第46話 ローラが気にしていること
「おつかれー。リッタくん」
愛らしい笑顔で労いの言葉をかけてくれるローラ。
トレードマークのポニーテールではない。
髪型が変わると雰囲気も変わり、いつものローラって感じがしない。
上目遣いで長い髪を垂らした彼女の姿に、ドキドキしてしまう。
「んー? どうかした?」
その上、覗き込むように聞いてくる姿勢なんて、ドキドキを加速させる。
こちらが動揺しているのに気が付いて、あざとく覗きこんでいるのか、それとも自然とそういう感じになってしまったのか。
「いやー。いつもと髪型が違うから、その、ドキドキしちゃって」
「あ……」
ローラは声を漏らしながら胸元にある自分の髪を指でなぞった。
「あははー。ずっとここで修行してたからヘアゴム切れちゃって。忘れてた」
そうだ。修行だ。
エリスがローラはこの森に籠っていると言っていたな。
今回、ローラがたまたまこの森にいてくれたから良かったけど、彼女がいなかったら相当時間がかかっていただろう。
「ローラがいてくれて助かったよ。ありがとう」
「いえいえー。じゃあお礼と、久しぶりの再会のハグー」
印象の違うローラとハグなんてしたら心臓の音が聞かれて恥ずかしいな。
なんて思うものの、彼女は苦笑いだけ浮かべてハグしてこない。
「って、ハグしたいんだけど……ちょっと……」
ローラが珍しく、もじもじしているので、その姿もまた萌えてしまっている自分がいた。
「ローズマリー伐採したいの?」
ドキドキを隠すように、お嬢様隠語で『大便をしたい』のかを聞くと「違うよっ!」と可愛く否定されてしまった。
「その……。汗くさいから……」
あー。なるほど。
そりゃ森の中に籠ってたのなら、風呂に入ることもできないか。
でも、さっきの戦いでローラと何回か近くにいたが、においなんて気にならなかったな。
彼女へ近づいてみる。特ににおわない。
もっと近づいてみる。
「リッタくん……?」
か細い声を出すローラの声を聞きながら、首筋辺りに鼻を近づける。
「にゃ!? リッタくん!?」
「んー。まぁ……多少は……」
くんかくんかと彼女のにおいを嗅いでみる。
「か、嗅がないでよ! リッタくん!」
「いや、これ、は!?」
「な、なに!?」
「好きなにおいだな」
「はにゃ!?」
「汗くさいというか、ローラの匂いが強いというか……。そもそもローラの匂いが好きだから、好きというか……」
「にゃ、んだよ、それ……」
ローラの匂いを嗅いでいると、良い意味で頭がクラクラとして、もっと嗅ぎたくなる。
「んー。なんだろう……。奥の方に……石鹸の香り? でも、基本はローラのにおい? これは癖になるというか……。うん。このローラのにおいは好きだな」
「ぅぅ……」
珍しい。
ローラが小さくなってしまっている。
あの、天真爛漫で積極的なローラが。
なんか、めっちゃ楽しい。
「だからさ」
言いながら、いつもは俺の左腕にしがみついてくるのを真似して、ローラの左腕にしがみつく。
「こうやっても、全然。むしろ俺からしたらご褒美だな」
素直な自分の思いをストレートに出したのだが、ローラは「うう……」と唸る。
「リッタくん。今日、意地悪だね」
「いつもローラがしてくれることだよ?」
「そうなんだけど……。そうなんだけどさ……。におい関係は乙女的にNGじゃん。恥ずかしいじゃん」
「紳士的にはOKじゃん。ご褒美じゃん」
「もう! 今日のリッタくん意地悪すぎっ!」
そう言って腕を乱暴に解くと、いつもみたいに俺の左腕にしがみついてくる。
「じゃあ、もう気にしないから! 汗くさくてもリッタくんとくっつから!」
「あ、におうんで離れてもらってもいいっすか?」
「ちょっと!! さっきと全然違うじゃん! なんだよ! ちくしょーめっ!」
「あはは! うそうそ! ごめんごめん! いいよ。くっついて」
「もう! 汗キャラはルナちゃんなんだから!」
ルナ……。お前なんか勝手にそんなキャラ付けされてるぞ。あいつこそ無縁なキャラだろうに。ローラの主観どうなってんだよ。
「意地悪するリッタくんには、こうする!」
ローラが左腕を自分の谷間に押し付ける。
「ちょ! ローラさん!?」
「リッタくんの腕であたしの谷間の汗ふいてもらうもんね!」
「や、やめろ! 理性が壊れる。いや、それよりも性癖が捻じ曲がる! 汗もの、汁ものが好きになるだろうがっ! 俺はノーマルなんだ!」
「なんか変な呪文みたいなの唱えて意味わからないから離れないもんね」
「森の中で理性壊れたら収集つかんぞ!」
「こんな綺麗な森で子孫繁栄するなんて……魔物だね♡」
こ、こいつ……やる気だ……。自然の中で子孫を繁栄する気だ。
「ローラ。ほら、森の中だし、魔物に邪魔されたくないだろ?」
「あ、それもそうだね」
納得するとローラが離れてくれる。
良かった。あのままだっら朝まで腰振ってたわ。魔物みたいに。魔物みたいに……。
「ところでさ。リッタくんはどうしてこんなところにいるの?」
「あ、ああ。それは──」
俺から離れて、割と真面目な顔をして聞いてくるので、ノーシュヴァインギルドでのことを簡潔に話した。
「そっか、そっか」
数回頷くと、ニコッと笑顔で言って来る。
「なら。あたしも付き合うよ」
「良いのか? 修業の途中なんじゃ?」
「いいよ、いいよ。修行も大事だけど、リッタくんと2人っきりの方が良いもん」
「ローラが良いなら頼もしいよ。それに、いつでもローラのにおい嗅げるし」
「もうにおいの話しはなしだよ! ばか!」
珍しく怒られてしまったが、ローラはどこか嬉しそうな顔をしていた。




