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彩王主  作者: 紅緋
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彩王主02 旅人の正体sideシアン

「来たぞっ!!」


男たちの怒声と火薬のにおい。

外からの襲撃に備えて頑丈に作られているはずの関門はしかし、あまりにも容易く突破され、壊れた門から盗賊たちが次々と侵入してくる。我先にと傭兵団に襲い掛かり、激しい剣のぶつかり合いが始まった。 炎に照らされた広場は踏み荒らされ、土埃が煙のように舞いあがり辺りを霞の中に包み込む。

一瞬で戦場と化した広場。闇夜に、鉄の高く澄んだ音が響きわたる。

 俺たちがいる場所は傭兵団を挟んで、防衛線の後方。ここまで来るにはもうしばらく時間がかかるだろう。

自分も早く参戦したいのか、先ほどからベニの落ち着きがない。きらきらと輝くその表情は、まるで玩具をみつけた子供のよう。こいつの脳みそは絶対に筋肉でできているに違いない。


『光陰のバーミリオン』

その通り名が示すのは、襲撃から撤収までの所要時間の短さ。盗賊団としては比較的少人数の集団で、団員は十数人程度しかいないらしい。それは、人が『集まらない』からではなく、『厳選する』からだと聞いたことがある。

 少数精鋭を誇り、統率のとれた動きと、頭目バーミリオンの的確な判断が懸賞金の値をつり上げたそうだ。広い範囲で活動するバーミリオンの襲撃情報が入ると、その首を狙って傭兵を稼業とする者たちもまた動く。値が上がれば上がるだけ、その首を望むものも多くなる。しかし、今もなお生き残っている事こそが、やつらの強さを証明している。


「ここで抑えろ!町中まで入れるんじゃねぇぞ!!」

自警団の叫びも空しく、防衛線はじりじりと後退している。

先ほど俺たちに突っかかってきた男も、相手にいい様に翻弄され、焦りを隠しきれていない。あれで傭兵を名乗るとは何ともおこがましいが。―――いいざまだな。


「さて、そろそろ動くか」

 アヤトから放たれた言葉に頷きを返し、周囲に被害が及ばないように結界を張る。普通は外からの攻撃を防ぐ、守のために使われる結界だが、俺の張る結界は内に封じるためのもの。力の及ぶ範囲を限定できるので、こういった街中での戦闘時には役に立つ。

関門から正面広場、そして大通りまでの一帯を結界の範囲内に収め、合図を出す。

「シアン、キイロ、まずは軽く足止めするよ」


アヤトの口が音を紡ぎだす。高く、低く、鮮やかに。女にしては低めだが、男にしては少し高めのアヤトの声。一定の拍子で、旋律をなぞる。 徐々に『力』を帯び始めたそれに、声が重なる。普段とは違った低いキイロの声。アヤトの声と溶け合い、絡まりあって。


二重詠唱。


さらに重ねるように俺も同じ旋律を紡ぐ。


空気が変わり、徐々に練られていく力の大きさを感じ取ってか、周囲にいた黄と青に属する(しょく)が、騒ぎ始めた。そこまで喚きたてなくても加減ぐらい心得ている。そのための結界だ。十分だろう。



声は混ざりあって。

 アヤトのなぞる旋律に溶け込むように。 三人の声が一つの音となる。


『汝、《黄》に連なる者。大地なり。』

 地面が大きく揺れ、盗賊団を囲むように急激にひび割れていく。

『汝、《青》に連なる者。水なり。』

 引き裂かれた大地から、勢いよく水が溢れだす。

『対する者へ、束の間の拘束を与えん。』

 逃げる間などなく。まるでそれは流砂の様に、盗賊団と傭兵の双方を飲み込んでいく。

 無事だったのは俺達の近くにいた数人だけ。


「よし、完璧。で、どいつがバーミリオンだと思う?」

殺さぬように、かろうじて首から上だけは埋めないでおいたので、地面には生首が散乱しているように見える。まるで殺戮現場のような有様だが、アヤトはまったく気にしていない。何故だかとても楽しげに、転がっている生首たちを眺めている。

まぁ、アヤトが楽しければ他は別にどうでもいいので俺としては言うことはない。ベニもキイロも同じ考えのようで、手出しせずに見守っている。

「全員を縛って連れていくってのは面倒くさいよな。さて、どうしたものか」

ああでもない、こうでもないとアヤトが一人で呟いていたのをベニが遮った。

「俺が人数を減らしてやろう。」

今夜、やつの出番は無いに等しい。おそらく暇だったのだろう。

「何人かまとめて『縛』をはずしてだな、命を賭けた真剣勝負。もちろん俺に勝てればそのまま逃げてよし。生きるか死ぬかを己の手で決めさせてやろうじゃないか」

 事もなげに言い放った。 

やはりこいつの脳みそは筋肉で決定だな。

「却下。そんなことしたら誰も残らないだろ。折角生け捕りしたのに」


全くもって正論だ。


緊張感の欠片もない会話が振り出しに戻ったところで、呆然と立ち尽くしていた傭兵が正気を取り戻したかのように一斉に動いた。

 大地に呑まれなかったのは俺たちよりも後方にいた5人。うち3人は手にした短剣で残りの2人を捕らえていた。


「動くな」

 首に突き付けられている刃が薄く皮膚を切り裂いたようだ。赤い血がみるみるうちに滲みだし、流れるように地面に滴り落ちる。

「動くな。少しでも妙な真似してみろ。殺すぞ」

「その人達は我々の知り合いではありませんが」

キイロが 暗に人質としての価値はないと宣言する。

「どうかな。少しは役に立つかもしれないぜ?ほら、あいつらにお前が誰なのか教えてやれよ」

「ひぃっ!たっ助けてくれ!頼む!見捨てないでくれ。私はこの町の町長だ!」

「……なんで町長がこんなところにいるんだ」


全くもって同感だ。


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