第45話 ノーシュヴァインギルド
王都『ノーシュヴァイン城下町』のメインストリートにある『ノーシュヴァインギルド』は世界一のギルド。
他の町にもギルドは存在するのだが、ノーシュヴァインギルドとは比べ物にはならないだろう。
ここには世界各地の猛者達が集まる。勇者パーティほどではないが、腕に自信のある者達で溢れており、珍しく若い男の姿もある。
しかし、やはり世界人口で見ても若い男というのは少ないので、10人も見かければ凄い数がいると思って良いだろう。
若い男が少ない世界ってのは、自分で言うのもキモイかもしれないがモテるってのは実感している。実際、ダイセンの町に行った時にも知らないお姉さんから声をかけらたからね。まぁ最終的にはイカ臭いって言われたけど……。
まぁ、とにかくだ。世界的に見れば若い男というだけでモテる。
しかし、ギルド内だと話は別だ。
「リッタか……」
「久しぶりに見たな」
「相変わらず不気味な魔力だ」
「けっけっけっ。嬲り殺してみてぇなぁ……」
こんな感じで、ギルドに来ると女性の猛者達に睨まれて悪目立ちしてしまう。
いや、最後の奴はイカれてるよ。やばい奴だわ。目合わせちゃだめ。
だが、若い男と目が合うと「あ、どうも~」みたいな感じで、頭をペコっとすると「ギルドだと肩身狭いっすよね~」みたいな空気をお互い出してわかりあえるから、ホッとする。
金髪の名前も知らない冒険者とそんな感じでペコリあってから、ギルドの受付嬢へと話しかける。
「こんにちは。マリナ」
茶髪のサイドポニーがトレードマークである、ノーシュヴァインギルド受付嬢『マリナ・ホールネット』へ声をかけると、サイドポニーを揺らしてこちらに視線を向けてくれる。
「あら。こんにちはリッタさん」
ニコッと営業スマイルを見せてくれると「本日はどのようなご用件ですか?」という定型文を頂戴する。
「なにか俺に丁度良いクエストはあるかな?」
こちらもいつもの返しをすると、大体は「討伐系ですか? 採取系ですか? それとも……」なんて返ってくるのがお決まりなんだけど、今日はその限りではなかった。
彼女は苦い顔をして、少し戸惑っている様子であった。
「どうかしたの?」
「あー。いえ……。大したことではないのですが……」
苦笑いを浮かべながら、どう言ったら良いのか悩んでいる様子。
深く聞いた方が良いのか、それとも流した方が良いのか悩んでいると、あちらさんで答えが出たみたいだ。
言いにくそうに口を開いた。
「実は……」
そう言って彼女が見してきたのは古代文字の書かれた紙だった。
「これは?」
「今朝方ギルドの受付に、ポツンと置いてあったんですよ」
「え? ポツンと?」
「そう。ポツンと」
「なにそれ。めっちゃ怖くない?」
「そうなんですよ! めっちゃ怖いですよね! もしかしたら幽霊かもっ! とか」
「や、やめろよ! 幽霊とかそういうの無理だから!」
俺はそういう系統の話が凄く苦手だ。そんな話しをされたら夜にトイレも行けなくなる。
「まぁでも。冷静に考えれば、幽霊は紙に文字なんて書けませんしね」
「そ、そだよ。うん。うん」
激しく頷いて幽霊じゃないと言い聞かせる。
「それでですね。職員に古代文字を読める人はいなくて、どうするー? ってなってたんですよ」
「そんなところに俺が来たってことか」
「そうです、そうです。そんなところに丁度来てくれました。本当にタイミングが良い」
言いながら読めと言わんばかりに俺へとその紙を渡して来る。
反射的に受け取り古代文字を見てみる。
文字は短く簡単なものすぐに解読できた。
「読めます?」
「ああ。ええっと『黒い森で暴れてる。止めてくれ。私は奥にいるから』って書いてあるな」
「なんだ。クエスト依頼だったのですね」
胸を撫でおろすマリナに「おいおい」と声が出てしまう。
「受付嬢。これをクエストとして受理して良いのか?」
「正式なクエストにはなりませんね。正式なクエスト依頼はちゃんとギルドを通してもらわないといけませんので。紙切れポイっじゃ受理できません」
「だったらダメじゃん」
「え? リッタさん行かないんですか?」
「なんで俺が行かにゃならんのだ!」
「だって古代文字読める人ってリッタさんとエリスさんくらいでしょ? エリスさんは勇者パーティですし、ここはリッタさんの出番ですよ」
真面目な顔して普通に言われてしまう。
「これは古代文字読める人が行くべき。天のお土産です。間違いない」
「天のお土産ってなんだよ。天のお導きべきとかって言うだろ。こんな土産いらんわ」
「天のお導きですよん」
ふざけた言い方しやがって。
「面倒だからって俺に押し付けようとしてない?」
聞くと「ぴゅー。ぴゅぴゅ」と下手くそな口笛を吹いている。いや、吹けていないな。
「誤魔化すならせめて口笛吹いてくれませんかね?」
「リッタさん口笛吹けます?」
「余裕」
そう言って「ぴゅーぴゅぴゅぴゅー」と口笛を吹くと、パチパチパチ拍手してくれる。
「わぁ。すごーい」
「でしょー?」
少し照れてしまう。
「だからなに!? 今の時間なに!?」
急に我に返り、なぜ自分が口笛を吹いたのかを問う。
「いきなり吹き出すからびっくりしましたよ」
「お前が吹けって言ったよね!?」
「どうか道中お気をつけて行ってらっしゃい」
「行ってくるよ」
俺はマリナに手を振って、気合いを入れて回れ右をしてギルドを後にする。
黒い森で暴れてるか……。
そんなことを思いながら、もう半回転して受付に戻る。
「今の自然な流れ。ナイス誤魔化し」
「ナイス誤魔化し」
親指で、グッジョブをお互いに見せると、壮大にため息を吐く。
「はぁぁあ。まぁ? 別に行くのは良いんだけど報酬は?」
「ただ働きですね」
「鬼か!」
「ってのは冗談ですよ。ギルドマスターに相談して、見合った報酬を提示してください」
「良いのか? そんなアバウトな金額設定で」
「リッタさんとは信頼関係にありますから。見合った金額を言ってくれるでしょう?」
「まぁ、バカみたいなのは言わないけど」
「なら大丈夫です」
これも常連のなせる技ってわけか。
「交渉成立ってことで」
交渉ってほどのものでもなかったが、クエストを受注して気になることを聞いてみる。
「マリナ。この『黒い森』ってどこか知ってる?」
「ああ。それは『『ワルツワットの森』の別名ですよ。構成樹脂の特性から森全体が暗く見えるので『黒い森』なんて呼ぶ人もいるみたいですね」
「へぇ」
ついついそんな定番な感心な声が漏れてしまった。
「流石ギルド受付嬢。詳しいもんだ」
「えっへん。世界には詳しいのです。古代文字バカとは違いますよ」
「うん。え? ディスった? 今、ナチュラルにディスったよね?」
「場所がわかったところで、今日も元気に行ってらっしゃい」
ペコリと頭を下げてくる。
「会話を強制終了するなよ」
「あ、黒い森の泉に住んでいる魚。めっちゃ美味しいらしいですよ。お土産よろです」
「帰ったら魚パーティじゃ! ぼけえ!」
「いえーい」
そんなノリを終始続けて、俺は『ワルツワットの森』へと足を運んだ。




