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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
禍根の道 ~序章~ 〈共和国入国編〉
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第六十七歩 【議会に響く声】

 馬車から降りた俺たちは護衛――というよりも監視の下で議会の真中へと連れてこられた。

 広い会議場はまだ閑散としていて、議員たちの姿は見えない。

 聞けば議会が始まるまで少し時間があるのだとか――


「フェルたちは大きいままで良いの?」


「あぁ、というよりもこの議会にも魔法陣が貼られていて小さくなれないんだってさ。まぁ、議会に収まるくらいは調節させてもらってるらしいけど」


 本来の体躯であればフェルはともかく、水も必要とするメガロの体積で議場が埋まってしまうからな。

 そもそも、二人の圧迫感が強すぎてこっちが参ってしまいそうだ。

 そんなことを考えていると頭上の水晶玉が輝きだし、議員たちの忽然と姿が現れ始めた。


「お待たせして申し訳なかったわね」


 透き通った声がしたと思い。顔を上げると中央の一番高い席には蒼髪の女性が座っていた。

 リンと対極――海のような深い蒼髪と瞳はどこか妖艶な雰囲気を感じる。


「これより、臨時共和国議会を始めます! 以降は偽りなき言葉で共和国の為に発言することを!」


「「「共和国の民に誓って!」」」


 議員たちは女性の掛け声とともに立ち上がり胸に手を当ててそう宣言する。

 これが議会開始の合図なのだろう。


「異界からのお客人、此度は議会への招待に応じてくださり感謝いたします。私は共和国議会第十二代目議長を務めております。レイラ・シュードルと申します。以後お見知りおきを」


 俺は思わず返事をしようとしたが、バーンに止められた。


「こっち側は聞かれたこと以外は議長の許可なく発言するのは好ましくねぇんだぜ。どうしても言いたいことがある時は議長にお伺いを立ててからにしろってことよ」


 バーンの耳打ちが終わった辺りで議長の横に座っていた若い女性が紙を広げた。


「貴殿、異界人のサワタリ ルイとその一行に違いありませんか?」


 俺が呆けているとバーンが脇腹を突き、ハッとして立ち上がる。


「は、はい。私が沢渡 類です!」


「あなたにいくつか質問がありますが、よろしいでしょうか?」


 議員たちの視線がより一層俺に集中してくる。

 凄まじいプレッシャーに押し潰されそうだ。


「あなたが王国と敵対し、王国が管理していた異界人を共和国内に飛ばしたという事は真実ですか?」


 まるで裁判の尋問の様な質問だなと思いつつ、俺はそこまでに至る経緯を話す。

 共和国に転送先が開かれていたことは知らなかったという呈でだが――


「――なので、結果的に王国と敵対したという事になってしまいましたが、王国に捕らえられていた異界人たちを救出することが目的だったのです。だから、私達はどこにも敵対する意思はありません」


 そう答えた後、議会内はしばらく騒めいた。

 俺の言葉に頷く者、疑念を持ち周囲と意見を交わす者と様々であったが、その騒めきは急に掻き消えることになる。


「フンッ! 世迷言を抜かせ!」


 議会に響いた怒鳴り声に周囲の視線が俺から一人の老人に移る。

 その男は勲章を携えた軍服を身に纏っており、俺たちを真っ向から睨みつけていた。


「バルジ将軍、また無断で発言を――」


「馬鹿馬鹿しくて聞いておられぬ! それだけの力を持ちながらどことも敵対する意思がないなどと大ボラを吹きよって……貴様らが王宮内で暴れまわり、王国に未だかつてない混乱を招いたことは明白である! その力を共和国にために役立てよ! 貴様らの意思がどうあれ、王国と敵対した貴様らに残された道はそれしかないのだ!」


 バルジと呼ばれた老人はそう言って俺を指す。


「貴様、この共和国の為にその力を使うというのならば、魔獣どもを使役する貴様にはそれ相応の待遇を考えてやるぞ! 我らの軍門へと下り、その力を振るうが良い!」


 ガハハハと大口を開けて笑いながらふてぶてしく宣言するバルジを見て俺も気分が悪いが、後ろの魔獣たちからはそれ以上の怒気が漂ってくる。

 しかし、バルジの主張に拍手するものは極少数で、それ以外はバルジを睨みつけている所を見るとどうやら議会の総意では無い様だ。


「バルジ将軍、先程の決議を無視した発言――とても許されることではありませんよ」


 議長が警告してもバルジの暴走は止まらない。

 俺たちに視線を戻したバルジは身を乗り出しながら続ける。


「彼らが我々の力になると望むならば先程の決議に違反はしておりませぬぞ! わしはその条件を提示しているにすぎない。どうだ? 異界人、こちらでの裕福な生活を保障してやるぞ? 他に望みはあるか?」


 俺はバルジの言葉を聞き流しながら、レイラ議長に向かって手を挙げた。


「私から皆さんにお伝えしておきたいことがあります。発言を許していただけますでしょうか?」


「ルイ殿、発言を許します」


 議長は大きく頷くと従者の女性に命じ、俺の下へ水晶玉を持ってこさせた。


「その水晶玉に手を置きながら発言してください。あなたの言葉は記録され、もし虚偽の発言をすれば水晶が反応しますので、くれぐれも偽りなき発言を――」


 俺は従者に促され、水晶に手を置く。

 周囲の視線が注がれる中、バルジ将軍という老人に一礼した。


「バルジ将軍、先のご提案はとてもありがたく思います」


「おぉ! ならば――」


「しかし、私はあなた方の戦力になることはできません」


「何だと!?」


 俺が発した言葉にバルジ将軍は憤慨し、机に拳を叩きつけた。


「何が不満だというのだ! 望みがあるなら言ってみよ!」


「あなたは魔獣たち(彼ら)を戦力として考えているようですが、人間同士の争いに彼らを巻き込む気はありません。それに、俺がそれを受け入れたら彼らは私から去るでしょう」


「去るだと!? 使役している魔獣を逃がすというのか!」


「あなた達は勘違いしている! 俺に魔獣を使役する力など無い! それでもここに彼らがいてくれるのは俺が自分の信念の下で彼らに恥じないような道を歩んできたからです。だから俺は、人間同士の争いに彼らを巻き込むような真似は死んでもしない!」


 俺がそう宣言すると横にいたコタロウが静かに目を閉じ、俺たちの領域が議会上に広がっていくような感覚がする。

 フェルたちもそれを感じたのかゆっくりと身体を起こし、鋭い視線を議員たちに振りまいた。


「また世迷言を言いよって! 異界人がわしを――」


 わなわなと身体を震わし、バルジ将軍が叫ぼうとした時威圧を纏った声がそれを遮った。


「我らは――」


 フェルは議会の中央に座す議長をまっすぐ見据えながら声を発した。

 自分たちの耳に魔獣の声が響くとそれまでざわついていた議員たちは自分たちの耳を疑うように静まり返った。


「我らは人間同士のくだらん争いに手を貸すつもりはない」


「俺たちは自分の意思でルイ(こいつ)に付いて来たんだ! それはこれからも変わんねぇ!」


「進むべき道は自分で決める。誰かの下について動くなんざ不死鳥のやることじゃないね!」


 魔獣たちの言葉に俺も頷き、前へと向き直る。


「これが俺たちの意思です! だから、共和国の軍部に下ることもあなた方の戦力になることも俺にはできない。どうかご理解ください」


 深々と頭を下げる俺に議長は頷き、興奮するバルジ将軍を着座させる。


「結論は出たようですね。彼らは軍部には組み込まず、共和国法に基づく自由な行動を保障するものとします。共和国内での詳細な規則に関しては私から直に説明しましょう」


 議長はそう宣言し、議員たちは頭を下げる。

 バルジ将軍も苦々しい顔で俺たちを睨んでいたが少し遅れて議長の言葉を了承した。

 その後は形式的な質疑応答と宣誓はあったものの、穏やかに議会は幕を閉じたのだった。

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