↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラブの王と王妃  作者: 雪見だいふく
27/30

想いをこじらせて

途中投稿になってしまいました…。

少し書き足しましたので、是非読んでください。




翌日の昼過ぎに仕事が一段落したので、アリソンはアリシアを共にして図書館に向かっていた。


重厚な扉を開け室内を見渡すが、誰もいない。

アリソンは無意識にほっとする。


「少しここで寝るね」

「では毛布などお持ち致します」

「ありがとう」


アリシアは言うと、図書館を出ていく。


アリソンは大きな窓際の縁に腰掛け、外を眺める。

大好きな中庭が見え、草花が風で揺れていた。

その優しい風景にアリソンは笑みを浮かべる。

数分ほどぼうっと見つめていたが、やがて寝落ちしてしまっていた。








「様―――…王妃様」


「…ん―――…」


低くはないが男性の心地良い声が耳元で聞こえる。

アリソンが身動(みじろ)ぐと、くすっと笑う声が聞こえた。


「無防備ですね。襲われても文句は言えませんよ」


男性が言った後、頬に息遣いを感じる。

くすぐったさに少し瞼を開くと、鼻先が触れるほどの距離にハーベスの黒目がアリソンを見つめていた。


「きゃっ…!」

「おっと」


アリソンが寝落ちしていた縁は狭かったので、ぐらっと身体が傾いだ時、ハーベスの腕が支えてくれた。


「大丈夫ですか?」

「は、はい」


ハーベスの腕に支えられながら、ゆっくりと身体を起こす。


「すみません。驚かしてしまいましたね」


ふわっと微笑まれアリソンは真っ赤になる。

そしてすぐに自分の現状を確認した。

王妃が図書館の窓際で寝こけ、臣下に起こされるなんて羞恥以外になかった。

アリソンは慌てて立ち上がり、ハーベスに謝る。


「ご、ごめんなさい!ハーベス様に起こしてもらうなんて…!今度は気を付けます……」


頭を下げて謝るアリソンに、ハーベスは目を見開き慌てて返す。


「頭をお上げください、王妃様。気にしてませんから。むしろ特権ですよ。王妃様の寝顔を拝見できて」


にっこり笑うハーベスにアリソンは再び真っ赤になり、顔を俯かせる以外になかった。



そんな二人の様子を扉の隙間から見ていた人がいた―――――……。













あれからすぐに執務室に戻り、書類を片付けているとアリシアが戻ってくる。


「すみません、アリシア様。陛下がお呼びです」

「陛下が?」


何だろう、公務かな―――と思いながら陛下の執務室に訪れる。


「陛下、私です」

「入れ」


ハーベスとは違った低い声が中から聞こえた。

緊張感を持って扉を開けると、ニケと目が合い、少しアリソンに困ったような表情を見せて出ていった。

アリソンが「?」と思っていると、陛下が「こちらに来い」と命令する。


執務机を挟んで対面すると、陛下の顔が上げられる。

力強い眼差しにドキッとし、一瞬反らしそうになるが見つめ返す。


「図書館で何をしていた」

「…!」


アリソンは目を開く。

そんな様子を見た陛下は、眉間にシワを寄せて「本当なんだな」と呟く。


「え」

「先日から王妃とハーベスが一緒にいるのを見たとの報告があった。二人で何の話をしているんだ?あと、命を狙われているんだろう」


返答に困りアリソンが俯くと、陛下は立ち上がって執務机を回り、アリソンの側まで来る。

アリソンはたじろぎ一歩後退するが、陛下が手首を掴む。


「逃げるな。俺の目を見ろ」


アリソンはビクッとして恐れながらも陛下を見上げる。


「何故黙っていた?」


射ぬくような視線が怖く、アリソンは解放されることを望み正直に言う。


「申し訳ありません。私一人で解決しようと思ったのです…。陛下はお忙しいのでお手を煩わせたくなくて…」

「いくら忙しくても妻が命を狙われているならば気にするだろう!」


陛下が声を荒げると、アリソンはビクッとする。

陛下はアリソンの怯えた表情を見てはっとし、気まずそうに顔を背けるが手首は掴まれたままだった。


「っ……、誰が言っていたんだ」

「え」

「君を狙っているやつだ。顔は見ていないのか?」


ここでウルスラと言えば、おそらくウルスラの立場は悪くなる。

ウルスラの父親の大臣だって解雇されるかもしれない。

(おとし)めることはアリソンは望んでいなかった。

しかし、ここで言わなければまた陛下に隠し事をすることになる。

アリソンがすぐに返答せず悩み始めたので、勘のいい陛下は気づいたようだった。


「ウルスラか」

「…!違います!」

「断言できるのか?」

「っ……」


図星なアリソンは一言も返せなかった。

陛下はアリソンを離し、扉へ向かう。


「お、お待ちください!どちらへ行かれるのですか」

「あの女のところだ」

「ダメです!」


アリソンは扉の前に立ち、陛下の行き先を塞いだ。


「行ってはダメです、ウルスラ様のお父様は大臣です!異国の王妃の言葉では皆が納得しません」

「王の俺が言えば、そんなものどうとでもなる。どくんだ」

「どきません」

「……アリソン」


ふいに名前を呼ばれドキッとする。


「何故かばう?」

「…かばっては……」

「……まあいい。もうひとつ、ハーベスと図書館で二人きりで窓際にいただろう」

「あれは…誤解です。私が寝落ちしてしまってハーベス様が起こしてくれたのです」

「…信じられんな」


陛下は両手を扉に付き、アリソンを逃げられなくした。

間近で見下ろされる体勢になり、アリソンは怯える。


「なんせ手を取り合っていたからな。逢い引きでもしていたんじゃないのか」

「なっ…!そんなこと…」

「ない?だが紛れもない事実だ。この目で見たんだから。俺の不貞は疑うのに自分はいいのか」


陛下の物言いにアリソンは悲しくなり、目に涙を溜める。

陛下はたじろぎ、アリソンに手を伸ばすが払われた。


「いいです、もう。私を疑うのならばハーベス様のところへ行きます!なによ、陛下なんか!ハーベス様の方がよっぽど素敵だわ」


アリソンは怒って陛下から逃れようとするが、陛下の両腕がアリソンの身体に巻き付く。


「いや、離して」

「二度と他の男の名を口にするな。その口を塞ぐぞ」


身体が(きし)む程の強さで抱き締められ、低い声が脅すようにアリソンを縛り付ける。


「や…、痛い」


アリソンは必死に陛下の腕の中で暴れるが、大人の男性の力には勝てない。

ますます強く抱き込められ、隙のない密着に羞恥と苦しさで涙をこぼす。












「離して…」


アリソンがか細い小さな声で懇願するが、ラビは離さなかった。

このまま自分の腕の中だけに閉じ込められたら…。

そんな黒い欲望に自分が醜い嫉妬をしているのを自覚した。


柔らかい女の身体。甘い香り。

アリソンを妻に迎えてから女性と(ねや)を共にしていないラビは、自分の中の欲が出てくるのを感じる。

このままアリソンを自分のものにできたら――――…。


しかし、欲に従ってアリソンと契りを交わせば二度と振り向いてくれないだろう。


だが…、他の男の名を呼ぶだけで嫉妬する。

自分以外の(やつ)を写したくない。

誰にも渡したくない――――――……!













「陛下……」


アリソンが陛下の肩や胸を押すが、びくともしなかった。

離してほしいのに広い胸は温かくて、徐々に抵抗する力が弱まっていく。

アリソンの心情を読んだのか陛下はアリソンの肩に顔を埋めてきた。

息遣いを耳元に感じアリソンが身体を震わせると、陛下はアリソンの髪を覆っている(チャドル)を取る。

はらっと長い茶髪がさらされ、アリソンが驚いていると首筋に唇を当てられる感触がした。


「…!や…」


後頭部と髪を固定され逃れることが出来ないアリソンは、陛下の服を掴むことしかできなかった。


その間も陛下の唇が首筋を這う。

ぞくっと身体が震え、アリソンは抵抗したいのに力が弱まっていくのを感じた。


「やだ、いや…」

「拒むな、アリソン」


陛下のいつもと違う低く甘い声音にアリソンは震える。


「…甘いな」


極上のものを口にするかのように陛下は、アリソンを抱き締めたまま肌を堪能する。


怖いだけではない震えにアリソンは戸惑い、陛下の唇を受け入れつつあった。

だけど……、ダメ。


まだその覚悟がないアリソンは、陛下の行為に怖さが勝つ。


「っ……、やめて…」


小さな声だったが、陛下を止めるには適応だったらしくアリソンの涙目を見つめ、すっと離れる。

支えが急になくなり、扉を背にアリソンは床にぺたんと座る。


どくどくと早まる胸を押さえ、逃げたいのに腰が抜けて立てないアリソンは、陛下の広い背中を見上げることしか出来なかった。


「……ニケ」


陛下の低い声が響くと、扉の外から「はい」と返事が聞こえた。


「王妃を部屋に送ってくれ」

「承知致しました」


扉が開くとニケが入ってきて、アリソンの片手と腰を支え立たせてくれた。

広い背中はこちらを見ずに、アリソンを送った。






ニケに部屋まで送ってきてもらい、「ありがとう」と言おうとしたら「王妃様」とニケが言う。


「陛下は王妃様を大切に想ってらっしゃいます。時には強引ですが、彼なりの愛情表現なのです。どうかもう少し歩み寄って下さるようお願い申し上げます」


静かに淡々と話すニケに、アリソンは反論したかったが、ニケの真剣な眼差しに「はい」と頷くことしか出来なかった。


部屋に入ったアリソンはベッドに横になって、ニケに言われたことを思い出す。



〝陛下は王妃様を大切に想ってらっしゃいます〟


アリソンはこれまでの陛下の行動を思い出してみる。

確かに、強引ですぐに怒るけれど、アリソンが助けてほしい時には必ず助けてくれる。


それに、あの夜二人で庭園を散歩した思い出は一生忘れないだろう。

エスコートされた時の陛下のたくましい腕、凛々しい横顔、気遣うように合わせてくれた歩幅…。


何度も自分に勘違いをしてはダメだと言い聞かせてきた。

その度に、陛下はアリソン以外の女性と一緒にいたから、望みはないのだと。

それならいっそのこと、何も望まずに妻をやろうと。


だから怖かった。

心を見せて、隠せない気持ちが相手に分かるのを防ぐために、冷たい接し方しか出来なかった。

仮面を被るしか出来なかった。


ニケの言ったことを素直に受け止めたい。

でも、陛下の気持ちが分からない。

聞きたいけど、怖くて聞けなかった。


臆病なアリソンは、結局行動に移せず、ベッドの上で丸くなってそのまま堕ちていった。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。