第39話 ルナとダイセンの大通り
ルナの胸の中で、時間を忘れ悠久の時を過ごす。
訳にもいかない。
いや、それも随分と素敵な時間なんだろうし、実際離れたくなかった。
だけれども、今夜の目的はルナの胸で過ごすことではなく、ダイセン名物の花火をルナと見ること。
名残惜しいと思い彼女から離れ、すっかり陽の暮れたダイセンの大通りを歩く。
ワイワイ、ガヤガヤと今日の大通りは人で溢れている。
人の流れが出来ており、それに従い流れるように海岸の方へ歩いて行く。
「いらっしゃーい!」
「へい! お待ち!」
川の流れに乗る葉っぱみたいに歩いていると、左右には簡易的に建てられた屋台があり、そこから景気の良いおっちゃんの声が聞こえてくる。
これがダイセンの花火大会の風景。
食べ歩いたり、娯楽屋台で遊んだりして花火大会の会場まで行くのが醍醐味だ。
「リッタ様。なにか食べますか?」
隣を歩くルナが聞いてくる。
ここで、ルナぱいと答えたら多分人気のないところに連れ込まれて食べさしてくれるのだろうな。
あかん。
思考がフレデリカみたいになってしまっている。抑えないと。
「そうだなぁ」
キョロキョロと屋台を見渡して、1つの屋台に目が止まる。
「ルナぱ──」
「?」
「からあげが食べたい」
耐えた。
ギリギリで耐えた。
欲望を口にするところだった。危なかった。セーフ。
とりあえず定番のものを口にすることによって、耐えたよ。
鳥の肉を油で揚げた鳥のからあげの屋台があったので、助かった。まじでありがとうからあげ。
「良いですね。私買って来ますので少々お待ちください」
「あ、ルナ! 一緒に──」
遅かった。
こちらの言葉が言い終わる前にルナは流れに逆らい屋台の方へ向かうので、一気に人混みに紛れてしまった。
しかし、プラチナの髪の女の子というのは珍しいので、人混みの中でも一瞬で見つけることができた。
ルナを見つけることができると、不安そうな顔でキョロキョロと俺を探しているのがわかった。
すみません、すみません。なんて言いながら人混みをかき分けて、ギュッと彼女の手を握る。
「見つけた」
短い時間だけしか離れていなかったのに、ルナの手を握ってあげると迷子になっていた子供が親と再会を果たしかのような安堵した表情を見してくれる。
「リッタ様……。すみません。私、浮かれてしまって……」
別に怒っていないのだが、ルナは父親に謝る娘みたいに、シュンとしているので、握った手を強く握ってやる。
「こうしてればもうはぐれないよな」
ちょっと照れくさいセリフにルナは「すみません」と言いながら手を解く。
疑問に思う前にいつも通りに右腕にしがみついてくる。
「ルナ的にはこうの方が良いのですが……だめですか?」
いつものルナの温もりが、薄手のゆかた越しに伝わって来る。
「こっちの方がしっくりくるね」
「ですです」
「それじゃ、買いに行こう」
「はい」
人混みではぐれないようにということで、右腕にルナがしがみついている。
実際、はぐれたし、これならもうはぐれる心配はないのだけど、1つ難点がある。
「からあげ食べられなくない?」
そうである。
左手に持ったからあげの容器。
良い匂いを出して、俺の食欲をそそり、早く食べたいと思わせてくれる。
しかし、俺の利き腕にはルナがいるので食べられない。
そりゃ手をつかわずに口で食べれないこともないが、はしたない。
「ふふ。では、こうしましょう」
ルナは右腕に抱き着いたまま、容器にある竹串が刺さったからあげを手に取り俺の口元へ持ってきてくれる。
「あ~ん♡」
シラフでやられるのは凄く恥ずかしい。
この前は酒を飲んでてローラがやってくれたが、今はノーアルコール。
今のままでやられるのは心臓が跳ねてしまう。
「あ、あ~ん」
しかし、せっかくルナがやってくれるのに拒むのは申し訳がない。
ドキドキしながらも素直に彼女に食べさしてもらった。
「美味しいですか?」
「あ、うまいやつ」
「よかったです。もう1個食べます?」
「いや……」
普通に美味しいのでルナにも食べてもらいたい。
「ルナ。交換しよ」
「え。あ、はい」
ルナの持ってる竹串と俺のもっている容器を交換して、俺は竹串をからあげにさしてルナの口元に持っていく。
「あ~ん」
「あひっ!? り、リッタ様!?」
「はい。あ~ん♡」
恋人にするみたいな甘い声で言うと、ルナは頬を真っ赤に染めた。
「ひゃ、あん」
変な声を出して食べるルナを見て「ぷっ」と吹き出してしまう。
「ひゃ、あんってなんだよ」
ごくりと食べ終えたルナが唇を尖らせる。
「だ、だって、だって、いきなりリッタ様が、あ~んなんてするから」
拗ねた様子で言われてしまう。
「ルナだってやったろ?」
「や……その……。えへへ。やってもらうのって恥ずかしいです」
「腕に抱き着くよりは恥ずかしくないんじゃない?」
今も腕に抱き着いてきてくれているが、俺的にはそっちの方が恥ずかしいと思うのだが。感性の違いかな。
「リッタ様に抱き着くのはもう慣れました。最初は凄く恥ずかしかったのですが……」
予想外の言葉に「あ」と声を漏らしてしまう。
「最初は恥ずかしかったんだ」
「そりゃ……!」
ルナが視線を外す。
「私はそういうことするタイプじゃないですから」
「そうだよなぁ。ルナはそういうことするタイプじゃないもんな。じゃあ、なんでそんなに引っ付いてくれるんだ?」
ルナが軽く俺を睨んでくる。
「知ってるでしょ!」
「ええ? わかんない。教えてくれよ」
本当は知ってるけど、意地悪で聞いてやる。
ルナは「うう……」と唸ると、ギュッと掴んだ腕に力を入れる。
「あでっ!」
それがものすごい力で、普通に痛い。
「いだい! いだい! ちょ! ルナさん!? 痛いです!」
「意地悪するリッタ様にはこうです!」
ゴギッと鳴っちゃいけないような音が鳴った気がした。
「ちょ!? ゴギッて言ったよ? だめなやつだよ! 一旦離さない!?」
「離しません! ルナがリッタ様を離すことは絶対にありえません!」
「精神論的には離れないよ! ルナと離れないってのは俺もそう思ってる! でもさ! 今は物理的に離れてくれない! えぐい音がしたからさ!」
「物理的にも離しません♡」
「いでええええええ!」
俺の右腕はルナと一体となり、花火会場へと向かったのであった。




