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第72話 妖精の城

「大丈夫?」


「余裕よ」


 エリスはシエンタさんにやられて、ボロボロであった。


 泉の橋を渡り、木で出来た城門。そこに鎧をまとったエルフが槍を持って立っている。


「久しぶり。アカメーさん」

「やぁリッタ」


 久しぶりの再会のはずなのに、ちょっと前に会った感覚で返事を返すのは、やはりエルフと人間の時間の流れの違うなのだろうか。


「それと……」

「フレデリカ」

「勇者パーティの杖の勇者様だったか。活躍はこちらまで聞こえてきているぞ。ウチのエリスが世話になっている」

「ども」


 軽くフレデリカが返すと、アカメーさんはジト目でエリスを見た。


「それで? どうしてエリスはボロボロなんだ?」

「色々あったのよ」

「? まぁ良い。シエンタが連れて来たってことは、城に用だな。通って良し」


 シエンタさんが顔パスとなり、すんなりと城の中に入ろうとすると「待ちなさいよ!」とエリスが納得いかない声を出した、


「なんでシエンタで顔パス!? わたしでしょうがっ!」


 まぁ、妖精王がいる時点で、王の帰還だから普通は王を主張するよな。シエンタさんはただの里の住民だし。普通に強いけど。


「エリスねぇ……」


 若干馬鹿にした顔をするアカメーさん。ポンっとシエンタさんが肩に手を置いた。


「雑魚」

「クイいぃぃぃ! あんたらはババアだからでしょうが! わたしだってもう少ししたら強くなるもん!」

「「あ?」」


 駄々っ子みたいな声を出して反論するエリスの言葉を、合法ロリババァエルフの2人は聴き逃さなかった。


「やばっ」


 なんて反応しても、もう遅い。


「フレデリカ。ここでも長くなるから、先に行こう」

「ばかだよね。エリスって」

「言葉も出ん」


 エリスはアカメーさんの槍スキルと、シエンタさんの魔法で、ボッコボコにされていた。




 城の中は、木で出来ており、そこらに木が使われている。人間みたいに木を伐採して作るのではなく、魔法を駆使して、複数の大樹の形を変え、階段や部屋を作成している。なので木そのものなので、すごく森の匂いがする。


 城の中にエルフの数は少なく、そのままスタスタと中央の階段を上がって、謁見の間には行っていく。


 謁見の間には木でできた玉座にエリスに良く似た美しい金髪の女性が座っていた。


 エリスと双子の姉妹と言われても信じてしまいそうだが、彼女と圧倒的に違う雰囲気に、エリスと双子というのはあまりに失礼である。


「遠路はるばるようこそお戻りになられました。我らが英雄リッタ様」

「やめてくださいイリスさん」

「いいえ。あなた様はこの里の英雄。リッタ様のお帰りに宴も用意できずに誠に申し訳ありません」


 深々と頭を下げるイリスさんを見て、フレデリカが俺に問う。


「英雄?」

「まぁ、昔に色々とな」

「ふぅん。リッタはここでも英雄なんだね。アシュライ城だけじゃなくて」


 フレデリカが感心したように呟くと、イリスさんが顔を上げてフレデリカを見た。


「そして、ようこそ我がエルフの里へ。わたしは妖精王──」

「妖精王?」


 フレデリカが首を傾げて困惑の声を出す。


「代理」

「あ、代理なんだ」

「妖精王代理のイリス・ティターニア。エリスは私の孫に当たります」

「孫……」


 ほほぉと声を出すだけで、そこまで驚きはしない様子であった。フレデリカもエルフが長寿というのを知っているし、エリスの祖母だけど見た目が若すぎるのにはそこまで疑問を抱いていないのだろう。


「そういえばちょっと質問」

「いかがなさいました? フレデリカ様」

「深く考えてなかったけど、どうしてエリスは妖精王なのに勇者パーティなの?」

「エリスは話しておられませんでしたか?」

「パーティ内で自分達の過去を深く語らない様にしている。みんな過去に色々とあって、自分の方が辛いって優劣をつけないようにするため。ただ、みんなリッタに救われたのは知っている。だから、今までエリスが妖精王なのに勇者パーティに入った理由は聞きにくかった」

「そうですか」


 イリスさんは少し考えて口を開く。


「でしたら、簡潔に答えさせていただきます」


 コホンと、咳払いをするとイリスさんが答えた。


「修行です」


 本当に簡潔に答えた。


 そりゃ、フレデリカが詳細は聞かないようにしているって言ったから、そうなるのだろう。


「そっか」


 それで納得するフレデリカも、詳細までは聞かないみたいだ。ただ今日、たまたま妖精王代理が目の前にいたから軽く質問したかっただけだろう。


「ところでお2人だけでしょうか? エリスの魔力を感じたのですが……」

「ああ……」


 反射的に階段の方を見ると、さっきよりもボロボロのエリスがよろよろと上がってくる。


 そして俺達の前で倒れる。


「じゅー……で、んき……」


 そう呟いて、エリスはこときれた。


「じゅーでんき……。なるほど。異世界人が置いていったとされるじゅーでんきをお求めになられたのですね」


 孫が倒れているのに、無視して話を続けるイリスさんは流石だ。


「そのじゅーでんきってのはどこにあるのでしょう?」

「城の宝物庫に保管してありますよ」

「お借りしてもよろしいでしょうか?」

「ええ。里の英雄であるリッタ様にならお譲りいたします」

「良いのですか?」

「もちろん。リッタ様がよろしければこの城もお譲り致しますよ?」

「いや、それは……」


 戸惑っていると、フレデリカが正面に抱きついてくる。


「ダメ。リッタはわたしとアシュライ城を再建する」


 違う、自分で否定して続けた。


「フィリップ城。住民はフレデリカの子供12人」


 サラッと1人増やしている。


「まぁ。それは楽しみですね」


 流石はイリスさん。子供の戯言のように流している。


「では、イリスさん。すみませんが宝物庫からじゅーでんきをいただきます」

「どうぞ」


 宝物庫は城の地下。俺とフレデリカは倒れているボロ雑巾を横目に地下へと向かう。


「ちょっと! 誰がボロ雑巾よ! 妖精王をフル無視して置いていくな!」


 あれほどのダメージを負って元気にツッコミを入れるなんて、タフな妖精王だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 代理の方が、威厳があって偉い。 やっぱり妖精王は… そういう扱いなのね。 異種族レビュアーズで、見た目が若い300歳と、見た目が老けている50歳とどちらが良いのかが種族間で異なるというのが…
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