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0.プロローグ
「はぁ…………はぁ…………っ!」
暗闇に沈んだ森の中を、一人の少女が懸命に走っていた。
深紅のドレスは足元から破け、ヒールは片方が脱げてしまっていた。
薄い金の髪は汗と泥で汚れ、白い肌には痛々しい切り傷が刻まれていた。
彼女は悪役令嬢だった。このとき、少女は世界のすべてに嫌われていた。
「はぁ……くっ、ん……ぅぐ……は……」
荒い呼吸に嗚咽が混じり、頬に熱を帯びた液体が伝う。
誰も彼女のことを愛さない。
愛する婚約者に断罪され、人々には憎しみの目線を向けられ。
この肉体は刻一刻と、魔物への変貌を遂げようとしていて。
「アドニス、さま……」
公爵令嬢クローディア・ロートシルトは、自分の死に場所を探して走り続けた。