第67話 アッパーコンパチブルの特殊能力
「まったく! 酷い目にあったウホよ!」
「本当です!」
『霊亀滅雅弾』が命中したゴリラ2体を、すぐさまエリスの治癒魔法をかけたのでことなきを得た。
『エフュージョン』で消えたローラとフレデリカも空気を読んだのか、すぐに戻って来た。
「あははー。ごめんねー。ルナちゃん。ベヒーモスくん」
笑いながら謝るローラの言葉を「ん?」と拾い上げたのはエリスだった。
「ベヒーモス?」
指差して首を傾げるエリスにローラが頷いた。
「そうそう。ベヒーモスくんだよ」
「神話の魔神がなんでゴリラの姿をしているのよ?」
「あ、それはウホね」
「そんなことはどうでも良い」
「ちょ! 説明させてくれウホよ!」
「そうね。どうでも良いわね」
「シュン……ウホ……」
俺が言うと、エリスもそこまで興味がなかったみたいなことを言うと見事にベヒーモスが拗ねた。実際理由もしょぼいし、知らなくても良いだろう。
それをルナが優しく励ましている。
エリスはその光景を見てなにか言いかけたが、すぐに自分の手で口を覆った。
これ以上命の危険にさらされたくないのだろう。
「それで? そのベヒーモスが何の用?」
フレデリカが聞くと「そうウホ!」と拗ねるのをやめて、ようやく俺達の前に現れた理由を説明する。
「さっきから異界の魔力を感じるウホ。これは大地に大きな影響をもたらすから我はマッハでここに駆け付けたウホね」
「異界の魔力……って、さっきのヴァンパイアのことかな?」
首を傾げながらエリスに尋ねる。
「そうね。ヴァンパイアは異世界の魔物と言われているから、この世界じゃない力を感じても不思議じゃないと思うわ」
「だったら、まぁ……」
さきほど、なんとも悲しいことがあったのでなんと表現したら良いのかわからないが。
「心配をかけたなベヒーモス。もう、その異界の力を持った奴はいないから大丈夫だ」
俺の言葉に勇者パーティが一緒に頷いてくれる。
「なにを言っているウホ」
しかし、予想外にもベヒーモスは俺を指差した。
「異界の力を放っているのはリッタウホ」
「え?」
声が漏れるのと同時に勇者パーティも俺を見る。
「さっきは気が付かなかったウホが、異世界人のリュートの息子なだけあって異界の力を自在に操れるウホねぇ」
「や! ちょっと!」
「大丈夫ウホ。異界の力がリッタなら安心できるウホ。リッタは我のマブダチウホからね」
「待て待て! どういうことだ?」
話しを進めようとするベヒーモスに制止をかけて額に手を置いて考える。
確かに俺は異世界人の息子だ。だけど、俺には異世界の力なんてない。
え? いきなり異世界人の血が騒ぎだしたの? 急に? このなんでもない場面で?
「そういえば」
フレデリカが思い出したように声を出す。
「ヴァンパイアを『アッパーコンパチブル』した時、リッタはまだルナの能力だった」
「ああ。そうだな」
「ヴァンパイアに日記を見した時もルナの能力?」
「そうだな。あの時もルナの能力は継続されていた」
「だったら変。壁を壊した時、リッタはヴァンパイアのスキルを使っていた」
「あ」
フレデリカの言葉にルナが声を上げる。
「確かに変ですね。リッタ様の『アッパーコンパチブル』は1つしか能力を得ることができないはずです」
「それなのにルナちゃんの能力とヴァンパイアの能力を持っているって……変だね」
ローラも声を出す。
「それにリッタ、ヴァンパイアを『アッパーコンパチブル』した時気絶した」
フレデリカのセリフに「ああ」と声を漏らしてみんなに説明する。
「気絶している時、夢を見たんだ。あれは多分、ヴァンパイアの過去の夢。実際にあったことだと思うんだ。なんとなくだけど、そう思った」
「だからリッタは戦場を離れて日記を持って来たんだね」
フレデリカの言葉に頷いて続ける。
「でも、『アッパーコンパチブル』を使って夢を見るなんて初めてだよ」
「もしかしたら……」
エリスが声を出して言ってくる。
「異界の力をアッパーコンパチブルしたからじゃない?」
その声にルナが続いた。
「そういえば、リッタ様は戦闘に応じて私達の誰かをアッパーコンパチブルしますものね。異界の力をアッパーコンパチブルするのは初めてではありませんか?」
「ああ。ルナの言う通り、今回が初めてだ」
「ふむ……」
エリスが考え込むと、ベヒーモスに尋ねた。
「リッタから異界の力をまだ感じるのよね?」
「ウホ。まだ感じるウホよ」
答えをもらったエリスは俺を見た。
「ね、リッタ。まだルナの力は残ってる?」
「ああ。まだある」
「その状態でヴァンパイアのスキルって出せるの?」
「やってみる」
言われて、俺は指をパチンと鳴らすと、氷の剣が宙に現れる。
危ないので、それを壊れて外の景色がよく見える壁に放った。
氷の剣は真っ直ぐ森の方へと向かって行った。
「もしかしたら、リッタのアッパーコンパチブルは『異界の力を持つ者の過去を見て、その者の力を吸収できる』のかもしれないわね」
エリスの考えにローラが首を傾げた。
「吸収? 今までのリッタくんのスキルと何か違うの?」
「吸収ってのただの比喩表現よ。リッタはヴァンパイアのスキルを常に使える上に、私達をアッパーコンパチブルできるってこと」
「うわあ! じゃあ、あたしのスキル使いながらヴァンパイアのスキルも使えるの?」
「そゆこと」
「きゃあ! リッタくん! あたしと闘おうよ!」
言いながらローラが俺を抱きしめてくる。
セリフと行動がどこかおかしい気がするが、柔らかい感触に包まれているので、黙って役得を堪能しておこう。
「この戦闘オタク。リッタ様はお疲れなのです。私が癒すので離れてください」
「ルナちゃん治癒魔法覚えてない脳筋じゃん。脳筋ゴリラじゃん」
「ぷっ……。やっぱりゴリラ」
「おい……。そこらへん白黒つけましょうか、淫乱美少女共」
あ、美少女とは認めるんだ。
ルナとローラとエリスは、ポコスカケンカ劇場をおっ始めた。
「あのぉ。我を無視するのは悲しいウホよ」
指を、ツンツンと合わせて拗ねているベヒーモスに反応してやる。
「あ、ああ。ごめんごめん。騒がせたが、とりあえず、ベヒーモスの心配してることはなさそうだから安心してくれ」
「わかったウホ」
頷くと「あ、そうそう」と言いながらベヒーモスが続ける。
「日記で思い出したウホが……」
そう言って、どこからかボロボロの日記を取り出した。
「あ、それって」
フレデリカが覗き込むように日記を見るので「ああ」と頷いた。
それは、昼にベヒーモスに解読を頼んだ沈没船に残された日記だった。
「これ、解読できたから返すウホね」
「え!?」
渡されて酷く驚いた声が出た。
「時間かかるって言ってなかった?」
「字がほとんどかすれていたから読めなかったウホね」
そりゃそうか。大昔のものだし、海底に沈んでいたわけだからな。
「でも、読める部分で興味深いことが書かれていたウホよ」
「何が書かれていたの?」
フレデリカが聞くと「よくぞ聞いてくれたウホ」と嬉しそうに咳払いをした。
「それには空の魔神『ジズ』のことが書かれていたウホ!」
「ジズ……」
「まぁ詳しくは翻訳を載せてあるから読んでくれウホね」
ふぁーあ、なんて欠伸をしながらベヒーモスは、ノロノロと壊れた壁の方へと歩いて行く。
「夢中で解読してたのと、いきなり感じた異界の力で寝不足ウホねぇ。我は帰って寝るウホよ」
「あ、ああ。悪かったな」
「じゃ。またウホよ」
軽く挨拶をするとベヒーモスh地面を蹴って深い森の中へと消えて行った。
みなさまお世話になっております。すずとです。
今回で4章が終了となります!!
4章では、ローラが更に強くなったり、地の魔神が出てきてリッタの父親のことやら、リッタのスキルのことやら、ちょっと物語が進んだかなぁと思います。
このヴァンパイアの出来事が今後に活かされると思いますので……w
次章もよろしくお願いします。




