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アラブの王と王妃  作者: 雪見だいふく
28/30

伝えたい感情

冒頭は少しホラー気味です。

後半は甘っ甘です。













ふと目を覚ますと、黒い影がアリソンを見下ろし、首には力を込められていた。


「いやあ!」


必死に叫び声を出すと、アリシアが駆け込む。


「アリソン様!」


アリシアの呼び声とともに、人影は寝室の窓から出ていった。

アリシアが急いで衛兵を呼び、不審者を捕らえるように指示を出す。


「アリソン様、ご無事ですか!?」


慌ててアリシアはアリソンの身体を調べ、首を凝視する。

首には手跡が強く残っていた。


アリシアが他の侍女に氷を持ってくるように指示すると、寝室に陛下が入ってきた。


「王妃」


息を乱しながらベッドの側までやって来ると、王妃の様子をアリシアに尋ねる。

そして、首筋を見ると、怒りに肩を震わせ一緒に入ってきたニケに色々指示を出した。

ニケはすぐさま行動し、廊下は人の足音で騒がしかった。


アリシアは震えるアリソンに追い討ちをかけるように、陛下に物を申した。


「陛下、今夜はアリソン様と一緒にベッドに入ってくれませんか」

「…!アリシア!?」


アリソンは驚きを隠せずに、アリシアを見上げる。

陛下も思いもよらない物言いに、目を開いていた。


「お二人が一緒のベッドに入るのが初めてなのは存じております。しかし、今は悠長なことは言ってられません。私も警護に当たるので、アリソン様をお願い致します」


陛下は深く頭を下げるアリシアを見つめ、次にアリソンを見下ろす。

アリソンはどくどくと早まる胸を押さえ、聞こえないようにするのに手一杯だった。


「分かった。王妃は俺の寝室に運ぶ」


そう言った後に、屈んでアリソンを抱き上げた。

背中と膝裏を支える手に、先程の恐怖はなくなり、恥ずかしさだけに包まれる。

数人の衛兵を連れて、陛下の私室まで運ばれると「ここで良い」と衛兵に言い、寝室に運ばれる。


ベッドの上に降ろされると、氷を首に当てられ冷たい感触に小さく声を漏らすと、陛下はアリソンを優しく抱き締めた。


「すまない。君をこんな目に合わせて」


心なしか陛下の声が少し震えていた。

アリソンは陛下の腕の中に安心して、徐々に涙をこぼす。


「ひっく、いえ…、ありがとう、ござい、ます…」

「……怖かっただろう」


陛下の手が何度も、アリソンの頭を優しく撫でてくれる。

アリソンは広く温かい胸にすり寄り、心地よい安心感に包まれていた。





しばらく陛下の手に頭を撫でられていたアリソンは落ち着き、涙もおさまったが、顔を上げることが出来なかった。


(……恥ずかしい)


まだ優しい手つきで撫でてくれる陛下に、アリソンは腕の中で思いきって声をあげる。


「へ、陛下」

「どうした?」

「あ、の…、もう大丈夫です…」


頭を撫でていた手は止まり、ゆっくりと身体を離される。

アリソンは顔を上げられなかったが、陛下も強引に上向かせようとはしなかった。


「今夜はここで寝るといい。俺も一緒に寝るから」

「あ…、私は、ソファーでも…」

「バカ言うな。妻をソファーに寝かせる男がいるか」


ソファーでもアリソンのサイズよりは大きいが、ベッドはその倍大きい。

それに、以前一度は一緒に寝たことがあるとはいえ、不可抗力だったし寝る前はあまり覚えていない。

しかも、陛下の寝室に入るのは初めてで、今更ながらアリソンは緊張する。



アリソンが頭の中でぐるぐる考えている際に、陛下はベッドの右側に移動し、アリソンに「おいで」と手を引いた。


「安心しろ。ベッドの上では君に触れないようにするから」


アリソンをベッドの左側に寝かせ、陛下は右側に寝転ぶ。

二人の間の距離は一人分ぐらいで、冷んやりとしたシーツに包まれ、先程抱き締めてくれた温もりは遠い。

アリソンは寂しく思い、思わず手を伸ばしかけるが、陛下がこちらを見て「おやすみ」と言うと「おやすみなさい」としか返せなかった。
















一人分空けた隣から可愛らしい寝息が聞こえてくると、ラビは顔を左に向ける。

アリソンは身体も顔もこちらに向け、愛らしい寝顔が近くにあった。

白い寝巻きに、ふわふわで緩やかな髪がアリソンを包んでおり、思わず触れたくなるのをぐっと我慢した。

先程言った言葉をもう破ってしまいそうになり、ラビはアリソンに背を向ける。


アリソンを怖がらせたくない。

先程抱き締めた身体は震えており預けてくれたが、それは完全な信頼じゃない。

昼間も強引に迫ってしまい、怯えさせた。


これほど女性に心が揺さぶられ、どうすればいいのか分からないなんて初めてで、ニケにはからかわれてばかりだ。


ラビは物憂げなため息を吐き目をつむるが、隣から小さな嗚咽が聞こえた。

反射的にアリソンを見ると、閉じた目尻から涙が流れていた。


「っく…、ぅ…っく」


ラビは何も考えずにアリソンの側に移動し、身体を抱き寄せていた。

夢を見ているのだろう。


震える背中を撫で、胸に引き寄せると安心したのか再び寝息が聞こえてくる。

ラビはほっとしたのもつかの間、柔らかい温もりと甘い香りに理性が崩れそうになり、慌てて身体を離すが、アリソンの手がラビの服をきゅっと掴んでいた。


「……」


どうしたらいいんだ――――…。


このままでは寝れない。いや、同じベッドの時点で寝れないがこれでは余計寝れなくなった。


そうっとアリソンを覗き込むと、安心しきった寝顔があった。

少し顔に髪が垂れていたので直すと、アリソンは「ん」と声を漏らし、にこおっと満面に笑みを浮かべた。

ラビは硬直し、ひたすらアリソンの顔を凝視する。


今まで見たことのない笑顔に、ラビは惹き込まれてしまった。

すぐに寝顔に戻ったが、先程の笑みは一生忘れないだろう。

例え、起きている間に見せてくれない笑顔だとしても、今のアリソンの笑顔だけでラビは幸福な気持ちになれた。


約束した言葉よりもアリソンに触れたい気持ちの方が勝ち、ラビはぎしっとベッドの軋む音をたて、身体を起こす。


「許してくれ…、アリソン」


愛しいあまり、触れずにはいられなかった。



ラビはアリソンの額に口づけを落とし、(まぶた)、頬を伝い、甘く柔らかい唇を味わう。

桜色の唇をこじ開けたい衝動にかられるが、軽く、けれど押し当てるように唇を当てた。


数秒が長く感じ、名残惜しげに唇を離すと、溢れる感情を寝ているアリソンにぶつける。


「好きだ、アリソン」


頬を優しく撫で、髪の香りを吸い込むように息を吸うと、ラビはアリソンを抱き締めながら寝転んだ。


ふいにアリソンの首筋の跡が目に入り、ラビは犯人の目星をつけて、明日にでも動こうと決心する。


だが、今だけはこの至福の時間を味わいたい。


ラビはアリソンの寝顔を見つめながら、いつの間にか寝落ちしていった。










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