第27話 勇者パーティと強力な魔物
海の上を駆け抜ける気持ち良さはまるでイルカにでも乗ったかのようである。
客船ではありえないスピードを出す小型の船。
甲板の柵に頬杖ついて、かっこつけてながら海の景色を眺める。
もうダイセンの町が随分と遠くなった距離まで来たって言うのに、どこまでも水平線が続いて終わりがないように思えるほどの広さ。
目を細め、そんな広大な海へ。
「オロロロロロロ」
俺のリバースを受け入れてもらう。
「大丈夫?」
背中をさすってくれるフレデリカの手が気持ちよくて。
「オヴェエエエエエ」
景気よく出る。朝食が全て出る。
「三半規管弱いんだね」
「ぅえ……。なんでフレデえええええろろろろろ。は平気ろろろろろろ!」
「三半規管最強」
この子絶対酒も強いやつやん。
ちがうちがう。そもそもよ。なんちゅうスピードで海の上を爆走してんだよって話しだ。
客船のスピードの10倍は出てる。間違いなくそれくらいのスピードは出てる。
「大丈夫かい? リッタさん」
船に乗り込む前に改めて自己紹介をしたルシオ・オールコックさんが舵取りをしながら聞いてくる。
「すまねぇな。風魔法が上手くコントロールできねぇから、スピードを抑えたりはできねぇんだ」
まぁ、俺の場合は二日酔いで吐き慣れてるから良いんだけど。
今だけは、二日酔いの経験が役に立ったと思える。
「風魔法?」
フレデリカはルシオさんの放った言葉に興味を示し、舵取りのところまで、トコトコと向かって行った。
「ええ。船ってのは基本的に風魔法を使って動かしてるんです」
「へぇ。そうなんだ」
「あっしは魔法は苦手でしてね。でも、あっしの『ウェンティ』の魔法でもこれくらいのスピードが出てくれますので、ありがたい技術ですぜ」
「『プロヴェクタ』級を唱えたらどうなるの?」
「そんな魔法が使えるのは王宮の賢者さんくらいじゃ? まぁ使えた人がいたとして、実際に使ったら船事木っ端みじんじゃないですかね」
「そう。フレデリカ運転してみたい」
「フレデリカさんも風魔法が使えるんですか。勇者パーティってくらいですから『メディーム』級は使えるんですかね? すみませんが中級風魔法も使うと船が壊れるので初級魔法でお願いしまう」
「り」
フレデリカは舵取りに向かって『ウェンティ』の魔法を唱えた。
瞬間、海の景色が消えた気がした。
しかし、それは船がいきなり高速で移動しているからであった。
「すげー! フレデリカさんすごいっす! こんなスピードはじめてですぜ」
「速い速い。いえー」
「もしかして、もっと出せるんじゃないですかい?」
「うん。えい」
更に船が加速した。
「ふれでえええええええ! とめええええええ!」
俺は嘔吐物を吐きながら2人の暴走族を止めようとしたが、無意味だった。
甲板に仰向けに寝転がっているとよくもまぁ空の景色が堪能できる。
先程まで清々しい程の青だったのに雲行きが怪しくなってきている。
まるで俺の顔色と同じような怪しい色。
「大丈夫?」
ふと、空の景色から一転、サファイヤの髪の美少女が俺の視界全てを覆った。
呆れるくらいに整った顔立ちは神の最高傑作と言わんばかり。
「う、す……」
そんな神の最高傑作を前に、そんな薄い反応しかできないのは許して欲しい。
もう、胃の中になにもないくらいに吐いたから……。反応も薄くなる。
「ごめんね……。ちょっと調子に乗り過ぎた」
「フレデリカが楽しそうで……なにより……」
「つ、次はちゃんとコントロールして運転するよ」
「次があるのかね……」
はぁとため息吐いて起き上がると、とっくにダイセンの町も見えなくなり、東西南北海に囲まれた場所になっていた。
「フレデリカさんのおかげで強力な魔物が出るポイントに着きましたぜ」
時短にはなったみたいなら、俺の嘔吐など安いもの。
時間は大切だからね。
「雲行きが怪しいな」
「多分、その魔物の魔力の影響が雲に出てる」
フレデリカが杖を出して構えている。
「強力な魔物と言ってもリッタとフレデリカだけでイケると思った。でも、簡単じゃないかも」
「なるほど」
彼女がすぐに戦闘態勢に入るということは、相当に強い魔物なのだろう。
そうなると、いつでも戦闘を離脱できる準備はしておいた方が良いか。
「フレデリカ」
「うん」
彼女は俺と視線を合わせてくれる。その淡褐色の瞳を見つめた。
『アッパーコンパチブル』
スキルを使用して俺は杖の勇者の能力を得た。
「ルシオさん。もしかすると相手が強すぎて逃げる選択をするかもしれません。その時はフレデリカでも俺でも良いから掴まってくださいね」
「へ、へい。わかりました」
こちらの緊張感が伝わったみたいで素直に返事をしてくれたところで俺は杖を生成する。
手から光の粒子が集まって来ると、瞬間的にフレデリカと同じ杖が現れる。
彼女の杖。滅亡都市アシュライの秘宝である賢者の杖。それのコピーだが、莫大な魔力の増加を感じることができる。
「リッタ!」
「ああ!」
フレデリカが俺の名前を叫ぶ。
どうやら強力な魔物のお出ましのようだ。
それを表すかのように、辺りが暗くなる。
怪しかった雲たちが一気に集結して黒くなっていく。
おかしなことに、一部だけ暗い。遠くの空は青く見える。
黒い空からは雷が鳴り響き、ザァァとスコールの様な雨が降り出した。
一筋の光が放たれたかと思うと。
『フュシュアアアアアアアアアア!』
海底から顔を出して来た巨大な蛇のような魔物は、海面を割る勢いで登場したため、大きな波が小型の船を襲う。
揺られ、揺られてなんとか船は耐えている。
「あ、ああ……」
甲板にいるルシオさんは耐えられなかったみたいで、その場でペタンとヘタレこんだ。
「な、なんだ!? あ、あ、あの化け物!?」
船乗りで腕っぷしに自信があるだけはあるな。叫ぶことができるだけで冒険者としてやっていけるだろう。普通の冒険者でも叫ぶこともできずにただただ震えるしかできないと思う。
「リヴァイアサン」
海の魔神と称されるリヴァイアサン。
超巨大な蛇の様な外形。その鱗に傷をつけることができないと言われている。
そしてドラゴンの顔を持ち、海の中で火の息を吐くとされる。
そして、鋭い牙のどんなものでも貫くと言われている。
空、地、海にはそれぞれの頂点に君臨する魔神が存在する。
リヴァイアサンは海の頂点に立つ魔神。海に外敵はいないとされる食物連鎖の頂点。
魔王も手なずけることができない。
「フレデリカ!」
「全力で行く!」
俺とフレデリカは杖を最初から全魔力を解放する。
『フュシュアアアアアアアアアア!』
リヴァイアサンもこちらの膨大な魔力に気が付いたのか、戦闘態勢に入ったみたいだ。
「ふ、ふふ、ふたりとも、あれと、た、たたかっってのか!?」
膨大な魔力を解放しようとしているので、船の周りから莫大な風が吹き荒れる。
俺とフレデリカ、リヴァイアサンの魔力が混ざり合い、海は大荒れになっている。
「いくぞフレデリカ!」
「いくよリッタ!」
俺達は魔法を唱えた。
「「『エフュージョン』」」
瞬間、俺達はリヴァイアサンの前から消えた。
うん。普通に逃げるよね。あんな化け物出て来たら。




