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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第二章 分水嶺 

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彼岸の別れ (画像あり)

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい

最後の幽鬼を倒した瞬間、

茜達の身体に一気に疲労が襲いかかる。

戦闘の激しさと長時間にわたる戦いで、彼女たちの体力は限界に近づいていた。

しかし、刀祢と呼ばれた男が立ち去ってから、幽鬼の出現はぴたりと止まった。

それでも、数が多すぎたため、みんなが完全に安堵できるわけではなかった。


茜は足を引きずりながらも、急いで静流婆さんのもとに駆け寄った。

刹那が地面に倒れ、静流婆さんが彼女の傷の手当てをしているのが見えた。

茜は息を切らしながら、刹那の様態を尋ねる。


「刹那は大丈夫?」


静流婆さんは一瞬、深くため息をついてから、刹那の状態を冷静に伝えた。


「おそらく内臓をやっておる。急いで運んだ方がいいじゃろうて…」


その言葉に、茜は一瞬凍りつくような気持ちになった。

内臓の損傷は命に関わる問題だ。

戦闘の最中、刹那のことが頭から離れなかった茜は、すぐにでも刹那を安全な場所へ運ばなければならないことを強く認識した。


茜はすぐに周囲を見渡し、皆の状況を確認する。


「摩耶、雪菜、葵、千鶴、沙耶…みんな、大丈夫よね?」


その言葉に、皆は少しずつ顔を上げ、弱々しいながらも頷いた。

疲れ切った表情をしているが、それぞれがどうにか持ちこたえている様子だ。


茜は刹那のもとに膝をついて、彼女を抱きかかえる。


「刹那、しっかりして、必ず助けるから。摩耶は葵をお願い。」


そう言って、茜は静流婆さんの指示通り、刹那を慎重に運び始める。


周囲の仲間たちは、まだ疲れ切った状態で茜を見守りながら、共に動き出す。




茜たちは、静かに巨大な門へと歩み寄った。

その周囲には、これまでのダンジョン探索とはまるで異なる、異様な空気が漂っていた。

全員が緊張を隠せず、互いに顔を見合わせながら、門をくぐる。


次の瞬間、目の前に広がったのは、一面に咲き誇る真っ赤な彼岸花の花畑だった。

圧倒されるほどの美しさだったが、その中に漂う切なさや悲しみが、一行の胸を強く締め付けた。


挿絵(By みてみん)


「ここは…」


誰かが小声で問いかける。

茜は周囲を見渡しながら、静かに答えた。


此岸しがんね…。」


その言葉に一同は顔を曇らせる。

通常ならば、このダンジョンを攻略した探索者は、最後に「彼岸」へとたどり着き、祠に手を合わせることで現世に戻る。それが、死者を供養し、別れを告げる意味を持つ儀式だ。


だが、今回は違った。茜たちは「此岸」に戻されていた。


茜、静流婆さん、そして摩耶は、その理由を察した。

刀祢という男によって持ち去られたのがなんだったのかを。

だから本来、彼岸にたどり着くべき茜たちは此岸へと追い返されたのだと。

だが、残りの仲間たちには何も告げず、茜たちは無言のまま先に進むしかなかった。


真っ赤な花畑。

茜たちは一列になり、彼岸花が咲き乱れる道を進んだ。

その花々は美しいというよりも、不気味なほど鮮やかだった。

足元の花を踏むたび、柔らかな感触が靴越しに伝わる。

それがまるで血の上を歩いているようで、誰もが言葉を失っていた。


誰もが無言のまま、花畑の中を歩き続ける。

その光景は美しいはずなのに、悲しみと虚しさを感じさせるものだった。


しばらくして、視界が開け、茜たちは賽の河原にたどり着いた。

そこでは、子供たちの幽鬼が泣きながら小さな石を積み上げていた。

しかし、その積み石は鬼の幽鬼によって無慈悲に崩され続けている。


子供たちは泣き叫びながらも、何度も何度も石を積み上げようとする。

それでも鬼の幽鬼は楽しげな笑みを浮かべ、積み上がった石を次々と崩していく。


その光景を目の当たりにした一行は、言葉を失った。


「なんて、悲しい場所なの…。」


千鶴が震える声で呟いた。

その声に答えるように、静流婆さんが低く呟く。


「これが賽の河原じゃ…。儂らがここに来ること自体が異常だというのに…。」


茜は無言のまま祠に歩み寄り、石を一つ拾い上げた。

そして、それを祠の前にそっと置く。

その動きに他の者たちも続き、全員がそれぞれ石を積み上げていった。


積み上げ終えると、茜たちは祠の前に手を合わせた。

だが、茜の心には複雑な感情が渦巻いていた。


「本来なら、ここで別れを告げるはずだったのに…。」


祈りを捧げながら、茜は心の中でそう呟いた。

静流婆さんも摩耶も、無言でその思いに同意しているかのようだった。


手を合わせた瞬間、辺りは白い光に包まれた。

茜たちは一瞬目を閉じ、次に目を開けた時にはダンジョンの入り口に戻っていた。


「戻った…?」


千鶴が呆然と呟く。

その視線の先には、入口の近くに積み上げられた石が見える。

それは、茜たちが祠の前に置いた石と同じ数だった。


「祠の積み石が…ここに?」


千鶴が言葉を紡ぐが、その意味を理解できたのは茜、静流婆さん、そして摩耶だけだった。

彼女たちは互いに視線を交わしたが、何も言葉にしなかった。


「急いで病院の手配をして。葵と刹那を運ばないと。」


茜の指示で一同はすぐに動き出した。

幽鬼との激しい戦いで、刹那は深刻な傷を負い、葵も命を繋ぎ止めるのがやっとの状態だった。

茜たちは迅速に準備を整え、二人を病院へと運び出した。


道中、茜の心には一つの疑念が残っていた。


彼岸で葵の魂を取り戻すには、どうすればいいのかと……


それを語ることはできなかったが、茜の胸には、葵を取り戻すために戦う覚悟が静かに燃えていた。






刀祢は、茜たちとの激しい戦闘の末、葵の魂を奪い去った。

漆黒の珠と化したその魂を懐にしまい込み、彼は悠々と戦場を後にした。

刀祢の足取りには、一片の迷いも疲労もない。

まるでこの結果が当然であったかのように。


やがて刀祢がたどり着いたのは、夜の闇に浮かぶ妖艶な遊郭街だった。

かつて人間たちが行き交い、賑わっていたこの色街は、今や幽鬼たちの巣窟と化していた。

通りには、華やかな着物に身を包んだ花魁の幽鬼たちが立ち並び、男を誘うような仕草で笑みを浮かべている。


挿絵(By みてみん)


刀祢はその中をゆっくりと歩き、一際豪華な遊郭の前で立ち止まる。

朱塗りの扉を開け、内部に足を踏み入れると、そこは豪華絢爛な空間が広がっていた。

金箔が施された柱、豪華絢爛な屏風、そして床には深紅の絨毯が敷き詰められている。


迷うことなく階段を登り、最上階の一室に入ると、妖艶な声が彼を迎えた。


「お帰りやす。」


その声の主は、部屋の奥に佇む花魁の幽鬼だった。

彼女の姿は、普通の幽鬼とは一線を画していた。

絢爛豪華な着物に包まれたその姿は、この遊郭街の頂点に君臨する存在そのものだった。

黒髪は艶やかに整えられ、色香が漂う美しい姿態、紅を引いた唇は微笑みを浮かべながらも、目には計り知れない力を秘めている。


挿絵(By みてみん)



刀祢は部屋の中央まで歩み寄り、無造作に懐から黒い珠を取り出した。


「あぁ、言われた通り、持って帰ってきたぞ。」


彼が手の中に握りしめていた珠は、闇を閉じ込めたかのような漆黒の輝きを放っていた。

脈動するように震え、珠の内部では、何かが蠢いているようだった。


「えらく穢れてありんすねぇ~魂だけかえ?」


花魁は、手の中で珠を転がしながら、艶やかに微笑む。

その声には、冷たく残酷な響きが含まれていた。


刀祢は腕を組み、眉をひそめながら答える。


「いや、抜き取った時は白かったんだが、こいつ…途中でこんなふうに変わりやがった。」


「ほぉ…。」


花魁は興味深げに珠を覗き込む。

その目は妖しく輝き、珠の中に隠された秘密を見抜こうとしているかのようだった。


「これは、えらく珍しゅうござんす。魂がこんなに穢れるとは…ただの呪いじゃありんせんねぇ。これは…宿命のようなものでありんしょうかえ…」


「好きに分析でも解呪でもしろ。だが、俺の時間を無駄にするな。」


刀祢は花魁にそう言い放つと、部屋の隅にある座布団に腰を下ろした。

彼の声には、どこか苛立ちが感じられた。


花魁は珠を手の中で回しながら、妖艶な笑みを浮かべる。


「この魂…どう調理いたしましょうかねぇ。これほど穢れたもの、適当に扱うのは勿体のうござんす。」


「それがお前の仕事だろう。余計なことは聞くな。」


刀祢は冷たく言い放ち、目を閉じる。



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