズ

 エルフの大地でオカリナを吹くと良いらしい。なんて少し曖昧な表現だが、ベヒーモスの言葉をプラスするとジズが現れるということで間違いはないと思われる。


 しかし、言葉の意味はわかっても、エルフの大地というのがイマイチピンとこない。それがなにを差す場所なのか。


 エルフの大地なんて名称の場所はここにはない。


 それがエルフの里のことを差しているのであれば、今、この場でオカリナを吹けばジズが現れるだろう。しかし、エルフの里の指定された場所なのであればその限りではない。


「エリスは心当たりでもあるか?」


 城の宝物庫を出て、階段を上がりながらエリスに聞くが首を横に振った。


「エルフの大地なんてもの、ここにはないもの。わからないわね」

「仕方ない。それじゃイリスさんに聞いてみるか」


 エリスはどこかつまらなさそうな顔をしながらも頷いた。


「イリスの方が王様っぽいしね」

「ふ、ふん。そりゃあっちはババアなんだし、王様っぽくて当然でしょ」


 拗ねたもの言いにフレデリカは何も言わず、エリスの肩にポンっと手を置いた。


「むかつくわねぇ。見てなさい。わたしの名を世界に轟かせてやるわよ」

「お笑い王として?」

「妖精王としてよ!」


 そんなことを言いながら階段を上がって行き、謁見の間に戻って来るが。


「ありゃ」


 そこにイリスさんの姿はなかった。


 フレデリカがエリスを見ながら口を開く。


「王族って忙しいから」

「わたしが暇みたいな言い方をするわね」

「じゃないの? 勇者パーティでもあんまり働いてないよ?」

「働いてるわよっ!」


 すかさず言い放ちながらも、少し思い返してみた。


「働いてる……わよ……」


 勇者パーティでも1番働いているのはルナとローラのイメージだな。フレデリカは強力な魔法でトドメをさしているイメージ。


「働いてるわよね?」


 泣きそうな顔で俺を見てくる。


「治癒魔法は必須だからな。うんうん。大丈夫だよ」


 流石に可哀想になったので、なだめるように返事をしてやると、どこか安堵したような顔を見せた。


「そんなことよりも、どうする?」


 このまま、この話題を続けるのは面倒なので話題を変更する目的で本題に戻る。


「他のエルフの民に聞いても良いかもだけど、1度この城で吹いてみても良いかもね」

「この城もエルフの大地と言われればその通り」

「本来、エルフの里に来ること自体が難しいこと。だから、エルフの大地=エルフの里でも間違いはないと思うわ」


 エリスの回答は俺もそう思うので頷いて肯定する。


「じゃあここで吹く?」


 俺は虹のオカリナを取り出した。


「ここは室内だし、ジズまで届かないんじゃない?」

「わからないぞ。めっちゃ耳が良いかもしれないだろ」

「聞こえたとしても目の前に現れるなら城を破壊するかもしれないでしょ。やめてよ」


 たしかに。どういう登場の仕方はわからないが、とりあえず目の前に来るって感じなら城を破壊する可能性もあるのか。


「屋上とか行く?」

「そうね。屋上に行きましょう」

「バカと煙は高いところが好き」


 ボソリとフレデリカが言う。


「誰がバカよ!」

「人間のことわざ」


 ことわざではなく、揶揄だと思うのだが。


「あ、そうなの。へぇ」


 エリスが納得したから、それで良いのならいっか。


「やっぱバカだ」




 城の屋上はそこまで広くはない。塔屋と落下防止用の多少高さがある小さな壁があるだけ。その壁も簡単に乗り越えられるので安全面で言えばなんの安全性もなし。


 もともと、敵襲を見張る見張り台なだけなのでそんなに設備を充実する必要もないし、そもそもエルフは飛べるので、屋上があるのもあまり意味はなさそうだ。


 しかし。


「うわぁ」


 フレデリカが屋上からの景色を眺めて声を漏らした。


 俺はエリスと目が合い、一緒にフレデリカの方を嬉しげに見た。


「ここの景色は格別だろ?」


 フレデリカの隣に立ち彼女へ問いかけると、コクリと頷いた。


「当然ね」


 ない胸を張り、エリスが威張るように言ってのける。


 ここからの景色はノーシュヴァイン城の中庭からの景色と似ているのだが、こちらの方がより神秘的である。


「さ、エリス。ここで吹こう」

「え!? わたしが吹くの!?」

「そりゃそうだろ。妖精王なんだし」


 適当な理由を言ってのけると、エリスはなぜか納得した様子でオカリナを受け取る。


 妖精王というワードに弱いやつだ。


「ど、どうやって吹くの?」

「なんか、こう、適当にで良いんじゃない?」


 エアオカリナをして見せると、それを真似てエリスが虹のオカリナを吹いた。


「うわぁ……」


 フレデリカがドン引きしていた。


「フレデリカ。しっ」


 人差し指を立てて、口元に持っていき彼女へ静かにするように言った。


 何百年海の底に眠ってたオカリナに口を付けるなんて嫌だからね。妖精王が阿呆でよかった。


 ♪〜♪〜♪〜。


 しかし、さすがは妖精王様。ハーブの腕前も良い上に、オカリナの才能もあるときた。


 聞いていて癒されるような音が城の屋上から、天まで響いている様子だ。


 数秒後にエリスはオカリナを口から離して俺とフレデリカを見た。


「なにも起こらないわよ」

「じゃあ、やっぱりちゃんとしたところで吹かないとダメみたいだな」

「エルフの大地……。一体どこなんだろう」


 どうやらアテが外れたみたいで、3人でどうしようか悩んでいると。


 キュらああアアア。


 独特な鳴き声が聞こえてくる。動物ではない魔物に近い鳴き声に俺達は身構えた。


 すると空から何かがやってくる。


 それは一瞬で俺達の目の前で止まった。


「ジズ……か?」


 あまりに一瞬の出来事に脳が状況を理解するのに時間がかかってしまった。


 ようやくと目の前に大きな虹色の大鳥を目の当たりにして、驚きのリアクションを取ることができた。


 虹色の大鳥は俺達は鋭い眼光で睨みつけている。


 ああ……。リヴァイアサンと同じ系か。


「あんさん達かいな? ワシを呼び出したんわ」


 独特のイントネーションで喋りかけてきて、さっきのシリアスな雰囲気が一瞬で消えた。


「あ、ああ。ジズで間違いないよな?」

「せやで。ワシは空の魔神ジズや。仲良ぉしてや」

「は、はは……」


 イントネーションが独特過ぎて少しわかりにくいが、リヴァイアサンみたいに敵対心はなさそうである。


「にしても、久しぶりに聞いたわ。そのオカリナ吹くやつ。何百年ぶりやろなぁ。で? 今日はワシになんの用? あ、ワシ、ワシちゃうからそこんところよろしく」


 沈黙が流れるとジズが大きな翼で仰いでくる。


「んもっ! 今の笑うところやで! ワシとワシがかかってるんやて。わからんかな? 今のボケ。なんや自分ら、3人もおってツッコミ1人もおらんの? トリオなら1人は絶対ツッコミに回らなあかんで?」

「ツッコミと言えばエリス」

「ちょっと! わたしを売るなっ!」


 こういう時、妖精王がいると助かるな。さすがは治癒役だ。この空気も治癒してほしい。


「なんや。パツキンの姉ちゃんがツッコミかいな。ほな、次頼むで」


 なんか勝手にお笑い道場みたいなのが始まった。


「布団がふっとんだ」


 しかもクソおもんないやつ。


「布団てなによ! わたしはベッド派よ!」


 こいつのツッコミもクソだった。


 しかし。


「あっはっはっ! そうやって返すやつは初めてやわ。なるほどな。今は布団じゃなくてベッドが主流やもんな。そりゃそうや。ナイスツッコミ」


 ジズが翼でグッジョブを作るとエリスも指でグッジョブする。


「ナイスボケ」


 こいつら気が合うのかな。


「久しぶりに笑わせてもろたわ。んで? オカリナ吹いたんならワシに用事やろ? どないしたん?」

「えっと。今すぐにベヒーモスのところにわたし達を連れて行って欲しいんだけど」


 エリスが代表して言ってくれる。


「なんやアッシーくんになれってことか?」


 アッシーくんてなに?


 ポツーンとしてると、「あちゃー」とジズが言ってくれる。


「時代間違うたな。ごめん、ごめん。とりま了解や。そんなことでええなら連れてったる。背中乗りや」


 快く了承してくれたジズは俺たちに背中を見せて乗れと言ってくれるので、ジズの背中に乗り込む。


 ジズの背中は思っているよりも、ふかふかで乗り心地が良かった。


「ほなベヒーモスんところ行くからな。しっかり捕まっときや」


 いうと、ビューンと飛び立つジズ。


 スピードはかなり出ているが、不思議と安定していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかあっさり呼び出せた。しかもボケ系。 三体の中では、リヴァイアサンがちょっと異色に感じられるほど、二体がねえ/w
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